みなさんの会社ではマニュアルを作成しているであろうか。また、どのように管理しているであろうか。たとえその有用性を分かっていても、日々の業務に追われていると作成も管理も後回しになりがちである。そのような多忙な中でも、マニュアルの作成と管理および使用をサポートしてくれるツールが〈マニュアル作成ツール〉である。
本記事では〈マニュアル作成ツール〉の導入で何ができるのか、ツールの種類や効果、選定のポイントなどを確認する。
マニュアルと〈マニュアル作成ツール〉
なぜ企業や業務においてマニュアルが必要なのであろうか。それは業務の効率化に直結するからである。マニュアルを用意し、継続的な運用を行えば、「業務や知識の属人化の防止」「業務の質の統一」「教育の効率化」といった効果が期待できる。なお、マニュアルの作り方について詳しく知りたい場合は、次の記事を確認してほしい。
そのようなマニュアル作成に特化したツールが〈マニュアル作成ツール〉である。WordやPowerPointといった、文書作成やスライド作成のためのソフトとは異なる。このツールはマニュアルに関する作業を簡易化し、マニュアルでの業務改善を行っていく上で大きな力になってくれるものである。
紙やデータより〈マニュアル作成ツール〉が便利な理由
マニュアル作成において考えるべきことは多い。例えば「マニュアルをどのような形式にするか」によって、その使いやすさは大きく変わってくる。また、マニュアルは作成だけでなく継続的な管理が必須となる。それが足りていないと「マニュアルを用意していても活用されない」「最新情報を反映できていない」という事態に陥ってしまう。そのように悩みの尽きないマニュアルの作成・管理・使用を補助してくれるものが〈マニュアル作成ツール〉なのである。
作成が楽になる
紙やデータでマニュアルを作るとき、どのような形にするかを考えなくてはならない。形はマニュアルの良し悪しを決定する重要な要素である。それが使いにくいものであれば、どんなに内容がよくても使用されなくなる場合もある。〈マニュアル作成ツール〉には形があらかじめ設定されている。どのような形にするかを検討し作成する手間が省ける上、使いやすいマニュアルにできるであろう。
管理が楽になる
マニュアルの内容を更新した場合、使用しているマニュアルと取り替えなくてはならない。当然、情報の更新と現場の対応にはタイムラグが発生する。旧版を回収しそこねた場合には、新しい情報と古い情報が混在してしまう可能性もある。〈マニュアル作成ツール〉は、各人がツール内の情報にアクセスして確認する。ツール内の情報を書き換えるだけで更新できるため、配布と回収の手間を省いてくれる。
使用が楽になる
マニュアルは情報量が多ければ多いほど、質量・データ量ともに大きく重たくなりがちである。しかし〈マニュアル作成ツール〉はケータイやタブレット、パソコンから確認するため、情報量に比例してマニュアルが大きく重くなることはない。場所を問わず、すぐにマニュアルを確認できるのである。
〈マニュアル作成ツール〉の選び方
現在、数多くの〈マニュアル作成ツール〉が提供されている。その中から自社に合った1つを選ぶためには「種類ごとの特徴を把握すること」、そして「導入の目的と合ったものを選ぶこと」が重要である。
業務の判断基準を明確にするためのマニュアルと、動き方をわかりやすく教えるためのマニュアルでは、導入する〈マニュアル作成ツール〉も変わってくる。前者ならば、判断基準や目安を示すためにテキストや画像でわかりやすく表示できるものが優先されるであろう。そして後者ならば、動画を挿入できる機能が付いたものが望ましいであろう。目的ごとに優先される機能は異なるのである。
また、閲覧する人が多国籍ならば多言語対応のものや画像・映像が挿入できるものが望ましい。ITリテラシーが低い人ならばUIがシンプルで操作が簡単なものがよいであろう。このように、業務マニュアルの目的や利用者、さらには業務内容によっても、適切なツールは変わってくる。それらを確認した上で、自社の状況にあった〈マニュアル作成ツール〉を選定するのである。
〈マニュアル作成ツール〉徹底解説
まずは〈マニュアル作成ツール〉について確認しよう。現在、提供されている〈マニュアル作成ツール〉は、商品によって詳細や特化している内容は異なるものの、次の4種類に分けられる。
テキスト型
営業職 | ★★★☆☆ |
事務職 | ★★★☆☆ |
サービス職 | ★★★☆☆ |
技術職 | ★★★☆☆ |
「テキスト型」は、文章をメインとしたマニュアルを作成するツールである。手順やフォーマットに沿って内容を入力していくだけで、一般的なマニュアルを簡単に作成できる。ツールによっては、章節項の多階層構造の設定や、画像や図表の取り込みもできるため、業務全体の流れや必要情報が一目で分かるマニュアルにすることができる。どのような職種にも導入しやすい〈マニュアル作成ツール〉である。
機能
テキスト挿入、画像挿入、出力機能、バージョン管理機能、など
メリット
- 作業にあたりながらでも、必要な情報をすぐ確認することができる。
- 目次やインデックス、図表、フロー図などを入れることによって、業務全体の流れを分かりやすく示せる。
- 図表やチェック項目などが入れられるため、一目で情報がわかるマニュアルが作れる。
デメリット
- 作成には文章スキルが必要である。文章で伝わりにくい情報は、伝えるための工夫をしなくてはならない。
- 文章を読み慣れない人にとっては使いづらい。
- 目次の精度によっては情報が見つかりにくくなる。
効果的な使い方
- 一目で情報把握ができるため、「電話口対応マニュアル」など、業務にあたりながら確認してほしい場合に有用である。
- 画像を掲載できるため、従業員にチェックシートやフロー図などを確認させることができる。
- 自社で使っている紙のマニュアルをデータ化して、管理を楽にしたい場合に有用である。
- クラウド上で散らかっている電子データのマニュアルを一括管理できる。
使用上の注意点
文章が冗長で分かりにくいものだと、最後まで読んでもらえない可能性もある。文章は必ず簡潔に書き、適度に画像や図表で補足しながら、読みやすいマニュアルを心がける。
動画型
営業職 | ★★☆☆☆ |
事務職 | ★☆☆☆☆ |
サービス職 | ★★★★★ |
技術職 | ★★★★★ |
映像をベースとしたマニュアルを作成するツールである。ツールの中に動画を取り込み、動画編集や解説の付与を行って作成する。テキストでは伝わりづらい、動きや表情などの情報が解説できるので、サービス職や技術職に向いている。また、ツールによっては音声を字幕化するものや自動翻訳を行うものもある。どの従業員にとっても分かりやすいマニュアルを作成することができるであろう。
機能
動画編集、音声合成、字幕作成、翻訳機能、など
メリット
- 動き方やスピード、モノの変化や声のトーンなど、操作や動作に関する情報を表現できる。
- 文章を読むことに慣れていない人にも理解しやすいマニュアルにできる。
- 説明が難しい内容も、数分の動画で表現することができる。
- 知ってほしいこと、考えてほしいことによって、講義形式やドキュメンタリー形式などさまざまな表現ができる。
デメリット
- 視聴に時間がかかり、物によっては音声が出るため、業務中に確認することが難しい。
- 作業内容によっては、1度の再生で理解できない場合もある。作業と動画確認の繰り返しが発生する場合がある。
- 特定の項目を確認したいときに、すぐに情報にたどり着けず時間がかかることがある。
- 素材となる動画を用意し、編集しなくてはならない。撮影・編集のスキルが要求され、手間がかかる。
効果的な使い方
- 学生アルバイトなど、マニュアルを読むことに慣れない人に情報を伝えたいときに有用である。
- 母語が日本語以外の人に情報を伝えたいときに、視覚的に分かりやすいマニュアルを作成できる。また、音声や字幕で補助も可能である。
使用上の注意点
動画の画質が低ければ見づらいものとなるが、画質が高ければデータが重くなり通信料がかかる。マニュアルとして使いやすい画質を考慮した上で動画素材を用意する。また、視聴者に飽きられずに最後まで見てもらうためには、伝えたい情報をすべて詰め込まず、なるべく短時間・必要項目のみの動画を作成することが大切である。しかし、動画をカットしすぎると、情報が伝わりにくいこともある。動画として適切な長さと、わかりやすさを検討した上で動画編集を行う。
業務中の確認を促すためには、さらに視聴に時間がかからない専用の動画を用意する必要がある。 利用者の習熟度や業務の難易度が異なる場合には、それごとに動画を作成することで段階的な理解を促す。そうすれば、どの人にとっても分かりやすく理解しやすいものになるであろう。
ナレッジ共有型
営業職 | ★★★★☆ |
事務職 | ★★★★☆ |
サービス職 | ★☆☆☆☆ |
技術職 | ★★☆☆☆ |
個人が持つ知識や経験、ノウハウなどのナレッジを共有し管理することに特化したツールである。特定の担当者がマニュアルを作成するのではなく、各人がツールに業務方法や議事録などを投稿することで、情報を共有・蓄積していく。投稿内容は分類や検索などが可能である。そのため、メールや〈チャットツール〉のように即時的な情報共有ができるが、情報が埋もれていくことはない。個人での活動が主になる営業職に導入すれば大きな効果が期待できるであろう。また、文書情報を扱う事務職などにも向いているツールである。
機能
投稿機能、検索機能、コメント機能、閲覧制限、など
メリット
- 他の〈マニュアル作成ツール〉では拾いにくいイレギュラーな事例まで残せる。
- 社員同士で質問や回答のやり取りもできるため、社内コミュニケーションの活性化にも繋がる。
- 各人が情報を投稿するため、最新情報も集積され共有される。
- 作成者を立てなくていいため、マニュアルのために時間を割く必要が減少する。
デメリット
- 各人の投稿によってナレッジを蓄積するため、目的に沿った方向性のあるマニュアルは作れない。
- 人によって書き方や内容の粒度がばらけがちである。
- 業務全体の流れが見えづらい。
- 従業員がノウハウを共有したがらない場合や、時間がないために情報を共有しない場合がある。従業員全体の協力がなければ活用は難しい。
効果的な使い方
- シフト間の業務の引継ぎや議事録の管理など、日々の業務状況を共有することで、同時にナレッジとして蓄積できる。
- リモートワークなどでチームや部署間の状況が把握しづらい場合に、最新の情報を共有しあうことで社内コミュニケーションが活発化できる。
使用上の注意点
マニュアルを作って運用するツールではなく、各人に情報の共有と蓄積を促すツールである。そのため、人によって投稿内容の用語や投稿記事の基準、内容のクオリティに差が出ることもあるであろう。場合によっては、投稿される内容に誤りがある場合や主観的な意見が掲載されることもある。また、各人が情報共有をする意思がなければナレッジは蓄積されない。ある程度の記述・投稿ルールを設けておく必要がある。
キャプチャー型
営業職 | ★☆☆☆☆ |
事務職 | ★★★★☆ |
サービス職 | ★☆☆☆☆ |
技術職 | ★★☆☆☆ |
パソコン上で操作した内容を自動で記録してマニュアル化するツールである。マニュアルを作成するにはいつもの作業を行うだけで良い。そうすることで作業内容が自動で画像化・動画化される。ツールによってはテキストや音声まで自動生成するものもある。そのため作成作業が高速化するだけでなく、業務手順のヒヤリングの手間や時間も大幅に削減できる。事務職など、パソコンを使う業務に向いているツールである。
機能
作業キャプチャ、操作内容テキスト表示、音声・動画取り込み・動画編集、など
メリット
- マニュアル作成にかかる作業を大幅に効率化できる。
- 業務の手順を1つずつ記録してくれるため、作業手順を丁寧に伝えるマニュアルが作成できる。
- 文章を読むことに慣れていない人にも理解しやすい視覚的なマニュアルにできる。
デメリット
- パソコン上の作業でない場合は作業を記録することができない。その場合は「動画型」と同じく録画した映像を編集してマニュアル作成することになるため、映像スキルが要求され手間がかかる。
- 他の〈マニュアル作成ツール〉と比べると導入・使用にコストがかかる。
効果的な使い方
- パソコン上で行う作業を効率的に可視化できるため、他のITツールのマニュアル・手順書を作成することに向いている。
- 担当者が定年や異動などで業務を離れることになっても、その前に作業を行ってもらえば、マニュアルを完成させることができる。
- パソコン上の作業手順を1つずつ記録するため、ITが苦手な人や業務に慣れていない人に向けた教育コンテンツの作成にも利用可能である。
利用上の注意点
パソコン上の業務を記録していくため、ムダな行動をとってしまうと、それも手順として認識されてしまう。あらかじめどのように作業を進めるかを整理した上で行えば、編集作業での手間を減らすことができる。パソコン外の業務をマニュアル化する時は「動画型」と同様である。どのようなマニュアルにするかを決めた上で、必要な映像を用意しなくてはならない。
ツール選定のポイント
〈マニュアル作成ツール〉の種類が分かったら、次は自社が重要視するポイントについて確認しよう。ここでは、ツールを選ぶときに重要視される主なポイントから、オススメの〈マニュアル作成ツール〉を紹介する。
ツール選定の観点 | テキスト型 | 動画型 | ナレッジ共有型 | キャプチャー型 |
---|---|---|---|---|
業務の流れを把握させる | 〇 | |||
動作スキルを習得させる | 〇 | |||
反復確認できる | △ | 〇 | △ | |
ITツール操作を習得させる | △ | △ | △ | 〇 |
些細な知識も蓄積する | △ | 〇 | ||
紙媒体で運用する | 〇 | |||
コミュニケーションを活性化する | 〇 | |||
マニュアル作成を高速化する | 〇 | |||
紙マニュアルを移行する | 〇 | △ |
作成 株式会社デジタルボックス
業務の品質を高める
次の項目を満たす〈マニュアル作成ツール〉は、業務の品質を高めてくれる。
- 業務の流れを把握させる
- 動作スキルを習得させる
- 反復確認できる
- ITツール操作を習得させる
- 些細な知識も蓄積する
作業工程が分かっても、業務全体の流れは掴みにくいものである。自分の業務が他の業務とどのように結びついているのか、この工程を何のために行っているのかなどを把握させることで、全体の足並みが揃えられるようになる。「テキスト型」は、目次の設定やフロー図などの挿入により、業務全体の流れが分かりやすいマニュアルが作成できる。
挨拶や物の移動などといった動作にも、正しい動き方やコツなどがある。それを具体的で全員に伝わる情報にしなくてはならない場合もある。「持ち上げ方に気を付ける」という言葉では、何をどのようにすればいいか伝わらない。しかし「動画型」であれば、文字や写真では伝えづらい動き方や話し方などの情報も、具体的かつ分かりやすく伝えられる。また、一度で把握できなかったとしても、何度も再生して確認できるので、何度もお手本を見て理解を深めることもできる。
ITツールの操作マニュアルは、パソコンの画面上の操作がわかるように記さなくてはならない。どこのボタンを押すのか、など視覚的な情報があるとわかりやすいものになる。「キャプチャー型」であれば、パソコン上で行う作業を工程ごとに記録できる。手順や操作内容がわかりやすいマニュアルが作成できれば、複雑な操作が必要な業務も的確に行われるであろう。
些細な情報はマニュアルに反映されにくい。しかし、そのような情報はイレギュラーケースなどへの対応に役立つことがある。「ナレッジ共有型」であれば、個人が行っている業務方法や日々の業務状況などを、随時共有・蓄積することができる。些細なことや新しい情報も全体で把握できるようにすることで、業務の品質を高めることもできる。
なるべく費用をかけずに運用する
次のような〈マニュアル作成ツール〉は、コストを抑えた運用を可能にしてくれる。
- 紙媒体で運用する
- コミュニケーションを活性化する
従業員には紙媒体のマニュアルを使ってもらい、作成や更新作業でツールを使うという運用方法もある。そうすればインターネット環境の設置費用や人数分の端末の費用を削減できる。「テキスト型」には紙媒体に出力する機能を持つものがある。一般的なマニュアルが作れるため、印刷しても不便なく使え、費用を抑えることができる。
〈マニュアル作成ツール〉はマニュアル作成に特化しているため、他の業務には使用しづらい。しかし、各人の情報共有やコミュニケーションを取ることができるのが「ナレッジ共有型」である。メンバー間で質問や回答のやりとりが行えるため、コミュニケーションの向上が期待できる。〈マニュアル作成ツール〉としてだけでなくコミュニケーションツールとして併用することで、〈チャットツール〉を導入せずに済むであろう。また、マニュアル作成担当者を置かずに済むので、マニュアル作成の人件費を節約することができる。
スムーズにマニュアルを作成する
いち早くそしてスムーズにマニュアルを導入するには、次の項目を満たすものがオススメである。
- 紙のマニュアルを移行する
- マニュアル作成を高速化する
現在使っているマニュアルから〈マニュアル作成ツール〉へ移行すれば、管理や使用が楽になる。移行する手間や時間を取られないことを重要視しても良いが、移行を機に、自社のマニュアルについて考え直すのもよいであろう。「テキスト型」は一般的なマニュアルの形式をとっているため、そのまま移行しやすい。ツールによっては、データのインポートに対応したものもある。
マニュアル作成を高速化するためには、作成工程を少なくできるものがよい。行わなくてはならない作業を肩代わりしてくれるツールを考えるとよいであろう。「キャプチャー型」はパソコン上の作業内容を自動的に画像化・動画化してくれる。そのため、業務手順のヒアリングの手間と時間を大幅に削減できる。
なお、ツールの選定は「〈マニュアル作成ツール〉の選定ポイント」と「ITツール全般の選定ポイント」の両方を押さえる必要がある。ここでは「〈マニュアル作成ツール〉の選定ポイント」について確認した。「ITツール全般の選定ポイント」については、下記の記事を参照してほしい。
「マニュアルを作成したが誰も使っていない」「更新もされていない」そのようなマニュアルを、使われるものとするために〈マニュアル作成ツール〉は役立ってくれるであろう。確認してきたとおり〈マニュアル作成ツール〉はマニュアルの作成だけでなく、その使用と管理まで補助してくれる。分かりやすいだけでなく、常に新しい情報を反映し、業務にあった使いやすさを持つものへと変えてくれるのである。
もしマニュアルを作成してみようかと考えている、もしくはマニュアルについてお困りであるならば、〈マニュアル作成ツール〉の導入を検討してみるのもよいであろう。