業務環境の改善のために、マニュアルの新規導入・改訂を検討している人は多いでしょう。作成・改訂するのであれば「使われるもの」「効果があるもの」にしたいところです。
マニュアルは「方向性の設定」「業務の洗い出し」「マニュアルの作成」「マニュアルの使用と改訂」の流れで作ります。本記事ではその作成方法を徹底解説します。
マニュアル作成の準備
マニュアルの作成は多くの手順を踏む必要があります。そのため意外と起こりがちなのが、マニュアルが完成しないという失敗です。
「完成しない」という失敗
・通常業務の片手間で作ることになっている
業務をマニュアル化することは、通常業務の合間に行えるようなものではありません。どうしても通常業務が優先されて、マニュアル作成は後回しとなり、頓挫してしまうのです。
・1人で作る、もしくは各人で作ることになっている
1人で作る場合もマニュアル作成は後回しにされがちです。また、複数人が各々作成すれば表記も方向性もバラバラなものが出来上がってしまいます。
・作成のための詳細が決められていない
スケジューリングがなされていない場合も後回しにされがちです。また、目標が定められていなければ、記述する内容も方向性も定まらず、 マニュアル化する範囲は広がってしまいます。
「マニュアルの作成に乗り出したが完成しなかった」とならないためにも、マニュアル作成の準備には、次のことが必要です。
・現状の把握
・チームを作る
・マニュアルの目的・方向性を定める
・スケジュールを組む
マニュアルは業務の基準となるものです。作成するには、は業務手順を見直し、基準を定め、わかりやすくまとめる必要があります。誰かの業務方法をまとめただけでは、「〇〇さんの業務方法」という手順書が作られるだけで、それはマニュアルではありません。
教育コストの削減を目指すマニュアルと、業務ミスの削減を目指すマニュアルでは、内容が大きく変わってきます。マニュアルを作ることで何をしたいのか、目的や方向性を決めるのは必須です。さらに、質を保つためには複数人の協力を仰ぐことも大切です。そして完成までの期日を決めることで、全員が着実に作成していく体制を整えた上で作っていくのです。
現状の把握
マニュアル作りの前に、まずは現状の把握を行いましょう。マニュアル導入担当者を立て、その人を中心に現状と問題点に関する情報を集めていきます。具体的には、アンケートやヒアリングなどを行い、どんな要望があるか、改善しなくてはいけないことは何かを確認するのです。
また、すでにマニュアルがあるか、活用されているかについても併せて確認します。マニュアルをゼロから作成するのか、使われていない事情があるか、など現状を踏まえた対応策を考えるためです。
把握した現状をふまえて、マニュアルの大まかなイメージをつかみましょう。そのイメージを踏まえて、マニュアル作成のための準備を進めていくのです。
現状 | 店頭での作業が人によってばらばら 作業の効率が悪い |
問題点 | 人によって言うことが違う 教える仕組みがない |
目指すべき方向性 | 効率のいい業務手順やルールの設定が必要 新人教育に使える資料が必要 |
作成候補 | カウンター対応マニュアル 商品整理マニュアル お客様別対応マニュアル |
チームの結成
現状を把握したら、マニュアルチームを結成します。どの規模でマニュアルを作るかによって、結成される組織の形は変わってきます。
- 全社的に作成する
全社的に作成を行う場合には、作成を統括し推進する体制作りが必要です。プロジェクトや委員会のような組織を作り、関係する部門の代表メンバーを集めて発足します。マニュアルの場合は経営管理部門や業務を担当する部門が中心となるでしょう。
- 複数の部門で同時に作成する
複数の部門で同時に作る場合も、統括する組織が必要です。複数人で協力して作成していると書き方がばらけがちです。書き方や内容を確認する人を設定することで、まとまった1つのマニュアルが作れるようになります。
- 部門内で作成する
部門内でマニュアルを作成する場合や、いくつかの部門にまたがる業務のマニュアルを作成する場合は、成績優秀者を含むベテラン数人でチームを結成すると良い。実務や現場に詳しい人に携わってもらうことで、彼らのノウハウをマニュアルに蓄積させるのです。 また、マニュアル作成の担当者を決め、その人が成績優秀者やベテランにヒアリングする方法もあります。
- 人数を集められない
マニュアルの作成にどうしても人数を多く割けない場合もあるであろう。その場合は、作成したマニュアル案を関係者に配布し確認してもらう方法をとります。マニュアル案をもとに複数の人にヒアリングし、改善点を盛り込むことで、「〇〇さんの業務方法」となることを防ぐのです。
チーム結成の必要性
チーム結成のメリットは、次の3つがあります。たとえ組織を結成できない場合でも、複数人に協力してもらうのがベストです。
・マニュアルの質が高められる
・会社が推進する業務だと示せる
・マニュアル自体に力を持たせられる
・マニュアルの質が高められる
マニュアルの質を高められることです。複数人で確認しあえば気づけることも多く、さらなるアイデアが生まれることもあります。 多くの人にとって使いやすいマニュアルの作成には、 複数人の協力が必要です。
・会社が推進する業務だと示せる
マニュアルが完成しない理由に「通常業務の片手間で作ることになっている」というものがあります。これは業務量の問題だけでなく、作成者に「優先順位が高くない業務」として認識されている点も問題です。
組織を結成すれば、 通常業務の片手間に行うものでないと自覚してもらうことに繋がる。同時に、会社が推進する業務に関わっていると周囲にも認識してもらうことで、作成活動を行いやすくなるという効果もある。
・マニュアル自体に力を持たせられる
「マニュアルを作っているらしい」「新人向けのものだろう」と、自分には関係ないと思っている人が多いほど、出来上がったマニュアルは使われないでしょう。
組織を結成し、マニュアルの存在を導入前から伝えていくことで、また、複数人でマニュアル作りに携わってもらうことで、マニュアルはすべての人に関わるものだと認識してもらうのです。それによってマニュアルを導入・使用する体制が整えられます。
方向性の決定
マニュアルを検討した背景には、必ず解決したい問題があるはずです。その問題とは何かを明確にし、作成するマニュアルの方向性を定めます。ここで決めることは、マニュアルの「目的」「業務範囲(スコープ)」「内容」「対象範囲」です。
マニュアルの目的
「現状の把握」の段階で作ったイメージを基に、チームで意見を出していきます。マニュアルで解決したい現状を洗い出し、絞り込むことで目的を設定するのです。
ここで定めた目的はマニュアルの土台となります。これをチームが共有することで、統一感のあるマニュアルが作れるようになります。現在の業務をただまとめるだけでなく、目的を達成するためのマニュアルを作成するんだという意識を共有することにも繋がります。
対象となる業務範囲
すべての業務をマニュアル化しようとすると、多くの時間とコストがかかります。そのため、優先してマニュアルが必要な業務を選ばなくてはなりません。
どういった業務があるのかを業務一覧表で確認し、マニュアルが必要な業務をまとめます。まとめられた業務の中から、マニュアル作成対象を選定していきます。
例えば、目的が「業務の効率化」であれば、効率が悪い業務から優先して手を入れます。しかし、その業務が滅多に行われないものであれば、効率化を進めても成果は小さいかもしれません。目的に照らし合わせると同時に、成果を考えた上で選んでいきましょう。
マニュアルの内容
業務の対象範囲が決まったら、次にどのようなマニュアルにするかを考えていきます。ここで決めるのは次の3つでです。
・使用者 誰が使うマニュアルか
・習得内容 なにが習得できるか
・目標 使用者にどうなってほしいか
使用者や目標が違えば、書くべき内容も変わってきます。この3点を決めることで、どんな情報が必要か、どのように書いた方がいいのかといった、マニュアルの内容が決まります。
カバーする範囲
マニュアルで説明する範囲を設定します。例えば「来店されたお客様への対応」のマニュアルであれば、「来店時」のみに絞るのか「来店前・来店後の問い合わせ」も含めるのかを考えなくてはなりません。つまり、イレギュラーをどこまで反映させるのかを決めるのです。
対象範囲を広げすぎると、ボリュームは膨大になります。そうなると作成者にとっても使用者にとっても負担の大きいものとなってしまいます。 まずは重要な業務に絞って作成し、それが完了から次の作成に移るようにしましょう。
スケジュールの決定
冒頭で確認したとおり、マニュアル作りは後回しにされがちです。そのため作成スケジュールを必ず立てて、期限を明確にする必要があります。ここで確認すべき点は「いつまでにマニュアルが必要か」「作成にどれくらいの工数を割けるか」です。
スケジュールの設定は、次の2つの観点で行います。
・マニュアルを使う時期
・マニュアル作りに必要な工数と人材の数
・マニュアルを使う時期
例えば、新人研修で使用するマニュアルを作るのならば、新人が入社する前には完成していなければなりません。そのため3月中には完成するように、マニュアルを使用する時期を逆算して計画を行います。マイルストーンを設定すればわかりやすくなるでしょう。
・マニュアル作りに必要な工数と人材の数
通常業務が繁忙期に入ると、マニュアル作成に時間を割きづらくなるでしょう。 そのような時期を事前に見越した上で、作成に当たれる担当者と工数を見積もり、行うべきタスクごとに担当者・対応期間・成果物を含めた詳細なスケジュールを決めます。
また、マニュアル作成の進捗状況はチーム内で定期的に確認をしましょう。もし遅れが発生した場合は、フォローできるように整えておくと良いですよ。
情報の収集と整理
マニュアルの方向性を定めたら、業務に関する情報を集め、整理していきます。ここをうまくやらないと、マニュアルを作ったものの「読んでみても問題が解決されない」「問い合わせが減らない」という「わからない」マニュアルとなってしまいます。
「分からない」という失敗
・具体的な情報がない
「何を行えば完了なのか」「どうしたらNGなのか」といった具体的な情報がなければ、マニュアルを読んでも業務に活かせない。判断ができるようにならなければ、マニュアルは意味をなさない。
・業務手順に無駄が多い
書いてある内容に無駄が多ければ、マニュアルを読んだとしても自己流で動いてしまうであろう。業務がただまとめられただけで、そこに潜む問題や非効率がそのままのマニュアルは参照されなくなる。
「マニュアルを作ったけど分かりにくい」そんな失敗をしないためにも注意したいことは、情報の漏れやダブりをなくし、あいまいな情報を入れないことです。具体的には、次の2点を意識しましょう。
・明確で具体的な情報を集める
・業務に無駄があれば標準化する
マニュアルには「きれいに並べる」というあいまいな表現ではなく、「ラベルを前に向ける」「角を揃えて置く」などの具体的な情報を書くようにします。業務内容を調査するときにも、はっきりとした判断基準を集めるように意識します。
マニュアルは業務をまとめただけのものではありません。もし担当者によって業務方法が違う部分があれば、目的に沿って検討し標準化することが求められます。マニュアルに記す情報は、今後の業務の標準となるものなのです。
業務の調査
「作成の準備」で、目的・対象業務・読者・対象範囲といったマニュアルの方向性を決めたら、実際の業務内容の調査を行いましょう。具体的には、改善すると決めた業務内容について「タスクの種類」「タスクの詳細」の2点を確認していきます。
- タスクの種類
業務一覧を基に業務内容を分解して、タスクとしてどのような作業があるのかを明らかにします。
マニュアルの対象範囲を検討した段階で、「清掃業務」という業務項目や、その下にある「玄関清掃」「トイレ清掃」という項目までは洗い出せているでしょう。しかし「玄関清掃」には「マット清掃」「傘立て清掃」の業務があり、「傘立て清掃」は「溜まった水を捨てる」「ほこりを取る」などのタスクに分解できます。
ここでは業務項目を、手順となるタスクにまで分解していきます。
- タスクの詳細
業務をタスクに分解したら、その詳細を次の8点について押さえながら洗い出していきます。
どの段階で行うのか | 業務全体の流れの中での位置づけ、フロー |
どうなったら行うのか | 業務開始の判断基準、業務発生のタイミング、実施時期 |
誰が行うのか | 担当者、関係部署など |
何を目指すのか | 目的、理由、重要性、心構えなど |
どうやって行うのか | 手順、ポイント、コツ、準備しておくもの、使用ツールなど |
何をもって完了とするのか | 合否判定、達成基準 |
どれくらいで行うのか | 必要な時間、回数、頻度、標準のスピードなど |
気を付けることは何か | 業務を進める上での留意点、注意事項 |
株式会社デジタルボックス
ここで出た情報を基にマニュアルを組み立てていくので、丁寧に具体的に調査していきましょう。
実務者が行う場合
業務担当者自身が書き出す場合、実際に行っている業務を書き出していくことになります。この時に注意する点は、先に決めた「業務範囲」に沿って書き出すことです。記述しないと決めたイレギュラーな情報は扱わなくて大丈夫です。
思いつくままに業務を書き出していると、「タスクの種類」に漏れやダブりが生じやすくなります。大きな業務の構造やかたまりを洗い出してから、タスクごとに分解していくと考えやすくなります。その後、細かいタスクをあげていき、1つのかたまりにする方法も取れば、漏れやダブりが防げます。また、仕事のサイクルや時期に沿って洗い出していく方法もあります。
実務者以外が行う場合
マニュアル作成者が業務担当者にヒアリングを行って、情報をまとめる場合もあります。その場合には、下記のとおりに進めていきます。
なお、複数人が行っている業務を洗い出すときには、業務の代表者だけでなく複数人の作業の洗い出しが必要です。業務が属人化していると、一人を調査するだけでは浮かび上がらない工程もあります。また、担当者に思い込みがあるかもしれません。複数人に業務の手順を聞くことで、そのようなものをなるべく取り除いていきます。
- ヒアリングの準備
ヒアリングをスムーズに行うために、以下のことを用意しましょう。分からない場合には、必ず事前に管理者や責任者を通して確認しておきましょう。
・業務全体のアウトライン
・業務個々の概要
・ヒアリングシートの準備
・業務全体のアウトライン
業務の対象範囲や構造を確認します。たとえマニュアル化する範囲が業務の一部分だったとしても、業務の位置づけを知るためには全体を知らなくてはなりません。つまり「販売対応マニュアル」を作るのだとしても、「店舗接客」の中でどのような位置にあるのか、どのような役割なのかを把握することが大切なのです。
・業務個々の概要
業務の名称や概要、担当者、おおまかな流れ、方針などの基本情報を把握しましょう。その業務で何を行っているかを知った上でヒアリングに臨めば、各担当者の話がどのように繋がるのかがわかり、スムーズに話を聞き出すことができるでしょう。
・ヒアリングシートの準備
聞き漏らしの予防や、同じことを繰り返し尋ねることを避けるためにも、ヒアリングシートを用意しましょう。もしここで不備があると、作業担当者に何度も確かめなくてはならなくなり、場合によっては情報が欠けたマニュアルを作ってしまうことになります。そうならないためにもしっかりと整えて臨みます。
ヒアリング項目は、上記の「タスクの詳細」を踏まえて考えます。また、次の項目も含めれば、トラブルの発生を抑えられるマニュアルにできるでしょう。
通常の処理 | 問題が起きなかった場合の経路 |
対応が必要な処理 | イレギュラーが発生した場合の経路 |
危険がある項目 | 問題が起きる可能性があると感じている項目 |
ヒアリングシートは、マニュアル作成者がヒアリングをしながら記入して構いません。他にも、事前に業務担当者に配布して、記入されたものを回収する方法もあります。事前にヒアリングシートに記入してもらえば、業務担当者もヒアリングの方向性を理解した上で臨めますし、ヒアリングシートを回収・確認することで、マニュアル作成者も業務の詳細を把握した上で臨めるので、効率的なヒアリングに繋がります。
ヒアリングシートを自由記入の形にした場合、情報の整理が煩雑になってしまいます。また、業務担当者によって、ヒアリングシートに記入される内容の粒度やレベル感に違いが出てきてしまいます。一方で、回答内容を選択式にしたものならば情報はまとめやすいですが、マニュアル作成者が意図していなかった情報が漏れる可能性もあります。いずれの場合も、情報が抜けてしまわないように、疑問点をヒアリング時に解決できるように準備しましょう。
また、ヒアリングシートとあわせて業務フロー図を用意するのも良い方法です。ヒアリング時に業務の流れを視覚化したものがあれば、各業務のつながりも見えやすくなります。また、想定されるフローと異なる部分があれば、発見しやすくなります。より効率的なヒアリングになるのでおすすめです。
- ヒアリングの留意点
ヒアリングは作成したヒアリングシートを基に行います。ヒアリングシートを事前に配布・回収していた場合は、疑問点の解決や確認を中心に行っていきます。いずれの場合も、次のことをあらためて共有して、方向性を確認した上で進めていきましょう。
・何のマニュアルを作るのか
・どこで使うものか
・誰が使うものか
・なにを実現するのか
・何のマニュアルを作るのか
このヒアリングがどのようなマニュアルを作るためのものかを説明して、ヒアリング全体の方向性を合わせます。
・どこで使うものか
どこで使うマニュアルかによって適正な規格は変わってきます。作業中に見るものであればポケットに入るものがいい、図による解説があると確認しやすい、といった現場の意見が聞けるでしょう。
・誰が使うものか
新人向けのマニュアルを作るのであれば、書くべき項目や留意点も変わってきます。ヒアリング内容のレベル感を合わせるべく共有します。
・なにを実現するのか
マニュアルによって目指す目的を共有します。どういう作りなら希望に沿ったものになるのかを聞き出すことにも繋がります。
ヒアリングは複数の業務担当者に対して一度に行う場合と、一人ずつ個別に行う場合とがあります。一度に複数の担当者を集めて行えば時間の短縮になりますが、声の大きな担当者に全体が流される可能性もあるので、場合によっては隠れた業務をすくいあげることが難しくなります。
一方で、個別にヒアリングを行えばじっくりと話を聞くことができますが、ヒアリングにかかる日数は長くなります。いずれにしても、ヒアリング中は業務の手を止めることになります。マニュアル作成のスケジュールだけでなく、業務についても勘案した上でヒアリング方法を決定しましょう。
また、ヒアリングしていると情報は抽象的になりがちです。できる限り具体的で定量的な情報を収集することが大切です。場合によっては業務を見させてもらい、画像や写真を残しておくことがおすすめです。
情報の整理
業務の詳細を書き出せたら、または業務の詳細の書かれたヒアリングシートが出来上がったら、その内容を整理していきましょう。作業内容や手順を整理して、標準化することで、マニュアルの中身をまとめあげるのです。
情報を分析する
管理者に確認を取りながら、業務の細部を詰めていきます。管理者は業務のミスを減らしたいと考えていますが、現場では業務効率を考えてダブルチェックを省略していることもあるかもしれません。もし業務担当者と管理者との間に認識のズレがあれば、このタイミングで発見できるでしょう。業務担当者の間で作業方法に違いがあった場合も、同様にこのタイミングで確認します。
もし内容が煩雑な場合は、改めて業務の流れを業務フロー図に落とし込むと分かりやすくなります。業務の流れが視覚化できるので、認識のズレや非効率な作業を発見しやすくなります。マニュアルの目的に沿って考えたとき、不必要と思われる箇所や修正すべき箇所があるようでしたら、改善点を探る必要がでてきます。
作業を標準化する
もし担当者によって業務手順や方法に違いがある場合、または現在の方法よりもさらによい方法があると思われる場合や、 ヒアリングで「危険がある項目」として挙げられた項目を改善する場合には、作業内容を標準化する必要があります。その上で、マニュアルに記載する業務手順を確定し、正式な業務として設定していきます。このとき確定させることは次の3点です。
・作業の名前
作業に名前をつけます。他の作業と同じ名前がつかないように、また、同じ作業内容にもかかわらず別の名前がつかないように調整を行います。
・作業の手順
基準となる作業手順を決定します。基準を設定すると、イレギュラーについても設定・記述できるようになります。
・作業の範囲
この作業がどこからどこまでを対象にしているのかを明確にします。
マニュアルの設計
業務に関する情報の収集・整理ができたら、マニュアルを書いていきましょう。マニュアルを作っても「どこに書いてあるか見つからない」「読んでもよくわからない」という「使いにくい」マニュアルとなることがあります。すぐに知りたい情報が得られるマニュアルでなければ、自然と使われなくなってしまうでしょう。
収集した情報をただ書き並べただけでは、何が重要な情報かすら伝わらないものになってしまいます。また、複数人で作成にあたればページによって書き方が変わり、統一感の欠けるものになります。そのような事態を防ぎつつ、必要な情報にすぐアクセスできるものを作り上げなくてはならないのです。
「使いにくい」という失敗
・形が考慮されていない
出先ですぐに確認してほしいマニュアルが大きなファイルで作られていたら、マニュアルを持ち歩かず参照もしないでしょう。使用場面が想定されないまま作られたマニュアルは使われません。
・内容が読みにくい
書いた人によって記述方法が違うと、必要な情報がどこに書いてあるか分かりにくくなります。また、目で見て判断しなくてはならない業務が、すべて文字のみで書かれていては頭に入りにくいでしょう。
・内容が考慮されていない
新入社員向けのマニュアルが専門用語ばかりでは使い物にはなりません。想定される読者を考慮しなければ、中身を理解してもらえないものになります。
「マニュアルを作ったが使いにくいものになった」という失敗を避けるために、次のことに注意をしましょう。
・使用場面に合わせた形にする
・記述方法を統一し、理解しやすい工夫をする
・読者にあったものにする
例えば、その都度確認してほしい内容であれば、各人に配布するポケットサイズの冊子体や携帯・タブレットなどの端末から確認できるものが良いでしょう。このように業務や使い方によって適切な「マニュアルの形」を考えることが大切です。
また、内容は読者を考慮して書いていきます。情報を見つけやすい見出しや、あいまいでなく具体的な記述内容など「マニュアルの中身」についても工夫をすれば、自然と読者にとって使いやすいものになっていきます。どこで・だれが・どう使うかを考慮した上で作成することが大切なのです。
媒体・形態
マニュアルを書くために、まずはどのような形式をとるかを決めましょう。実際に使われるときのことを考えながら、媒体やフォーマットを決めていくのです。
すでに確認したとおり「形が考慮されていない」と分かりにくいマニュアルになります。マニュアルにとって形とは重要な要素です。それによって使いやすさが大きく変わってくるからです。媒体・形態は次の4つの観点から考えていきましょう。
・利用者が利用しやすいか
・管理しやすいか
・情報流出を防げるか
・伝えたい情報は何か
・利用者が利用しやすいか
重たいマニュアルは机がない場所では使いにくいものです。そのような場所では、片手に持ちながら確認できるように軽いものやコンパクトなものが合っています。インターネットが繋がる環境であればITツールやWebデータのものも使えます。片手に持ったタブレットやケータイで確認できるのです。
・管理しやすいか
複数のマニュアルを作るとき、最初に形態について決めておかないと、マニュアルごとにさまざまな形態のものが生まれてしまいます。そうならないためにも「配布するマニュアルの大きさはB5」といった一定の形式が必要です。また、マニュアルは随時更新されるものです。改訂のしやすさも加味して検討していきましょう。
・情報流出を防げるか
配布するマニュアルは各人に管理を任せることになるので、マニュアルの紛失や、場合によっては情報流出の恐れもあります。使用ルールの策定・徹底によって、そういった事態はある程度防ぐことはできるでしょう。使いやすさや対策などと勘案した上での決定が大切です。
・伝えたい情報は何か
業務の動き方やスピードを表現する場合は、動画が効果的です。どのような情報を的確に伝えたいか、どのように情報を補足するかによっても形は分かってきます。
画像 | 映像 | |
メリット | 視覚的にわかりやすく情報を伝える 媒体を選ばない | 視覚的にわかりやすく情報を伝える 動き方やスピード感なども伝えられる |
デメリット | 動き方やスピード感、話し方など、 特定の情報は伝えにくい | 紙のマニュアルには掲載できない 作成に手間がかかる |
向いている使用場面 | 資料の記入例、製品の不良例など | 調理方法、接客方法など |
フォーマット
媒体・形態が決まったら、次はマニュアル内のフォーマットを決めていきましょう。マニュアルを複数人で作成していると、フォーマットはバラバラになってしまいます。フォントの種類やサイズ、色やアンダーラインのルールなどを決め、文章や図をどのように配置するのかなどを決めると、統一感が出てマニュアルの読みやすさも向上します。
また、どこに何をどのように書くべきかが分かりやすくなるので、更新者も更新しやすいものとなります。なお、フォーマットも利用シーンや利用者によって決めていきます。
・使われ方は何か
・利用者は誰か
使用するシーンによって、適したフォーマットも異なります。例えば、電話口でマニュアルを見ながら顧客対応する場合は、すぐに情報を引き出せるようなフォーマットが望ましいです。分かりやすい注意書きがあれば、作業ミスの防止に繋がるでしょう。
新入社員が読むマニュアルなら、専門用語の注釈欄などを用意する配慮が必要です。また、マニュアルに慣れない学生アルバイトや母語が外国語の従業員が読む場合など、文字よりも図や映像などで視覚化した方が伝わりやすい場合もあります。
- フォーマットに必要な項目
すべての業務に共通して押さえておかなくてはならない項目は、フォーマットとして組み込むのがおすすめです。そうすれば書き洩らしが防げます。
すべての業務に共通して押さえておかなくてはならない項目
・何を目指すのか
・何をもって完了とするのか
・どうやって行うのか
・どのくらいで行うのか
共通して押さえておかなくてはならない項目とは、「情報の収集と整理」で書き出した「何を目指すのか」「何をもって完了とするのか」「どうやって行うのか」「どのくらいで行うのか」です。作業手順のみではマニュアル作成者の意図が正確に伝わらないこともあります。この4点を踏まえてはじめて正確な情報となります。
マニュアルのデザインはこだわりすぎると、かえって見づらくなってしまうことがあります。方法や手順を分かりやすく伝えるために、シンプルな作りにするよう心がけましょう。
また、特殊なツールで作成してしまうと、そのツールが扱える人にしか更新できないものとなってしまいます。マニュアル自体が属人化しないように、多くの人にとって使いやすいソフトで作成を行いましょう。
なお、フォーマットの作成が難しい場合は、テンプレートを配布しているサイトがあるので参照しましょう。テンプレートを用意すると、レイアウトにブレがなく分かりやすいマニュアルになります。また、マニュアル作成に特化したツールもあるので、利用の検討をおすすめします。
構成
マニュアルの内容は階層構造で並べるとわかりやすくなります。何の作業にどんなタスクがあるのかがはっきりするのです。それによって仕事の全体像が掴みやすくなり、情報が見つけやすくもなります。具体的には、情報の順番を決定していきます。それによってマニュアル全体の流れが決まります。
- 情報の順番
「情報の収集と整理」で、業務一覧を基に、業務(大項目)を内容ごとに分解し(中項目)、それぞれのタスク(小項目)を割り出しました。この情報をもとに、情報の順番を考えていきます。
まずは業務全体の流れをイメージしながら大項目から並べます。仕事の流れに沿って書かれていると理解しやすいので、時系列に並べるのがおすすめです。大項目の順番が決まったら、中項目、小項目と大きな項目から順番を決めていきます。小さな項目も時系列で並べると分かりやすくなります。
もし時系列に並べられない場合は、習得するべき順番や担当者ごとに分けるなど、一定のルールを決めて、それに従って配置しましょう。
マニュアルの作成
マニュアルの形を決めたら、次は中身を作り上げていきます。例えば、新商品紹介のブログ記事を投稿しようとマニュアルを開いたとき、次のような解説が書いてあったらどう思いますか?
ブログ記事を作成する(新商品を紹介する)
新商品紹介の記事を作成するときは、投稿画面の「記事の追加」を押して、記事投稿画面に入力します。「保存する」を押すと保存し、「投稿する」を押すと投稿できます。掲載する写真は、商品の色味が近いものを使用するようお願いします。なお、記事に次のような表現がないか注意してください。
・公開前の商品に関する記述
・人や傷つけるような記述
タスクや手順が書いてあるので、これを読めばブログ記事を作成して投稿できるかもしれません。しかし、実際に行う動作と注意点とが混在し、分かりにくいでしょう。この文章の難点は次の3点です。
- 長い文章で書かれている
- 行動と注意点が混在している
- 情報の順番に規則性がない
また、次のようなマニュアルはどうでしょうか?
店頭ディスプレイ
店頭ディスプレイには、マネキンコーディネートとポップの設置があります。現在展開している商品がどういったものかをお客様に伝え、入店していただくのが狙いです。
注意点
・マネキンコーディネートは、新商品とベーシック商品の両方を使って行います。新しいトレンド商品のみ、通常商品(ベーシック商品)のみとならないようにしてください。
手順
1. 在庫状況を確認する。在庫数が1以下のものは使用しない。
2. 新商品を選び、それに合う通年商品を選ぶ。
3. ***
この項目で何が解説されるのかが書いてあり、注意点や手順も分けて表記されているので、一見すると分かりやすく見えるかもしれません。しかし、この中で使われている「新商品」と「新しいトレンド商品」は同じものなのか、「ベーシック商品」とは何か、それらをどうやって確認するのかは分からないでしょう。
また、「店頭ディスプレイ」というタイトルから「ポップ」について知りたくて読んだ人は、欲しい情報が得られません。このマニュアルの難点は次の3つです。
- 見出しから内容が分かりにくい
- 用語の違いが分かりにくい
- 新商品を把握する方法や、在庫状況の確認方法が分からない
マニュアルは、それさえ読めば業務の標準や全体像がわかるというものですが、情報が書いてあればいいというものではありません。
マニュアルを読むと、たまに担当者や資料によって使う用語が違うことがあります。よくある事例とレアな事例が同列に並んでいることもあります。詳しい情報が必要ではありますが、情報が多すぎては、本当に伝えたい情報が埋もれてしまう可能性もあります。
「誰が読むのか」「どのような場面で使うのか」を考えて書くことが大切です。決して、情報全てをコピーアンドペーストで張り付ければいいというものではないのです。
記述方法
マニュアルの構成を定めたら、マニュアルのテーマと項目に沿って情報を記入していきます。もしも記入しづらいなと思ったら、その時は前段階でつまずいている可能性があります。情報整理や項目の精査をあらためて行い、作業の粒度と構成を見直してみましょう。
記述の心構え
マニュアルを記入するときの心構えは、次の3点に注意しましょう。
・完結に書く
・利用者を意識する
・具体的な表現にする
・簡潔に書く
詳しいマニュアル=良いマニュアルではありません。情報量をある程度絞って、ポイントをはっきりさせなければ、重要な部分が分かりにくくなってしまいます。ボリュームが増えすぎないように気を付けながら、わかりやすいマニュアルを目指していきましょう。もし情報の調節が難しいようなら、まずは具体的に書いてから、不必要な箇所を削っていきましょう。
・利用者を意識する
マニュアルはその業務にあたる全員が使うので、はじめてその業務にふれる人が読んでもわかるように書きましょう。そのため、専門用語や前提知識の説明が必要になるでしょう。さらに、目で見てわかる工夫も必要です。常に「どう書いたら、利用者が使いやすくてわかりやすいものになるか?」を考えながら書いていきましょう。
・具体的な表現にする
文章によっては、想定と違う意味で受け取られてしまう場合があります。そうならないために、誤解を生まない表現が必要です。あいまいな表現をせず、5W1Hを意識して、数値やデータで具体的に記載していきましょう。具体的に書くあまり、冗長な文章にならないように注意が必要です。
記述のポイント
マニュアルを書いていく上で押さえるポイントは次のとおりです。
・文脈に注意して書く
・行動まで落として書く
・注意点は先に書く
・執筆のルールやポイントを決めて書く
- 文脈に注意して書く
情報によっては、前段階を読んでいなくては分からないものや、次の段階の情報も合わせて確認してほしいといった前後の文脈を持つものがあります。しかし、マニュアルは最初から最後まで読まれるものではなく、必要なところだけ読まれることが多いものです。そのため、知っておいてほしい情報から並べて作っても、読者がそれを把握した上で読んでくれるとは限りません。
それまでの部分で書いたからと省略するのではなく、注意点やポイントなどは毎回書くようにしましょう。前段階を把握した上で読んでほしい内容であれば、その旨をページやリンクを添えて書くことが大切です。
- 行動まで落として書く
マニュアルの情報は誤読されてはなりません。誤読を防ぐには、複数の意味で捉えられないように書くだけでなく、情報を行動にまで落として書くことが大切です。「箱を移動させる」という記述も、人によっては片手で持ったり押して移動したりするでしょう。「両手で持って、棚の前に置く」とするだけで、取るべき行動が分かりやすいマニュアルになります。
- 注意点は先に書く
一般的に、マニュアルは時系列順に情報を書いていくことが多いものです。しかし、危険なポイントや注意が必要なことは先に書くようにしましょう。マニュアルを読みながら作業した場合に、危険なポイントが出てから身構えるのでは遅いものです。前もって、何に注意するべきなのかを知った上で読み進めてもらうことが大切です。
×「取っ手を持って移動してください。取っ手は熱いので、気をつけてください。」
〇「取っ手は熱くなっています。気を付けて取っ手を持ち、移動してください。」
- 執筆のルールやポイントを決めて書く
複数人で書き継ぐマニュアルは、書き方がバラバラになりやすいものです。個人のスキルや好みなどによるばらつきを防ぎ、全体の統一感や一貫性を出し、執筆や改訂作業をスムーズにするために、表現方法にもルールを設けるようにしましょう。
用語の使い方 |
---|
例:「ベーシック商品」「通年商品」と呼ばれる商品は、「通年商品」で統一する。 |
文体の使い方 |
---|
例:「ですます調」で書く。図のキャプションのみ「である調」で書く。 |
数字の使い方 |
---|
例:算用数字で書く。慣用語や熟語、固有名詞などに含まれる数字は漢数字で書く。 |
記号の使い方 |
---|
例:「「」」は引用、語句の強調などに使う。さらにその中に括弧を入れるときは「『』」を使う。 |
情報の配置の方法 |
---|
例:各項目は、見出し・目的・概要・注意点・作業手順・参考ページの順で書く。 |
ライティングテクニック
・ボタンを表すときは、[]などのかっこを付ける
操作を解説する場合、ボタン名をそのまま文章に書くと分かりにくくなります。ボタンだと見て分かるように表現することで、グッと伝わりやすくなります。なお、<>はhtmlのタグなどで使われます。混同することもあるので避けた方がいい表現です。
×「Enterを押す。」
〇「[Enter]を押す。」
・ステップは10個まで
ステップが多くなると、業務が長く続くので読み手の負担になります。分かりやすくするには、多くても10までにするよう意識しましょう。10を超えるようであれば、作業の区切りで分けるのがおすすめです。
×「ブログの作成手順 ABCDEFGHIJK」
〇「ブログの執筆手順 ABC
ブログの校正校閲手順 DEF
ブログの投稿手順 GHIJK」
・操作と結果を分けて書く
操作説明の文章では、機器の使用者(読み手)を主語にして書きます。操作の結果など、使用者から見て自動的に行われるものは受動態(されます)で書くようにします。
×「ポインタをAに合わせてクリックされると、ポップアップを表示します。」
〇「ポインタをAに合わせてクリックすると、ポップアップが表示されます」
・注意してください、は本当に必要なときにだけ
「注意してください」「気を付けてください」といった表現は、読み手に注意を促せます。しかし、頻繁に使っていると、読み手が慣れてしまい、注意を払わなくなってしまいます。本当に必要な時にだけ書くようにしましょう。
×「出来上がった型は熱いので、気を付けて取り出してください。注意して台の上に置き、冷ましてください。」
〇「出来上がった型は熱いので、気を付けてください。取り出して台の上に置き、冷ましてください。」
・肯定文で書く
否定文が続くと、読み手に不安を与えたり誤読を誘発させたりします。肯定文で書き、何をすればいいのかを明確にしましょう。否定文は、注意や禁止事項など、してはいけないことを示す時に使うようにします。
×「電源を付けないと、画面は映りません。機器には濡れた手で触らないでください。」
〇「電源を付けると、画面が映ります。機器には濡れた手で触らないでください。」
・どの言葉に係っているのかを考えて書く
言葉を説明する修飾語をどこに置くかによって、文章の印象や意味が変わってきます。どの言葉と連関するのかを意識して、その語句の近くに置いたり、句読点を打ったりすることで、誤読を生まない文章にできます。
×「派手な商品のポップ」
〇「派手な、商品のポップ」
〇「派手な商品の、ポップ」
・数値をつかって具体的に
「少し」「しばらく」といった言葉は、個人によって違いが出ます。必ず具体的な数値で表すようにしましょう。
×「数mm空けた状態で並べ、しばらく待ちます。」
〇「3~5mm空けた状態で並べ、3分待ちます。」
作成後のブラッシュアップ
マニュアルの文章をブラッシュアップするには、常に「マニュアルを使う人の目線」で考えることが大切です。マニュアルを使う人になったつもりで、読みながら作業をしてみると、「この情報は早い段階で知っておいた方がいい」「両手を使うことをしっかり伝えた方がいい」という発見が出てきます。そういった気づきを情報として反映させましょう。
また、「もっと作業やコツを伝わりやすくできないか?」「もっとシンプルな表現に言い換えられないか?」を考えることも大切です。常に「使う人の目線」で考えていくことで、より分かりやすい文章が書けるようになります。なお、読む人のことを考えた表現やシンプルに書く方法は、この記事でも触れています。あわせて参考にしてみてください。
見直しチェックポイント
・用字用語が統一されているか
・「ですます調」「である調」など文末表現は統一されているか
・一文一義になっているか
・5W1Hで書かれているか
・ステップは10個以内か
・「注意してください」「気を付けてください」を1項目に2回以上使っていないか
・「少し」「しばらく」などの個人差の出る表現がないか
・複数の読み方ができるような表現がないか
・同じ言葉や名称が繰り返し入っていないか
・各項目の重要ポイント・危険項目が一目で分かるか
命名規則
情報の見つけやすさは、マニュアルの媒体によって異なります。とくに、紙媒体のマニュアルならば、索引や目次で見てわかるものや、パラパラとページをめくっていても見つけやすい工夫をしなくてはなりません。そこで重要になってくるのが、見出しです。
見出しの名称
見出しは機能面から見ても重要な要素です。見出しに適切な言葉を設定すると、目次から情報が探しやすくなります。誰もが検索しやすい言葉を設定して、利用者が情報にたどり着きやすいようにしましょう。
見出しを考える場合、「読み手が行う作業を書く」と見つけやすいものになります。
×「アカウント」
〇「アカウントを新規作成する」
これは紙媒体のマニュアルだけではありません。ファイルやシステムを使ったマニュアルも「読み手が行う作業を書く」ことで分かりやすくなります。しかし、ファイルやシステムを使ったマニュアルの場合は、情報を検索で探すことがほとんどです。そのため「検索される言葉を入れ込む」工夫を合わせて行うことが求められます。
目次
目次は見出しを順番に並べたものです。そのため、情報の検索機能を果たすと同時に、業務全体の流れを一目で示してくれます。どんなに薄いマニュアルであっても、目次を用意することがおすすめです。
目次にはページ数も付けましょう。さらに、ファイルやシステムを使ったマニュアルの場合は、ページ数とあわせてリンクで飛べるようにすると、より使いやすいものになります。ここでも、読み手がどのようにマニュアルを使うかを考えて書いていくと、使いやすいものになります。
マニュアルの導入
マニュアルを作成したら、いよいよ導入です。しかし、マニュアルを作成したものの「利用されない」ものとなることがあります。それは「マニュアルを見ても分からないから」「使いにくいから」という理由だけではありません。
「利用されない」という失敗
・存在が知られていない
マニュアルの存在が知られていなければ、誰にも利用されない。また、マニュアルの使用が業務に取り入れられていなければ、使われずに忘れられた存在となってしまう。
・すぐ見られる場所にない
すぐに見られる場所に保管されていなければ、マニュアルで確認する前に人に聞いてしまうであろう。また、元データがすぐ取り出せる場所になければ更新も滞ってしまう。
・情報が更新されない
マニュアルに記されている情報が古いものであれば参考にはならない。間違いの訂正や業務方法の改善要望に応えなくては、業務の標準にはならない。
「利用されない」という失敗を防ぐためには、次のことを行いましょう。
・マニュアルを周知する
・全員が使いやすい場所に置く
・定期的に情報を更新していく
マニュアルがあることを周知し、業務に取り込むように積極的に働きかけなければ、マニュアルは利用されません。また、すぐに取り出して使える環境作りや内容の管理も大切です。
マニュアルの内容に間違いや変更部分を見つける人も出てくるでしょう。そういった箇所に気づいた人が適宜修正してしまうと、全体に変更内容が共有されなかったり、その修正自体が間違えていたりするケースもあります。そうならないために、担当者とスケジュールを決めて、情報を精査した上で更新していく必要があるのです。
社内の教育
作成したマニュアルを使ってもらうためには、会社全体を巻き込まなくてはなりません。トップから社員に向けて「これは会社の仕事の基準です」「必ずこれに沿って業務にあたってください」と言うのも1つの方法です。会社が従うべき基準だと明言すれば、強制力は大きく、従わざるを得なくなるでしょう。しかし、ある日突然「マニュアルを作ったから従ってくれ」と言われれば、反発も大きいものです。
そうならないためにも、運用準備期間から運用期間にかけて、マニュアルを使用する環境を整えなくてはなりません。その方法例には、次のものがあります。
運用準備期間
- 社内告知
マニュアルの存在や内容を知らない人が出ないように事前の告知が大切です。社内報や会議などで鋭意作成中だということや進捗状況などを共有し、関心と注目を集めるようにします。従業員に「自分に関係あることだ」と思わせるのです。
- 勉強会
「マニュアルを使うと想像力がなくなる」「大切なのは形よりも心」とマニュアルの使用にネガティブな感情を持つ人もいるでしょう。なぜマニュアルが用意されたのかが分からなくては、使おうという気持ちにはなりにくいものです。マニュアルとはどういったものか、何のために作られて、どのように役立つのかを伝えていきましょう。そうすることでマニュアルに対する否定的なイメージを払拭するのです。
運用期間
- 業務の中に取り入れる
マニュアルでの確認を当たり前にすることが大切です。例えば「マニュアルを見せながら指導する」「マニュアルを見る時間を設ける」などで習慣化できます。また、「マニュアルに対して否定的なことを言わない」など、ベテランへの周知徹底も重要です。
- 運用を徹底する
マニュアルを導入しても、今までどおり人に聞いて解決されては何も変わりません。もし業務に関する質問があったとしても、必ずマニュアルを確認させることが大切です。そうすることで、マニュアルの使用は定着化していきます。
- 使用モチベーションを維持・向上させる
マニュアルの導入によって、従来の作業方法が変わることもあります。導入は現場にも負担がかかるものです。そのため努力の結果を示し、効果を実感してもらうことで、利用に対するモチベーションを上げることが大切です。例えば、マニュアル導入の前後で不良品率や残業時間数などが改善していたら、数値化して共有するのがおすすめです。
仮運用
実際にマニュアルに沿って業務を進めてもらいましょう。最初は「仮運用」という形で使ってもらうと良いです。本運用を開始する前に、一部の利用者を対象にマニュアルに沿って作業を行ってもらいます。それによって、本運用時のミスの頻度を減らすのが狙いです。このときに確認することは、次の4点です。
・内容が齟齬なく伝わっているか
・マニュアル使用者全員が同じ作業を行えているか
・不便な点はあるか
・仮運用クリア基準を達成しているか
作業を担当したことのない従業員や新人などにも共有すれば、マニュアルに沿って正しく業務が進められるかを確認できます。また、マニュアル導入目的に沿った仮運用クリア基準を設定して、マニュアルとして問題がないかと併せて注視すると良いです。
ときには、現場から「この手順だと行いにくい」という声が上がるかもしれません。しかし、それは新しい業務手順に慣れていないだけという可能性もあります。すぐに修正するのでなく、客観的な判断を行いましょう。
運用・保守
仮運用で大きな問題が起きず、設定した基準をクリアしたら、実際の運用に入ります。広くマニュアルを導入すると、仮運用では上がらなかった意見が出ることや、イレギュラーなことが起こり、予防策の追記を求められることもあります。この声に応えられる仕組みを整えておかなくてはなりません。そのために運用体制を決定し対応組織を設置します。
もし何かがあったときにどのように対応するのか、マニュアルや業務を改善していくための方法は何か、などの観点から、運用内容を設計していきます。ここで決めた運用方法に則って、運用と保守を行っていくのです。
問い合わせ対応 | 問い合わせ方法、連絡先、対応者など |
定例報告対応 | 会議体設計、スケジュールなど |
改訂対応 | 意見収集方法、改定案提出先、改訂基準、担当者、頻度、改訂アナウンス方法、旧版回収方法など |
廃棄対応 | 廃棄基準、廃棄方法など |
改訂
改訂は定期的なメンテナンスとして行われるものです。改訂内容はマニュアルの運用によって上がった意見が基になりますが、マニュアルの目的に沿ったものでなくてはなりません。そのため、追加のマニュアルを勝手に作らせたり、勝手に内容を変更させたりするわけにはいきません。会社が認めるマニュアルとして、担当者の手によって行うのです。
意見収集
「運用」で決めた運用方法に則って、マニュアルが使われているか、使っていてやりにくいところはないかなどの意見を吸い上げます。また、定例会という形で課題や改善を広く話し合えば、意見が収集できるでしょう。
通常時の意見の吸い上げにアンケート調査を行うのも良いですが、従業員が気づいたことを随時伝えられる専用フォーマットを用意するのがおすすめです。専用のフォーマットに記入することで、思いつきや意見が「提案」として具体的になるのです。
必要な項目は「どこを」「どのように」「どうして」変更するのかです。実例をあげると、無印良品は「顧客視点シート」というものを用意し、「提案」を「顧客視点」と「改善提案」の2つの観点から記入させています。(参考文献:『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』)
改訂はマニュアルの悪い点を良くするだけではありません。業務を今以上に良くするための創意工夫を加える改訂もあります。部署や店舗ごとの工夫が発生すれば、それも吸い上げて会社全体の基準とするのです。
更新対応
提案を検討し、可能なかぎり反映を行っていきます。緊急性が高いものであれば、随時更新を行いましょう。そうでない場合は、スケジュールに沿って定期的に対応します。定期的な更新は、事前にスケジュールを従業員に周知共有し、更新時期がきたら改めて告知を行います。改定時期をハッキリさせておくことで、各々が提案に向けて準備を進められるからです。
寄せられた提案には、目的に沿っていないものや、妥当でないものも含まれるでしょう。悩ましいものについては「誰がやっても同じようにできるか」「以前よりも正確にできるか」など、「運用」の段階で決めた判断基準に基づいて精査していきます。「会社の手順として適切かどうか」を考えた上で判断するのです。
- 更新頻度
更新の頻度は業務内容によって異なります。業務内容が大きく変わらない「電話対応マニュアル」などは、更新のスパンを長めに設定してかまいません。それでも半年~1年に1度の見直しが理想です。一方、新しいサービスなど基盤が固まっていないものは1か月程度の短いスパンが良いです。早め早めに更新すれば、変更の負担も分散されます。
- データ保管場所
マニュアルは常に最新のもののみを使うので、すぐに改訂できる保管場所を設定します。「設計と作成」で確認したとおり、マニュアル自体が属人化してはなりません。そのためにも誰もが分かる場所に保管するのです。
- 意見の不採用
現場の意見すべてに沿うことはできないものです。例えば「業務のミスを減らす」という目的でマニュアルを作成したとしましょう。マニュアル化するにあたって、確認項目を増やしたことで「昔の方が確認項目が少なくてやりやすかった」と言われるかもしれません。この場合、マニュアルの目的には沿っているため、以前の方法には戻せません。確認項目を減らすのではなく、目的から逸れない範囲で、確認しやすい方法を検討することになるでしょう。このような判断も「運用」で決めた改訂基準に則って行います。
寄せられた意見をマニュアルに反映しない場合は、意見提出者に不採用理由をフィードバックしましょう。「改善されなかった」という思いを持たせないためにも、理由を明確にするのです。
データ管理
マニュアルのデータ管理は重要です。マニュアルは常に最新版のみを使用するので、新版・旧版が現場で混在しないように注意を払わなくてはなりません。また、旧版はすぐ廃棄せずに、管理が必要です。
- 改訂内容の共有
改訂を行ったら、必ず「改訂履歴」を付けましょう。「改訂履歴」には版数・発行日・改訂内容を記入して、いつ・どのような改訂がなされたのかを明確にします。そうすることで、利用者はマニュアル全体を読み返さなくても改訂箇所を把握できます。また、過去のマニュアルを振り返える時にも役立ちます。
新版・旧版の2つのマニュアルが混在しては現場が混乱してしまいます。差し替え時には必ず旧版を回収しましょう。また、版数を「第5版」「Ver.1.7」という形で表紙に記入しておけば、最新版かどうかがすぐに識別でき、混在の予防になります。
- バージョン管理
ときには「以前の方が効果が高かった」「システムが一時的に使えないため、しばらくは前の方法で作業する」というように、旧版のマニュアルにある情報が必要になることもあります。そのため、古いマニュアルはすべて廃棄するのではなくバックアップとして残しましょう。
保管場所がなく手狭になったなど、やむを得ず処分を検討する場合もあるでしょう。そのときは情報を再利用する可能性はないか、他に情報を保管する手段はないかなど、必ず運用基準に則って確認しましょう。
ブラッシュアップのためのポイント
どのような業務内容かによって、マニュアルに必要な情報は変わってくるでしょう。それによってマニュアルの適切な形や項目も変わってきます。ここでは業務ごとに重要視される内容について考え、情報を伝えるための工夫を確認していきましょう。
業務ごとにできるマニュアルの工夫
作業・技術業務
部品加工や調理などの作業・技術業務は、決められた手順で同じものを生み出せるかが重要です。定型的な業務が多いので、マニュアル化しやすい業務と言えますが、一方で、勘・コツといった感覚的な部分の説明が必要になります。その感覚的な部分をいかに引き出し、いかにノウハウを明文化するかがマニュアルを左右すると言えます。
ヒアリングや観察など「情報の収集」が重要です。さらに、出来栄えの規格や基準が明確にわかるような視覚的な情報があると、より使いやすいものになります。
事務業務
数字や文書を扱う事務業務は、目に見えない情報を扱うことが多いです。また、業務自体が複数の部署に関連するものもあります。情報がどのように動くのか、各部署の業務がどのように繋がっているのかなど、業務全体の流れが把握できるマニュアルだと、分かりやすいものになります。さらに、専門用語や概念の説明もあると、理解の助けになります。
サービス・接客業務
対応する人によって、とくにばらつきが起きやすい業務です。そのため、業務ひとつひとつの標準化が重要です。また、人を相手にする仕事のため、時と場合に左右されるものでもあります。応用がきくように、規制するのではなく、各自が判断できる要素や条件をしっかりと定めることが大切です。過去の事例があると、分かりやすいものになります。
営業業務
人によって結果に違いが出る業務です。成果をあげている人とそうでない人の業務方法の違いに注目し、その原因を徹底的に探った上で、業務の標準を作ることが求められます。全員が成果をあげている人と同じように活動できれば、成果が底上げされるでしょう。
出先・移動中にも確認するべきノウハウや緊急対応方法などがあるならば、どこでも確認できるハンドブック型のものを用意すると良いですね。
創作・企画業務
クリエイティブな業務にマニュアルを用意することは難しいのですが、業務のフローなどマニュアル化できる部分もあります。また、その人でなくてはできないという業務ばかりなら、属人化がかなり進んでいる状況と言えます。その中から誰もができる業務を洗い出し、業務を標準化してマニュアル化すると良いでしょう。
利便性を上げる補足資料
すべての情報を共通のフォーマットと文章だけで表現するのは難しいことです。例えば、業務の流れを把握するには、全体像が一目でわかるものがあると使いやすいです。
また、漏れの有無を確認してほしいのであれば、そのための工夫をしなくてはなりません。マニュアル内もしくは別冊として次のような項目を用意すると、情報が明確になって分かりやすくなります。目的や理解してほしい内容に沿って項目を追加すれば、利用者の助けになるでしょう。
・チェックリスト
・業務フロー図
・用語集
・事例集
・動画資料
・マニュアル一覧
・チェックリスト
チェックリストは作業者のセルフチェックを助けてくれます。行うべきことや確認すべきことがはっきりするので、業務の抜け漏れは減るでしょう。必ず行わなくてはならない作業があれば、チェックリストを用意すると良いですよ。
・業務フロー図
業務フロー図があれば、業務の流れがわかりやすくなります。業務には一か所で完了しないものもあります。他の担当者・他の部署に接続する業務は、その全体像を把握することは難しいものです。この業務は何のために行っているのかといった業務自体の理解を補足してくれます。
・用語集
社内には思った以上に多くの専門用語があります。業種で共通して使われている業界用語や、社内でのみ使われている言葉もある。一般的な用語ですが、社内では別の意味で使っている言葉もあるでしょう。いずれも、初めてその業務を行う人にとっては分からないものです。それらを確認できる用語集があれば、スキル習得もスムーズに進みます。
・事例集
過去の事例とその対応方法が分かれば、イレギュラーケースを対応しやすくなります。成功事例だけでなく失敗事例もあれば、より的確な判断に結び付くでしょう。事例集を作る場合は、対象業務の担当者が事例を出さなくてはなりません。適切な例かどうか、漏れやダブりがないかなどを議論した上でまとめて、作っていきます。
・動画資料
紙媒体でなく電子データのマニュアルを作るなら、動画資料を入れ込むのも1つの方法です。文章だけでは伝わりづらい動き方や話し方、色の変化といった情報も明確に伝えてくれるので、対応見本などに使えば効果を発揮します。ただし、動画を入れ込めばそれだけマニュアルのデータは重たくなってしまいます。マニュアルを開くのに時間がかかるといった事態になる可能性もあるので、とくに重要な部分にのみ使用しましょう。
・マニュアル一覧
社内にあるマニュアルを一覧にしたものです。従業員は普段使うマニュアルのことは分かっていても、頻度の低い業務や関わりのない業務のマニュアルについては知らないものです。どの業務にどのようなマニュアルがあるのかが分かる一覧を用意することで、従業員が情報を確認しやすい環境が整うのです。
ツールという手段
マニュアル作りに特化した〈マニュアルツール〉というものがあります。これはWordやPowerPointといった、文書作成やスライド作成ソフトとは違います。マニュアルの作成・管理・使用を補助する機能が備わっていて、マニュアル運用全般の負担を減らしてくれます。
ツール内にはマニュアルの形式が入っているので、フォーマットを作成する手間が省けます。また、利用者はツールにアクセスして確認するので、旧版マニュアルの回収や、最新版の配布の手間もなくなります。このように、作成におけるいくつかのステップを省略できるのです。
また、マニュアルを配布をすれば、ルールを定めていても情報流出の危険があることには変わりがありません。〈マニュアルツール〉を使ったマニュアルは、すべてツール内で管理されるので、セキュリティが守られた上で管理できます。作ったマニュアルを〈マニュアルツール〉に移行するだけでもメリットは大きいのです。
作成プロセスの管理ポイント
マニュアル作成・運用の管理者になった人は、要所要所でマニュアルが進むべき道を定める必要があります。よりよいマニュアルとするために管理者が気をつけるべき点は何でしょうか。それは次の2点です。
・最初に決めたものを曲げない
・マニュアルに対する評価を行う
マニュアルは計画的に作り上げていくものです。途中で「あれも書いておいてほしい」「これもついでに入れてほしい」と内容を追加してしまっては、スケジュールは変わり、目的から逸れたものになってしまいます。マニュアル作りは、最初に決めた方向性を貫徹することが大切です。もし追加でマニュアル化するべきことができたのならば、1つ作り終わってから次を作るようにしましょう。
また、マニュアル作りは、計画から運用までに非常に時間がかかるものです。リーダーが率先してマニュアル化を進めていたにもかかわらず、出来上がったときにはあまり乗り気でなくなり、適切な評価がなされなければ、運用のモチベーションも下がってしまうでしょう。
マニュアルの出来上がりがゴールではありません。マニュアルは運用をしつづけるものです。運用によって目的が達成できるように、そしてモチベーションを維持できるように評価を怠らないようにしましょう。
さらに、マニュアル作りの段階ごとに気を付けるポイントがあります。
準備
・マニュアル作りを会社が推進する業務に位置付ける
・作成の規模に合わせてチームを結成する
・方向性を決めて、目的達成のためのマニュアルを目指す
マニュアル作りは、会社として何を目指すかを踏まえた上で取り組むものです。また、どこにリソースを分配するのかの判断も必要です。人手が足りない場合や、時間に余裕がないが品質を落としたくない場合は、外注やサービスの利用も視野に入れるといいでしょう。そのような方針が確定した段階で、ようやく細かいスケジュールが決められるのです。
良いマニュアルを完成させるには、しっかりとした準備が必要です。それを整えるには、現場の働きだけでなく、管理者や経営者の判断、会社を挙げた協力が不可欠なのです。
情報整理
・マニュアルの基準をどこに置くかを決める
作業方法の差異や認識の違いを見つけ出して、業務を標準化しなければ、マニュアル作りは進みません。
読めば分かるマニュアルにするには、「どこの業務を標準化するか」「どのレベルに設定するか」といった標準を設定しなくてはなりません。しかしこのようなマニュアルの方針に関わる内容は、現場の製作者だけでは判断できないものです。
準備の段階で、QCDやリソースを照らし合わせた上で、マニュアルの方向性を決めています。そこで決めた目的・目標・体制などを勘案した、標準の設定が求められます。
設計
・会社の方針を反映したルールを設定する
・使いやすさや安全性などを考慮して、マニュアルの媒体を決める
「フォーマット」の項目で確認したとおり、作成には統一したルールが必要です。「完成品のブレを無くすため、完成見本の写真を必ず載せる」「間違いが起きないように操作手順ごとに番号を振る」など、会社の方針によって必要なルールは違います。会社の方針が反映されたマニュアルとするには、方針を踏まえた明確な作成ルールを定める必要があります。
業務内容をその都度確認してもらうには、持ち歩ける大きさのマニュアルを従業員に配布すると良いでしょう。しかしマニュアルを配布するということは、各人にマニュアル管理を任せることと同じです。場合によっては紛失などによりマニュアルの情報が外に漏れる可能性もあります。そのため、媒体の決定は現場の作成者だけでは判断できません。どのような媒体が使いやすいのか、どのような使用ルールを定めれば安全なのかを考慮して決める必要があります。
また、場合によっては、クラウド上でマニュアルデータを管理するITツールが検討されることもあるでしょう。ITツールを利用すれば従業員による紛失や持ち出しを防げます。また、フォーマットが用意され、更新管理も楽に行えることから、作成・改訂も手軽に行えます。マニュアルの質や維持費など、QCDを考慮した上での判断が必要です。
運用
マニュアルを運用し改善し続けていくためには、下記のポイントを押さえた判断が必要である。
・仮運用のクリア基準を決める
・運用基準の方針を決める
マニュアルは会社の業務の基準です。そのため、何がどうなれば本運用のステップに進むのかという判断は、現場だけではできません。本運用として導入する明確な基準を設定することが必要になります。また、運用基準も同様です。どのような方針によって基準を定めるのかをはっきりさせ、その後の運用と保守の判断の方向性を定めましょう。
マニュアルをただ導入するだけでは、作成時に立てた目的は達成されません。現場の意見や具体的な結果に基づいて、常に改善していくことで、ようやく仕組みが整うのです。このように計画・実行・評価・改善のPDCAサイクルをまわすことで、マニュアルは完成に近づきます。