業務改善を進めたいと思っても、「何から始めていいか分からない」「動いてみたけど、想定した効果が得られなかった」という人に向けて、この記事では、業務改善を成功させるためのポイントを、ステップごとに解説します。
【業務改善のメリット】
〇 業務の効率がアップする
〇 生産性が向上する
〇 コストが削減する
業務改善とは?
業務改善とは、その名のとおり業務を改善することです。業務に潜む問題を見つけ出し、解消することで、業務の効率化や生産性の向上、コスト削減に結び付きます。業務改善ができれば、労働環境の改善、人手不足の解消、ひいては経営の安定に繋がります。
業務改善の流れ
業務改善のステップは、次の5項目です。
現状の可視化
まずは、業務改善でどうなりたいのかという目的を考えます。それを踏まえて「現状の可視化」を行っていきましょう。現状を可視化するには様々な観点がありますが、把握すべき現状を“漏れ”なく“ダブり”なく、すくいあげなくてはなりません。
問題の分析
可視化した現状に基づいて「問題の分析」を行います。
目標の設定
分析した問題を踏まえて「目標の設定」を行います。目標を具体的に設定して、ゴール地点を明確にすることが大切です。そうすれば、施策の効果を測れるようになります。大きな目標や中長期的な計画は、小さな目標を段階的に置いていきます。
課題の解決(施策)
「課題の解決」のためには、施策のアイデアを話し合うことになるでしょう。多角的な視点からのアイデア出しも重要ですが、どういった切り口で何を考えるべきかをメンバー間で共有できているかを意識して、全員が同じ方向を向くことも大切です。
効果測定
施策の後には必ず「効果測定」を行いましょう。実施した施策は妥当だったのか、さらに良くするにはどうすればいいのか、といった分析も行います。可視化された現状が設定された目標に向かって改善できているのかを継続的に確認して、「目的」に近づくための体制を作っていくのです。
業務改善の立ち上げ
目的の設定
まずは「業務改善の目的」を明確にしましょう。なぜなら、時間を短縮することを目的とした業務改善と、コストを削減することを目的とした業務改善とでは、取り組むべき内容が大きく変わってくるからです。例えば、時間短縮を目的にした業務改善は、業務の工程を可視化する必要があります。一方、コスト削減を目的にした業務改善は、コストに関連する数値を見なくてはなりません。
目的はQCDの観点から考えていきます。QCDとは、「Quality(品質)」「Cost(コスト)」「Delivery(納期)」のことです。この3つは、一方を選べば他方を失うトレードオフの関係にあります。つまり、品質を上げるためには、コストをかける、納期を伸ばすのいずれかもしくは両方を行うこととなります。
業務改善の目的を設定するには、QCDのどれを優先して行うのかを検討して、メンバーに共有しなくてはなりません。
担当者が思いつくままに業務改善をやってしまっては、まとまりがなくなり結果が伴わないものとなってしまいます。経営目的や経営目標に基づいて、企業全体で共有する「業務改善の目的」を設定して、業務改善の方向性を定めることが大切です。
なお、本記事では業務改善の目的を「コストの削減」「品質の向上」「時間の短縮」の3種類に大別して検討していきます。
対象範囲の設定
目的が設定できたら、次に業務改善の対象範囲を定めます。部門ごと、業務ごと、部分的、全社的など、対象範囲の選択肢はいろいろあります。まずは効果が現れやすそうな箇所から着手するというのも1つの方法です。いずれにせよ、「業務改善の目的」に基づいて考えれば、対象範囲は自ずと見えてくるはずです。
現状の可視化
対象範囲が定まったら「現状の可視化」をやっていきましょう。例えば、業務の「時間の短縮」を目指す場合には、業務工程の可視化していきます。中には、1つの業務を複数人が分担していたり、複数の工程を同時に作業していたりして、全体像の把握が難しいこともあるでしょう。それでも業務工程の流れや時間をまとめて、業務のムリやムダの発見していきます。
また、「コストの削減」が目的の場合には、運営プロセスを分解して売上、顧客単価、受注数などの数値を把握して、活動ごとのコストや貢献度を確認していきます。
現状の可視化で必要なことは、業務の棚卸しを行うことと現場の声を拾い上げることです。机上の空論とならないように、現場の声を拾い、隠された現状を拾った上で検討を重ねていきましょう。その時の基になるものが、全業務を一覧化した「業務一覧表」です。「業務一覧表」を作ると、業務を“漏れ”なく体系的に洗い出すことができます。業務の内容だけでなく全体の流れを意識しながら現状を把握すると、隠れた問題が炙り出されるでしょう。
業務改善のための問題分析
問題の具体化
「現状の可視化」ができたら、次に「問題の分析」を行います。「問題の分析」は、問題の本質の見える化を目指すことです。つまり、問題の具体化と整理を行っていきます。
問題を具体化するには、「現状の可視化」で見えた問題を多角的に考えること、問題の原因を使く追及すること、問題の全容を把握することが大切です。そうすれば、漠然とした問題がはっきりとし、根本的な原因が見えてきます。
問題を追及していると、業務改善の対象としなかった業務につながることもあります。その場合は、その業務についても改善を検討しましょう。業務改善の対象とした範囲の中だけで深堀りを進めると、根本的な原因を見落とす可能性があります。そうならないために、連関する部分についても合わせて考えなくてはならないのです。
問題の整理
問題を具体化すると、複数の問題が出てくるはずです。そのうちどれを改善していくのかを決め、問題対応の優先順位をつけていきます。
ここで大切なことは、客観的な判断です。業務改善の目的に沿って、優先して改善するべき問題は何か、論理的に判断しなくてはなりません。この段階で改善すべき問題を定め、「目標の設定」に繋げていきましょう。
業務改善のための目標設定
指標と数値の設定
根本にある問題を突き止め、業務の改善すべき箇所を明らかにしたところで「目標の設定」を行います。すでに目的を定めたではないかと思う人もいるかもしれませんが、目的と目標は違います。
「業務改善の立ち上げ」で定めた目的とは、最終的に成し遂げたいこと、つまり業務改善のゴールです。「生産性を上げたい」「コストを削減したい」がこれにあたります。一方で、目標とは、目的を達成するための具体的な指標のことです。「現在の工数を〇〇%削減する」「紙の使用量を〇〇%削減する」がこれにあたります。
つまり、「目標の設定」で定めるのは、“何を測定するかという指標”と“具体的な数値”です。「問題の分析」を行った時点で、改善するべき原因は特定されているでしょう。その原因がどのようになれば改善したとみなすのかを考え、数値を設定することになります。
目指すべき数値が設定されると、行うべきことが明確になります。目的に向かう最短経路が明らかになると同時に、どれだけの時間や人員などが必要なのかという、求められるリソースも浮かび上がるでしょう。
また、目標が具体的であればあるほど、目標達成率がわかりやすくなり、施策の評価も行いやすくなります。目標は目的に近づけているかどうかを知る指標にもなり、施策に効果があったかどうかを測る指針にもなります。今後の「効果測定」のためにも、ここでしっかりと目標を立てなくてはなりません。
設定の注意点
「目標の設定」を行うときには、次の点に注意しましょう。これらを満たした目標が立てられたならば、現場のモチベーションが維持でき、パフォーマンスも向上していくでしょう。
あるべき姿を踏まえて目標を設定する
目標は目的達成のための具体的指標であり、あるべき姿を目指して設定されるものです。そのため、達成までの道筋から外れないように目標を設定しなくてはなりません。達成水準や達成方法は目的から大きく逸れることないように意識して設定しましょう。最終的な目標から逆算的に段階を設定するのも1つの方法です。
具体的で定量的な目標を設定する
目標は具体的で定量的なものにしましょう。具体的でなければ、部署や個人単位で何を行うべきかが分かりにくくなってしまいます。また、定量的でなければ、施策に効果があったかどうかを正確に把握することができません。どうしても目標が数値化することができない場合には、あるべき姿をできる限り具体的に設定していきます。
実現可能で挑戦的な目標を設定する
期間やリソースなどを踏まえ、適切な目標を設定することが大切です。実現が不可能な目標を設定してしまうと、誰もが改善を行おうとせずに先延ばしにしてしまうでしょう。業務改善を頓挫させないためにも、現実的な目標設定が必要なのです。
一方で、目標値が低すぎると、社員のモチベーションを上げることができません。可視化された現状や調査データに基づいて考えながら、不可能ではないがチャレンジングな目標を設定することが大切です。
また、目標の中に達成しやすいものがあると成功体験を積むことができ、モチベーションアップにつながります。「業務が改善した」「改善に貢献している」という実感を得ることができれば、業務改善に対して自信がつけられるでしょう。目標は大きいものだけでなく、細かいステップを用意することも大切です。
全員で目標を共有する
業務改善に“やらされている感”があっては、進むものも進まなくなってしまいます。特に目指すべき目標が大きく、複数の段階を経なくてはならない場合には注意が必要です。なぜこの業務を行っているのかが分からなくなり、納得できないまま数値目標を追う事態に陥りかねないからです。
業務改善はそれまで行っていた業務が変わったり一時的に増えてしまったりすることもあって、実務者にとっては負担のかかるものです。そういった実務者の協力を得るためには、なぜその目標が設定されているのかをわかりやすく共有することが大切です。
数値目標だけでなく、目標の全体感を共有していきましょう。わかりやすい形で共有するだけでも、全員が業務の目的を意識し、目指すべき方向に向かって進めるようになります。チーム全員がいつでも確認できるように整えておくようにしましょう。
業務改善のための施策
「目標の設定」で“何をもって業務改善がなされたとするのか”を定めたら、次に行うことは施策です。施策は「手段」とも言い換えられるであろう。
すでに説明したとおり、「目的」とは最終的に成し遂げたいこと、つまり業務改善のゴールです。「目標」は目的を達成するための具体的な指標です。
今回考える「手段」とは、目標達成のために実際に行うことです。目標が目的に基づいて設定されていたように、手段も目標に基づいて決められなければなりません。つまり、出されたアイデアに対する判断基準は「目標」になります。
アイデアを出す
どのような「手段」を選択するかについて考えるために、まずは多くのアイデアを出さなくてはなりません。アイデア出しには2つの方向性があります。1つはテーマやキーワードから幅広く考える方向、もう1つは気になる箇所を深掘りして考える方向です。この両方向に広げることを意識して、まずはテーマやキーワードを様々な切り口で考えてみましょう。その中で気になるポイントや重要と思われる項目があれば、さらに深めていくのがおすすめです。
アイデア出しのポイントは、質にこだわらず量を出すことです。自分にとっては目標に沿わないと思っているものも、他の人の視点から見れば目標に沿ったものかもしれません。まずは多くのアイデアをひねり出し、その上で検討と選定をしていきます。
アイデアを選定する
多くのアイデアを出したら、出たアイデアを整理し、良いものを選定します。アイデアを評価し良いものを選定するには、「目標」に沿った指標を立て、それに基づいて客観的な判断を行わなくてはなりません。チーム内で話し合いながら、アイデアを活用できるものに具体化したり、重要な要素を抽出したりしていきましょう。
どんなに良いアイデアを選んだとしても、思い通りに行くとは限りません。中には良い結果が出るまで時間がかかるものもあるでしょう。すぐに良い結果が出るとは思わず、長期的な視点で考えて実行していきましょう。
また、多くのアイデアの中から「手段」として選ばれるアイデアは少数です。選ばれなかったアイデアの方が多く残りますが、決して内容が悪いわけではありません。例えば、「目的」や「目標」を達成する条件にそぐわなかっただけのものや、今回は何らかの事情で見送られたものもあるでしょう。これらは別の機会に生かせる可能性もあります。捨てずにストックしておきましょう。
業務改善の効果測定
結果の振り返り
業務改善の施策は、取り組んだところで終わってはいけません。必ず施策の効果を振り返り、続けるべき改善について考えなくてはなりません。つまり、努力した内容やコストが結果として表れているか、さらに効果的に活かせないかを考えるのです。
施策が一区切りついたら、もしくは目標で定めた期間が経過したら、施策の結果を振り返る。例えば、目標が達成できなかったならば、何がボトルネックになっているのかを探します。また、定性的な結果を測りたい場合は、行った施策に対するアンケートなどがを行いましょう。反応や評価を得て、分析ができるように整えていきます。
このステップをしっかりと押さえると、チーム全体が正しく成果を把握できるようになります。なんとなく改善した気がする、という感覚的なものでなく、施策や努力の結果がはっきりとします、。現場のモチベーションが上がり、現場の施策に対する理解を促すことにもつながるでしょう。
さらなる改善を考える
結果の振り返りを行ったら、「分析」を行います。実施前に立てた仮説と施策の結果を並べてみると、予想どおりに行かなかった箇所に気付くでしょう。望む方向に進まなかった、改善はしたが別の箇所が悪化した、トラブルの発生もあったかもしれない。そのような箇所を明確にし、仮説と結果のギャップを把握することがさらなる改善を考える第一歩となる。この時、注意すべき点が以下の2つである。
問題点だけでなく、よかった点も確認すること
改善について考えるとき、どうしても問題点ばかりに目を向けがちになります。よかった点にも目を向ければ、長所の維持やさらなる改良のアイデアについても考えられるようになるでしょう。よかった点を伸ばしていけるように、必ず確認をします。
責任の追及を行わず、よりよくする方法を探すこと
原因を分析していると、どうしても責任の追及に陥りがちです。責任の押し付け合いから改善のためのアイデアが生まれることはありません。個人の責任ではなくプロセスや仕組みの問題点を追及することが大切です。
どうしても責任追及になってしまうようであれば、話し合いのルールを作成して予防してもよいでしょう。ここでは建設的な話し合いによって問題を分析し、次の目標を定めることが求められるのです。
良い結果が得られれば施策の継続もあり得ます。その時に大切なことは、定期的な結果の確認です。継続と判断した施策であっても、定期的にチェックを行い、継続をし続けるか、変更が必要か、やめるべきかなどを判断を行います。
定期的に結果を確認するときには、必ず比較対象を用意します。施策開始当初のデータや、前回確認時のデータを用意すれば、変化が把握できます。施策を続けることで改善が果たされていることが目に見えれば、モチベーションの維持にもつながります。そして、継続して良い結果が得られているのであれば、施策を標準化し定着させていきます。
業務改善を循環させる
さらなる改善を目指すときは、「現状の可視化」「問題の分析」「目標の設定」「施策」「効果測定」を再度行います。このように行った施策を振り返り、循環しながら少しずつ改良を加えていくことで、「目的」と「目標」はようやく達成されます。業務改善は長期的な目線で取り組んでいかなくてはならないものなのです。
望む結果がすぐに得られなかったとしても「それではどうすればいいのか」を常に考えて進めていきましょう。「目的」を達成する頃には、QCDの最適化に付随して、業務の効率化、生産性の向上、労働環境の改善、従業員の満足度向上などの効果も現れるでしょう。
業務改善に役立つツール
業務改善を行う時に、力強い味方となるツールやスキルを紹介します。
フレームワーク
フレームワークは、実践経験や経営理論を落としこんだ、思考のテンプレートです。これを使えば、問題点の整理や課題の発見、アイデアの提示や効果の検証まで、業務改善を論理的に進めることができます。
ロジカルシンキング
日本語では「論理的思考法」と訳されます。筋道を立てて情報を整理し、結論にまで導くスキルです。これを身につけると、先入観にとらわれずに物事が考えられるようになるので問題解決力が上がります。また、チームへ情報を伝達するときにも説得力をもって働きかけられ、業務改善をスムーズに進められるようになります。
マニュアル
業務改善の1つとして、マニュアルを作る企業もあります。マニュアルとは、何かに対応するための方法が標準化・体系化されたものを指します。たとえ仕事に慣れていない人でも、これが用意されている職場であれば、業務の標準や全体像を把握できるようになるので、教育コストの削減、生産性の向上、業務の効率アップに繋がります。