「企業文化」の意味とは?その機能とメリット・デメリット

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 企業経営には、伝統、ルール、法律など様々な制約があるのに、なぜ企業「文化」が必要とされているか。企業文化の概念や特徴、機能効果、醸成などを探求することで、答えが出てくるであろう。本連載では、まず企業文化の概念、特徴と機能を明らかにし、実際の企業例で企業文化の醸成を見ることによって、企業文化と経営者と企業経営の関係をみていく。

連載「企業文化と経営者」

 1. 「企業文化」の意味とは?その機能とメリット・デメリット
 2. 100年企業から学ぶ!企業文化の醸成過程と経営者の役割
 3. 企業文化の進化?90年の歴史を覆したアメリカ企業経営者の決意
 4. 存続危機からのグローバル企業へ!転身を支えた中国の企業文化
 5. 企業文化を戦略的に醸成するには?経営者の大切な役割

目次

企業文化とは?

企業文化の概念

 企業文化は組織文化とも言われる。英語ではcorporate cultureとorganizational cultureとの表現がある。企業文化には種々の定義がある。広義に捉えると、企業文化とは、従業員の文化的素質と文化的行動を指し、企業の制度と規範などの要素が含まれている。狭義に捉えると、企業文化は企業と従業員の間に共有されている基本精神のことを指し、従業員の価値化、行動様式、企業の環境などの要素が含まれている。企業文化は企業規模に関係なく必ず存在している。

 企業文化には3つの主な構成要素がある。それぞれコア価値観、企業制度、ブランドイメージである。

 コア価値観とは、経営者とリーダーが企業の長期発展において作り上げてきた企業精神の一つである。すべての従業員に受け入れられ、彼らの行動に浸透している。企業発展の基本方向を示し、企業発展の内部推進力である。

 企業制度とは、企業の経営生産活動における、従業員が守るべき行動規範である。各職務の業務範囲や責任、企業の基本活動のプロセスなど種々の側面を含んでいる。時代に合わせた良好な企業制度は企業の良好な長期的発展を支える重要な要素である。

 ブランドイメージとは、社会や消費者が持っている企業や商品に対するイメージのことである。ブランドイメージは企業の無形資産になり、企業の経営に影響を与える。

 本記事では、「企業を構成するメンバー(主に経営者と従業員)に共有された信念や価値観、メンバーの行動を支える理念」という解釈に基づいて企業文化を見ていく。

企業文化の特徴

  • 長期性

 企業文化は長期間の積み上げによって徐々に作り上げ、時代に合わせて修正し続ける必要がある。同じ企業でも、時期が異なれば企業文化の特徴にも違いが見える。企業文化は企業が存在する限り進行し続ける。

  • 集団性

 企業文化は誰かの意識ではなく、組織全体に信奉される精神、価値観のことである。誰かによって作られたものではなく、企業の発展とともに、種々の側面から影響され、醸成していくものである。

  • 継承性

 企業文化は長いスパンで醸成してくる。過去の企業文化は必ず何かしらの形で今の企業文化に反映している。

  • 創造性

 企業文化は時代に合わせて修正する必要がある。したがって、修正にあたり、創造性が求められる。時代とうまくかみ合ったものは生き残り、時代に合わない企業文化は廃棄され、消えていく。生き残ったものを継承し、そこから創造するのは企業文化の特徴の一つである。

  • 独自性

 企業文化にはユニーク性がある。違う企業が同じ企業文化のスローガンをあげていても、企業独自の成長歴史があるため、企業文化から生み出される行動パターンなどは違うであろう。

  • 激励性

 企業文化は、作り上げた時から、発展する時に至るまで、従業員を励ます効果が必要である。従業員の向上心とやる気を出させる素質を持たなくてはならない。

日米中の異なる企業文化特徴

 企業文化は企業単体の特徴のほかに、社会文化の一環として国ごとの共通特徴も持っている。企業文化は社会文化を構成し影響している。一方、社会文化は企業文化の特徴に影響を与えている。社会文化のほかに、固有の歴史、社会風俗、政治も企業文化の特徴に影響を及ぼしている。たとえば、「職人魂」と言われたら、日本の企業が思い浮かぶであろう。

 では、日米中の企業文化の特徴にどのような違いがあるであろうか。

 日本の企業文化には、戦後の企業文化が色濃く残っている。年功序列、終身雇用、何よりも会社を優先する、とにかく品質を重視する、上下関係と仲間意識を重視するなどが挙げられる。この中、現在批判を浴びているものがあるが、どれも「日本だ」と連想させるのは間違いないであろう。

 米国の企業というと、自由や成果主義、意思決定がはやいなどのイメージが湧くであろう。日本の企業文化とは真逆であるといっても過言ではないであろう。米国の企業文化には、能力主義、ジョブ型雇用、会社より家族やプライベートを重視する、イノベーションを重視する、上下関係が薄いなどの特徴がある。このような特徴があって、競争とイノベーションが効率よく行い、強い企業が育てられたであろう。

 中国企業の経営者は長い間企業経営活動に関する意思決定権を持っていなかった。1978年末に中国は改革開放政策を展開し、中国の国有企業で改革が行われ、企業の経営者は共産党委員会の監督を受けながら、経営自主権が与えられたのである。また改革・開放政策に転換後、しばらく労働力市場のなかった時期が続き、企業は政府からの統一配置を待たなければならなかった。1995年に「労働法」が施行され、社会保険制度、雇用制度が導入され、企業側はやっとニーズによって必要な人材を自由に採用することができるようになった。中国の企業文化の醸成歴史が日米中の中で一番浅いのである。

 上記のような社会主義特有の歴史は中国の企業文化の特徴に影響している。また、中国の企業文化は儒教に深く影響を受けている。まだ模索中ではあるが、人間本位(中国語:以人為本)、民族性建設を重視する、中国特色社会主義を重視する、面子を重んじるなどの特徴がある。

企業文化は何ができるの?

企業文化はなぜ必要なのか

 企業には、規範、価値観、伝統など多くの概念があるにもかかわらず、なぜ「文化」が必要とされているか。「文化」は、それらの概念に「構造安定性、深さ及び統合」といくつか重要な要素を加えているからである。

 第二次世界大戦後の日本経済の著しい発展に米国の企業研究者たちは興味をひかれた。当時、米国の企業経営管理学者や社会学者は従来の制度に基づき、定性的定量的な分析ツールで企業の経営管理を研究するのが一般的で、理念や価値観がもたらす効果をあまり重視しなかった。彼らは戦後の高度経済成長期の日本企業を研究することによって、「長期雇用、年功序列、徹底して会社を優先する」など日本文化に由来する特別なルールを発見した。このような国の文化に由来する特別なルールを「企業文化」と称し、米国に適応する企業文化の構築を始めた。

 企業文化は日本企業の実践より生まれ、米国学者によって体系化された。また、日本企業はこれらの体系化された企業文化に関する理論を導入し、日本企業文化の研究を展開した。企業文化の企業経営管理における役割がますます重要になっている。

 「長期雇用、年功序列、徹底して会社を優先する」など昔からのルールは現在の日本企業に多々見られる。このような特徴は日本企業が欧米の企業に劣る点と指摘されることが少なくない。確かに今の時代では、このような昔からのルールは企業の変革を阻む原因の一つになっているかもしれない。しかし、戦後の日本にとって、このようなルールは社員の企業に対する忠誠心を徹底させ、経済の高度成長を遂げた要因であることは否定できない。

 時代に合った企業文化は企業経営管理にとって重要であることが証明できるであろう。

企業文化の機能

  • 誘導機能

 誘導機能は主に2つの側面に表れる。1つ目は、企業文化は従業員個人の心理と行動を誘導する。多くの従業員は企業文化の重要性を認識している。したがって、彼らは企業文化のコア価値観を基準にして行動し、ズレがあるときには行動を修正する。企業文化を認識していない従業員は、社内関係の協調性をたもつために、企業文化を認めていなくても、それに従い行動することがあるであろう。自主的でも強制的でも、企業文化は従業員の心理と行動に影響を与えている。2つ目は、企業文化は、企業の目標設定と活動方向を誘導する。健全な企業文化は従業員個人と企業経営活動をいい方面に導くことが期待される。

  • 制約機能

 企業文化の制約機能は、心理、行動や考え方に制限を与え、マイナス方面に向かわないように働きかける。この制約機能は健全な企業管理制度と有効な企業倫理基準に基づいて働いている。健全な企業管理制度でもカバーできない側面がある。企業文化はソフトパワーで企業管理制度の不足を補う。

  • 凝集機能

 企業には人が集まり、自然と物理的な集団凝集性が生まれる。ただしこのような形だけでは集団凝集性が低い。そこで、企業文化は粘着剤として使える。従業員の心理的な帰属意識と仲間意識を高め、離職率の改善を図り、内在的な力で凝集機能を果たす。いい企業文化は、企業の集団凝集性を高める。

  • 刺激機能

 企業文化は人間性重視のフレックスな制度とみなせる。共感を得ているため満足しやすい職場を作り、従業員が自ら動き出すことを促す。従業員のモチベーションと潜在能力を刺激することができる。

企業文化のメリットとデメリット

メリット

  • 企業イメージを形成する。
  • チームワークを強化する。
  • 企業文化に共感する人材を集める。
  • 離職率が低下する。
  • 一体感が強まる。
  • 意思決定の基準が定まる。
  • 企業文化に基づいて生産性が向上する。
  • 自発的に考える従業員が増える。

デメリット

  • 企業と合わない企業文化は企業経営に悪影響を及ぼしてしまう。
  • 企業に対する悪いイメージや業績悪化が起こる。
  • 企業文化にこだわりすぎる。
  • 思考パターンが限定的になり、イノベーションが少なくなる。
  • 排他的、人材のバリエーションがなくなる。

 本記事で企業文化の概念、特徴、機能について簡単に解説した。時代と企業に合う企業文化はソフトパワーで企業の在り方と従業員の行動をいい方向に促している。企業経営に企業文化は欠かせない。それでは、企業文化はどういう風に醸成されるのか。本シリーズではいくつかの実例で、企業文化の生まれから、発展を経て、企業に浸透するまで、その醸成過程を見ていく。また、経営者が企業文化の醸成過程における役割、企業文化と経営者との関係を考える。

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