アイデアを実行するために作る企画書。新しいプロジェクトや商品開発を行うにあたって、「作っておいて」と言われた人も多いでしょう。企画をスムーズに通すには、どのようなポイントを押さえて企画書を作ればいいのでしょうか。この記事では、ビジネス文書である企画書の項目と文章に注目して、書き方を紹介します。
【ポイントを押さえて企画書を書くメリット】
〇 企画内容を具体的に理解してもらえる
〇 企画実行の協力を得られやすくなる
〇 スムーズに企画実行に動き出せる
企画書にありがちな失敗例
具体的な情報が足りていない企画書
例えば、ネットショップの改善案としてこのような企画書が共有されたらどう思いますか?
現状分析:ネットショップの売上が、6月から落ちています。同時期に競合企業がネットショップを開設したからだと思います。
問題点:自社のネットショップに「また訪れたい」と思わせるコンテンツが無いのが課題だと思います。来店の動機づくりが必要です。
企画の内容:次回の買い物に使える!季節のクーポンキャンペーンの実施
この例には具体的な情報が全くありません。売上がどの程度落ちているのか分からず、競合企業のショップ開設が売上減少の本当の原因なのかもあいまいです。また、そのような現状と、訪れたいと思わせるコンテンツが無いという問題点がどう繋がっているのかもよく分かりません。このような状態で企画を出されても、何が良くなるのか具体的なイメージは湧かないでしょう。
具体的な数値や情報が無ければ、何をどう良くするのかが伝わらず、本当に現状が改善されるのかも判断できません。そういった説得力のない企画書は、作り直しを命じられてしまうでしょう。この企画書の難点は、次の点です。
- 具体的な数値や情報がない
- 客観的なデータがなく、「思います」という主体的な考えに基づいている
- 「現状分析」と「問題点」の繋がりが見えない
全体感が掴めない企画書
それでは、次の企画書はどうでしょうか。内容は、新しい空気清浄機の企画です。
タイトル:ウェアラブル空気清浄機「きれいくん」企画書
企画の内容:「きれいくん」とは、着れる空気清浄機です。首から下げて使えば、いつでも周りの空気をきれいに保てます。花粉に悩まされる季節でも、安心して外出できるようになります。フィルターは型番「A-bc-12345」を採用します。お手入れはフィルターを洗濯機で洗うだけ。フィルターが古くなれば購入できるようにします。
この提案書は、企画商品の細かい紹介ばかりで、企画の全体感が掴めません。誰に向けた商品なのか、どういった問題が解決されるのか、すでにある商品と比べてどんな点が改善されているのか、などがひと続きに書かれていると、企画はイメージされづらくなります。
読めば全体感が掴めるようにするには、情報を項目ごとにまとめて書く必要があります。また、今ある全ての考えや情報を出す必要はなく、取捨選択が大切です。この企画書の難点は、次のとおりです。
- 細かい部分の説明に終始し、全体感が掴めない
- 情報が項目ごとに分かれていないので、わかりづらい
イメージが掴めなければ企画書にあらず
そもそも企画書とは、どんな資料のことを言うのでしょうか。企画は問題を解決するために作られるものです。そして企画書は、そのような企画の実現に向けて協力を仰ぐものと言えます。新しくやりたいことがどういったものなのか、企画書でイメージを掴んで検討してもらい、賛同の意思決定をしてもらうのです。
そのため、自分の意見や現状をただ伝えるものでは不十分です。企画の全体感と具体的な内容、その企画を実行するとどうなるのかを書き、実行に進めるものでなくてはなりません。
一方、似たものに提案書がありますが、これは課題解決に向けた大まかな方向性を示すために作られます。どちらもアイデアを伝える資料ではありますが、企画書の方がより具体的な内容が求められます。
理想の企画書とは、どのようなものか?
ビジネス文書として理想の企画書とは、どういったものでしょうか。それは次の3点を押さえている資料です。
簡潔にまとまっている
確認したとおり、企画書は読んだ人が検討できるものでなくてはなりません。情報がとっちらかっているなど、分かりにくい企画書になっていれば、その内容がどんなに良くても検討や意思決定する段階にまで進めないでしょう。企画を通すには、読んだ人が検討できるように、必要な情報が簡潔にまとまっている必要があります。
情報の裏付けがある
企画を施策として実行するには、企画を実行することでどういった問題が解決できるのか、どんなメリットがあるのかが分かるものでなくてはなりません。ただ「いいと思う」といった主観的な意見では不十分です。客観的な情報で裏付けられた、確固たる根拠で「この企画で解決させなければ」と思わせることが大切なのです。
具体的なイメージができる
問題が解決できるとしても、費用対効果が見合わなければ実施できないでしょう。このように、適切に意思決定するは、「施策をどう行っていくのか」「この企画を実行するとどうなるのか」が具体的にイメージできる企画書が必要です。
理想の企画書を書くポイント
理想の企画書を書くには、どうすれば良いのでしょうか。まずは、企画書に必要な内容を確認しましょう。
・問題:現状で悩んでいること、誰かが求めていること
・原因:問題が発生している具体的な根拠
・解決策:誰に何を行うのかといった企画内容の詳細
・効果:解決策を行うと発生する効果やインパクト
すでに確認したとおり、企画書は問題を解決する企画の協力を仰ぐものです。企画によって問題を解決するのですから、どういった問題があるのか、その原因は何なのかを確認することは必須です。この原因は主観的なものでなく、具体的なデータに基づいたものにします。
こういった問題や原因は、企画の前提なので企画書に書かなくてもいいように思えるかもしれません。しかし、なぜ企画を行う必要があるのか説得力をもって説明するためにも、どういった方向性で企画を進めるのかをブレさせないためにも、問題感を共有が必要です。そのためにも問題や原因は企画書にしっかりと書きます。
解決策は、企画書のメインです。問題を解決するためのアイデアを、具体的に書きます。アイデアをとにかく細かく書けば良いと思ってしまいがちですが、そうではありません。意思決定の段階で不要は情報は書かなくても良いのです。この段階で必要な情報は、次の「企画書の必須項目」で紹介します。解決策にはどのような効果があるのかを結び付けて書きます。これがあることで説得力が増します。
それでは、企画書に必要なこの4つの内容を書くポイントには、どのようなものがあるのでしょうか。
フレームワークで客観的な情報を集める
具体的な企画にするには、問題をしっかり分析し、原因として明示することが大切です。すでに確認したとおり、「この企画は実行するべきです」と伝えるためには、情報の裏付けが必要です。フレームワークを使うと、そういった情報を簡単に集めて整理することができます。
【使えるフレームワーク】
・SWOT分析
・3C分析
・ロジックツリー
例えば〈SWOT分析〉は弱みと強みを分析する時に、〈3C分析〉は経営環境を分析する時に使えます。問題のどこに原因があるのかがあいまいな時は、〈ロジックツリー〉を使いましょう。〈ロジックツリー〉は問題を整理して全体像をつかむフレームワークです。これを使えば、問題に原因が複数あっても混乱せずに抽出できます。
これらのフレームワークの使い方は、次の記事で紹介しています。あわせて参考にしてみてください。
ロジカルシンキングで矛盾がないか確かめる
集めた情報は矛盾なく結び付ける必要があります。矛盾がないかどうかを確認するには、ロジカルシンキングに沿って考えるのがオススメです。なお、そのときに使える「So What? / Why So?」は次の記事で紹介しています。
6W2Hを押さえて書く
「解決策」は「6W2H」を押さえて書きましょう。「6W2H」は物事を具体的に考える視点です。「なに」「なぜ」「だれに」「だれが」「いつ」「どこで」「どのように」「いくらで」の疑問符ごとに考えれば、考えるべき視点を漏れなく企画書に落とし込むことができます。
What(なに) |
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企画の目的 何のための企画なのか?この企画で何を実現させたいのか? |
Why(なぜ) |
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企画の背景・理由 なぜこの企画が必要なのか?社会的背景、経済環境、他社状況などを交えてしっかり書くと説得力が増す。 |
Whom(だれに) |
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企画のターゲット 「Why」(企画の背景・理由)から導かれる、だれに向けた企画なのかを書く。 |
Who(だれが) |
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企画の実行者 誰が実行するのか?共同で行うのか単体で行うのか、中心人物は誰かなどが分かるように明記する。 |
When(いつ) |
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企画を実行するスケジュール いつ企画を実行するのか?所要日数や実行のタイミング |
Where(どこで) |
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企画を実行する場所 どこで企画を実行するのか?具体的な場所や会場の条件、オンライン・オフラインなども考える。 |
How(どのように) |
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企画を実行する手段・ステップ どのように実現するか?どのようなステップが必要か?他の部門・企業の協力が必要な場合、どう動いてもらうかなども考える。 |
How much(いくらで) |
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企画を実行するための予算・リソース 企画書の段階では概算で構わない。いくら投資して収益はどのくらいかといった費用対効果も書く。 |
企画書の必須項目
企画書を書くときは、「問題」「原因」「解決策」「効果」を具体的に落としこんでいきます。企画書に書くならば、どのような項目になるでしょうか。企画書に必要な項目は次のとおりです。
現状分析・問題点 |
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「問題」「原因」にあたる部分です。 なぜこの企画が必要なのか、企画を実行する必要があることを裏付ける根拠や経緯を書きます。具体的な数値、客観的なデータを交えることで、イメージが掴みやすいものになります。 |
企画の目的 |
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「現状分析・問題点」から、どんな状態を目指すのかを説明します。 売上目標、効果目標といった企画のゴールを具体的に書きます。ここで企画の方向性を示し、ブレなく伝えるようにします。 |
企画の内容 |
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「解決策」にあたる部分です。 誰に、何を、どんな手段でなど、6W2Hを押さえて企画の内容を書きます。 |
スケジュール |
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どのくらいの期間で進めるのかを説明します。 ただ期間を書くだけでなく、途中でどんなトラブルが起こり得るのかなどの仮説を含めて書くと、具体的なイメージのしやすい企画書になります。 |
収支計画 |
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どれくらいの投資が必要か、回収はいつどの段階でできるのかを説明します。 かかる費用が大きいなら、効果がどれだけ大きいかという費用対効果をしっかり説明することが大切です。それができていれば、費用はかかるけど価値は大きいと納得してもらえる企画書になります。 |
備考 |
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リスク・問題点があれば書きます。 企画書は検討と意思決定のための資料です。企画を行うデメリットがあるのならば、検討材料として書いておきましょう。 |
理想の企画書を書くテクニック
理想の企画書を書くには、「あいまいさを消して簡潔に伝える」「イメージが伝わるように書く」ことが大切です。これらは文章の書き方を工夫するだけでもできるようになります。ここではそんなライティングテクニックを紹介します。
なお、「具体性を上げて説得力を持たせる」「シンプルにわかりやすくまとめる」テクニックをあわせて使えば、企画書の説得力がアップします。この2つのライティングテクニックは、次の記事で紹介しています。あわせて参考にしてください。
あいまいさを消して、簡潔に伝える
「この企画は重要です」「この課題を解決しなくてはなりません」物事の重要さを伝えようするあまり、表現を強調してしまいがちです。しかし、企画書は簡潔に伝えることが大切です。表現に凝るのではなく、ほしい情報を的確に伝える文章にしたいところです。
- なくてもいい強調をせず、数値で伝える
✕「10月の平均訪問者数は、かなり減って5800人/日です。」
〇「10月の平均訪問者数は、17%減って5800人/日です。」
- 主語が「私」にならないようにする
✕「現在のアプリのトップページは、コンテンツが見やすくできていないと思います。」
〇「現在のアプリのトップページは、コンテンツが見やすくできていません。」
- 動詞は名詞化せずそのまま使う
✕「ボタンを押すと、自動で入力が可能になります」
〇「ボタンを押すと、自動で入力できます」
- 文章が冗長な時は、指示語を削る
✕「店頭でQRコードを読み込んでもらう。それによって、アプリにクーポンが付与される。」
〇「店頭でQRコードを読み込んでもらうと、アプリにクーポンが付与される。」
イメージが伝わるように書く
イメージをブレなく伝えるには、複数の受け取り方ができるような表現を排除しなくてはなりません。一般的な言い回しでも、意外と抽象的なことがあるので意識して文章を書きましょう。また、否定表現より肯定表現で書かれている文章の方が、読んだ人に伝わりやすく情報が残りやすいものです。文章を書くときはなるべく肯定的な表現で書くことがオススメです。
- 抽象的な表現を具体的にする
✕「データ抽出業務が改善されます」
〇「データ抽出業務にかかる時間が10分になります」
- 肯定的な表現をする
✕「部品交換の手間がかかりません」
〇「部品交換が簡単です」
企画書の文章を、ブラッシュアップするために
企画書を書き上げたら、必ず読み返してみましょう。資料を作ることに一生懸命になっていると、情報を伝えることに必死で文章が複雑になっていたり、遠回しな表現を使ったりしてしまいがちです。また、新商品の詳細だけ詳しく書かれているなど、漏れや偏りが発生していることがあります。
企画の全体感が掴めるものでなければ意思決定の判断材料にはなりません。情報が読み取りやすいか、6W2Hが漏れずに押さえられているか、この資料だけで企画のイメージが掴めるかなど、俯瞰して読んでみてください。
企画書の見直しチェックポイント
- ターゲットやスケジュールなど、あいまいなままの項目がないか
- 文章が長すぎたり冗長な表現になったりしていないか
- 企画を行うメリットがしっかり書かれているか
- 現実味のない企画内容になっていないか
- 客観的で具体的な根拠の裏付けがなされているか
- 抽象的な表現が残っていないか
- 主語が「私」になっていないか
【スムーズに通る企画書を書くポイント】
〇 全体感が掴めるように、項目を分けながらまとめる
〇 取り組む価値のある企画だと思ってもらえるよう、客観的なデータを交えて具体的に書く
〇 抜け、漏れ、偏りがないように情報を書く