自分のアイデアを相手に伝える提案書。とくに営業職などは、作成必須という人も多いでしょう。近年はPowerPointなどを使ってデザインに優れた資料を簡単に作成することができるようになりました。手軽に作成できる一方で、見栄えの良い報告書を作成しようとして、内容が伴わないものとなってしまうケースもあります。この記事では、ビジネス文書としての提案書を書く上でのポイントを構成や文章の側面から解説します。
【説得力を意識して提案書を書くメリット】
〇 具体的なイメージが持てる提案書が作れる
〇 口頭説明がなくても伝わる資料が作成できる
〇 内容を漏れなく的確に伝えることができる
提案書にありがちな失敗例
言いたいことを書いているだけの提案書
例えば、次のような提案書を受け取ったら、どのように思いますか。内容は、窓口業務の業務改善についてです。
カウンターには、常に2人以上が在席することになっている。しかし、18時~20時のカウンターへの来客はほぼ無く、平均1件/日である。そのため、18時~20時のカウンターは人員を不在としてもいいのではないか。
上記の例は、提案がなされているというよりも状況の説明です。なぜなら、そこにどういった問題があり、どのように解決されるのかといった具体的な道筋が無いからです。解決までの方向性が明確でなければ提案書でなく、さらにそこにメリットが感じられなければ、提案は採用されないでしょう。この提案書の難点は、次の2点です。
- 提案を行うことによって解決できる課題が書かれていない
- 提案による読み手へのメリットが書かれていない
説明がなければ分からない提案書
それでは、次のような提案書はどのような印象を受けますか。内容は、サービスの導入を勧めるものです。
現状 コールセンターの高い離職率
問題点 ・人手不足
・新人教育に時間が割けない
・業務のばらつき
解決策 マニュアル作成ツール「×××」の導入
効果 ・新人教育の効率化
・業務のばらつき解消
上記のような提案書では、何をどのように提案しようとしているのか読むだけでは分かりません。口頭で説明するつもりなのかもしれませんが、この資料で相手の理解を得ることは難しいでしょう。
例えば、会社で何かしらのサービスを導入しようと検討している場合、内容によっては、自分の提案を聞いてくれる担当以外の上席者なども関係します。そのため、その場に出席できていない人が、資料を読むだけで検討できる・納得させられるような提案書にすることは必須です。この提案書の難点は、次のとおりです。
- 口頭説明がなければ分からない内容になっている
- 定量的・具体的な情報がない
提案書と企画書は、役割が違う
そもそも提案書とはどういったものでしょうか。一般的に、提案書は、なんらかの課題を解決するための方向性や対策案が書かれるものです。サービスの導入や業務改善といった動機付けのために作られ、課題を整理して解決のための道筋を示すことが求められます。
一方、提案書に近しいものに企画書があります。企画書は新しくやりたいことのイメージが伝わるよう落とし込んで書かれたものです。新規プロジェクトや新商品開発などを行うに当たってアイデアを明示するために作られ、主に社内に向けて作られることの多い資料です。提案書も企画書も、どちらもアイデアを相手に伝えるものですが、求められる役割が違うのです。
理想の提案書とは、どのようなものか?
ビジネス文書として理想の提案書とは、どういったものでしょうか。それは次の3点が叶えられている資料でしょう。
要点がまとまっていてわかりやすい
提案書は、どのような課題についてどういった提案がなされているのかが分かりやすいことが絶対です。提案内容のメリットを書き出しただけの提案書は、分量が多く、分かりにくいものになります。せっかく提案書を作成したのに、内容が伝わらなくては意味がありません。要点をしっかりまとめ、シンプルに伝えようと意識することが大切です。
説得力がある
提案書はアイデアやサービスの情報を提示するだけでなく、それによって相手を納得させるものです。そのため、相手が求めていない内容やそぐわない内容になっていては意味がありません。提案する相手のニーズに沿ったもの、判断材料になる客観的な情報が提示されたものにしましょう。
うまくいくイメージができる
提案書は現状を良い方向に変えるものです。そのため、良い方向に進めるイメージができなければ意味がありません。当たり前ですが、現実味のある内容であることが絶対です。その提案を採用することで、何がどのように良くなるのかというメリットを感じさせることが大切です。
理想の提案書を書くポイント
分かりやすく、説得力があり、うまくいくイメージができるような提案書にするには、どうすれば良いのでしょうか。
論理的思考を行って、提案内容を組み立てれば、説得力はアップします。要点も明確になり、うまくいくイメージがしやすいものになるでしょう。知っておくと役に立つロジカルシンキングは、こちらの記事で紹介していますので、あわせて参考にしてみてください。
ただそれだけではなく、提案書を書く上で押さえるべきポイントがあります。そのポイントは次のとおりです。
提案の「目的」と「相手」を明確にする
提案書を作ってくださいと言われ、いきなり資料作成に入ってはいませんか。資料作成を行う前に、まずは資料全体の構成を考えましょう。そのために確認するべきことは、提案の「目的」と、提案書を読む「相手」です。
例えば、何かしらのサービスの提案書を作るときの目的と相手は何ですか。もし相手が「担当者」となっている場合は、上記の「口頭の説明がなければ分からない」提案書が出来上がってしまうでしょう。担当者だけでなく、その後ろに隠れている上席などのその場にいない関係者が読むことを踏まえた作成が必要です。
もし、目的が「サービスの紹介」となっている場合は、上で確認した「言いたいことを書いているだけ」の提案書が出来上がってしまうでしょう。この場合の目的には「サービスのメリットを知ってもらい、導入を検討してもらう」が1例として考えられます。このように目的を考える時は、相手にどうなってほしいのかを考えることが大切です。
全体の構成を考える
「目的」と「相手」が確定したら、提案書の内容を固めていきます。「「伝わる」文章を書くには、情報の整理から!」の記事で確認したとおり、テーマ(目的)をポイントごとに分解して考えると、何を書くべきなのかが分かりやすくなりますよ。
例えば、サービス導入に関する提案書は次のように分解できます。
課題とアイデアを結び付ける
提案書で設定された課題に誤りや齟齬があっては意味がありません。ヒアリングなどでしっかりと課題を洗い出すことがポイントです。
当たり前ですが、同じアイデアやサービスを提案するとしても、提案する相手によって抱えている課題やニーズは異なります。しかも、その課題やニーズは必ずしも分かりやすいものでなく、抱えている本人にとっても曖昧な場合もあります。相手に向き合い、しっかりと現状を可視化することが大切です。
その上で、課題の解決法を考えましょう。この時に重要なのが、提案するアイデアやサービスができることと結びつけることです。そうすることで、一方的なアイデアやサービスの紹介でなく、課題が解決できるものとしてうまくいくイメージを持ってもらえるものになります。
なお、提示された課題が解決されないまま残っていると、解決できないことがあると思われてしまいます。必ず提示した課題は全て対応するようにアイデアやサービスと結び付けることが重要です。
適切な媒体を選んで書く
以上のポイントを踏まえた上で全体の構成を設計したら、ようやく提案書の作成に入っていきましょう。一般的に、提案書はPowerPointやWordで作成されることがほとんどです。それぞれにメリットとデメリットがあるため、提案内容に合った媒体を選ぶようにしましょう。
- PowerPointの特徴
メリット |
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・図表や写真などを交えることができる ・デザインの自由度が高く、個性的な資料が作成できる ・プロジェクターに映して提案しやすい |
デメリット |
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・文字が多いと要点が掴みにくくなる ・デザインによっては煩雑になる |
注意点 |
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・デザインの自由度が高いため、個性的な資料が作れる一方で、読みにくいものとなる可能性もある。「目的」に沿ってデザインを考えるようにする |
- Wordの特徴
メリット |
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・文章が2~3行になっても読みやすい ・1枚にまとめることができる |
デメリット |
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・図表が写真などの掲載に向いていない ・プロジェクターを使った提案に向かない |
注意点 |
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・パワーポイントと比較すると文章が多く書けるが、冗長にならないように気を付ける |
PowerPointで作る提案書の例
PowerPointには複数のデザインが用意されているので、誰でも簡単に見栄えのいい資料が作成できます。ここではPowerPointを使った提案書の作成例とポイントを見ていきましょう。PowerPointで提案書を作成する場合、設計した全体の構成のとおりに、説明の流れに沿ってページを作成すると良いですよ。その時に必要なページは次のとおりです。
- 表紙
- 目次
- 内容(ポイント)
- 問い合わせ先
ここでは、マニュアル作成ツール導入の提案書を見ていきましょう。この提案書は、すでに相手から課題感や希望をヒアリングした上で作成したものを想定しています。提案の目的は「マニュアル作成ツールを知ってもらい、導入を検討してもらう」こと、提案相手は、業務の属人化に悩む「株式会社〇〇〇」です。
表紙
「表紙」では、この提案書がどういったものであるかを示します。そのため、次の情報を必ず明記しましょう。
宛名 |
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誰に宛てた提案書なのかを明示するため、提出先の宛名を書く。 「〇〇様」「〇〇御中」という形で、左上に小さなフォントで添えると良い。 |
タイトル |
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何についての提案なのかを、大きなフォントで書く。 タイトルは「〇〇について」というようなあいまいな形にせず、「〇〇のご提案」と提案書であることをハッキリと示すことが大切です。 |
日付 |
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提出する日付を書く。誤って作成日を書いてしまわないようにする。 |
企業名 |
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提案書を作成した企業の名前を書く。 特にサービスの導入を検討している場合は、相手が同様の提案書を複数受け取っていることもある。 この提案書はどの企業の提案書であるか分かるようにするのです。 |
目次
「目次」では、この提案書の全体の構成を説明します。まず、このページのタイトルとして、PowerPointの「タイトルを入力」部分に「目次」と書きます。そして「テキストを入力」部分に、目次の内容を書いていきます。
ページタイトル |
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目次ページであることが伝わるように「目次」と書く。 |
目次の内容 |
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各ページのタイトルを書く。 あまり長いものにはせず、「課題」「メリット」「スケジュール」といった、そのページで何が説明されるのかのキーワードを挙げるようにする。 |
「目次の内容」の項目には、番号もしくはアルファベットを振ります。「目次」以降のページ(「内容(ポイント)」「問い合わせ先」)に、ページごとのタイトルだけでなく数字も併せて書いておけば、全体のどこらへんに位置するページなのかが分かりやすくなるのです。
内容(ポイント)
全体の構成を考える時に、テーマをポイントごとに分解しましたが、ここではそのポイントごとに書いていきます。その時、「文章を書き過ぎない」ように気を付けましょう。文章が多すぎるとPowerPointは見にくい資料になります。なるべく掲載する情報を最低限にし、口頭で補足説明を行うつもりで書いていくのです。
ここで書く内容は、導入の目的・現在の課題など「相手によって異なるもの」と、サービス紹介・料金プランなどの「誰に対しても同じもの」があります。誰にでも当てはまる提案書よりも、「相手によって異なるもの」をまとめたページがある提案書の方が説得力があるのは言うまでもありません。相手が「この提案を採用すると、どんな良いことがあるのか?」がイメージできる提案書が、良い提案書なのです。
目次番号・タイトル |
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「目次」で付けた番号とタイトルを書く。 もしも複数ページや複数の項目を書かなくてはならない場合には、無理に1ページに収めるのではなく「2-1」「2-2」と番号を振り、小見出しを書くといい。 |
内容 |
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説明内容を書く。パッと見て分かりやすいように、箇条書きで書いたり、グラフを載せたりする。 グラフだけ載せているページがあってもかわまない。 |
提案を採用したときのことをイメージしてもらうために必要なものは、具体性です。「業務説明の負担が解消されます」と書かれるよりも「現在、20時間かかっている業務説明の時間が1時間に短縮されます」と書かれている方が、その効果を想像しやすくなります。現状や効果を、数値やグラフなども交えて具体的に書けば、説得力のある提案書になるのです。
また、画像を載せる場合には、文字にかからないように気を付けましょう。画像の上に文字があると、インパクトがあるように見えますが、画像も文字もに読みにくくなってしまいます。画像と文字は分離して書きましょう。
「誰に対しても同じもの」は、先にフォーマットを作っておけば資料作成の手間も軽減します。別途テンプレートとして作成しても良いですね。
なお、内容によっては、文章で書くと分かりにくくなるものもあります。どうすれば情報が伝わりやすくなるかを考えて、こちらも適宜グラフや枠を用いて示しましょう。表を書く場合、次のような工夫をすれば見やすいものとなります。
- 数字は右揃えにする
- 見せたい文字のフォントを大きくする
- 1行で書ききろうとせずに、改行してみる
問い合わせ先
この資料について聞きたいことがあった場合、どこに問い合わせをすればいいのかを書きます。行動を取りたいと思った時に参照できる資料にするのです。
説明 |
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どういった時に使う問い合わせ先なのかを書く。 |
問い合わせ先詳細 |
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この部分を読んで、問い合わせができるように情報を書く。下記の情報は必須です。 ・企業名 ・担当者名 ・連絡先(電話番号・メールアドレス) |
理想の提案書を書くテクニック
理想の提案書を書くには「具体性を上げて説得力を持たせる」「シンプルにわかりやすくまとめる」の2方向のテクニックがあります。
具体性を上げて説得力を持たせる
- 数値で具体的かつ定量的に
客観的な事実を伝えるには、数値で表しましょう。定量的な情報にすることで、相手が判断しやすいものになるのです。
×「◇◇サービスの導入によって、作業時間が大幅に短縮しました。」
〇「◇◇サービスの導入によって、作業時間が100分から10分と1/10に短縮されました。」
- 人によって受け取り方が異なる言葉を排す
「かわいい」「美しい」「優しい」「すごく」「満足」といった言葉も、人によって受け取り方が異なります。しかし、感覚的な言葉は数値化してしまうことも難しい場合も多い。「なにがどのようにすごいのか」「どうして美しいのか」を明確にすることが大切です。
×「美しいデザイン」
〇「使いやすさを目指してムダをそぎ落としたデザイン」
シンプルにして分かりやすくまとめる
- 一文一義にする
1つの文章に複数の項目が入っているだけで、理解しにくいものとなってしまいます。とくに提案書では、要点をしぼって簡潔に書かれることが望まれます。WordはPowerPointよりも文章が書けますが、冗長にならないよう注意しなくてはなりません。
×「・簡単に検索ができ、指定した人に共有もできる」
〇「・簡単に検索ができる
・指定した人に共有できる」
- 漢字やカタカナを多くし過ぎない
一般的に、ひらがなは7割・漢字は2~3割・カタカナが0~1割だと読みやすい文章であると言われています。厳密に計る必要はありませんが、読みにくそうだと思われないように漢字やカタカナのどちらかに偏らないよう努めたいですね。
×「導入のメリット
・新人教育効率向上
・全体的な作業効率向上」
〇「導入のメリット
・新人への教育の効率がアップ
・全体的な作業効率がアップ」
- 箇条書きは7つまで
項目が複数ある場合、文章で書くよりも箇条書きの方が伝わりやすくなります。しかし、あまりに項目が多いと、情報を把握しにくくなってしまいます。もし7つを越えるようであれば、項目を分ける、優先順位が高いものを優先して書くようにしましょう。
×「ツールの機能
・メモ機能
・共有機能
・報告機能
・検索機能
・編集機能
・バージョン管理機能
・バックアップ機能
・セキュリティ機能」
〇「利用機能
・メモ機能
・共有機能
・報告機能
・検索機能
・編集機能
管理機能
・バージョン管理機能
・バックアップ機能
・セキュリティ機能」
- 比較するときは表にする
数値の推移を見せるときや、複数の項目を比較するときは、箇条書きよりもグラフや表で示す方がわかりやすくなります。全体の割合を見せたい場合は円グラフ、推移を見せたい場合は線グラフなど、データの何を見せるのかを考えて選択しましょう。
×「導入件数は、2019年に1500件、2020年に3000件、2021年には6700件を達成しています。」
提案書をブラッシュアップするために
提案書を書き上げたら、全体を俯瞰して見直しましょう。とくに、PowerPointを使って作った提案書は、ポイントごとに作成しているために、気づかないうちに統一感が無くなったり、スライドによって情報量に違いが出たりしやすいものです。
誤字脱字などの細かい部分の確認だけでなく、全体を通して見た時にちぐはぐになっている部分はないか、ロジックが伝わりにくい箇所はないかなど、全体感を確認することで、提案書はブラッシュアップできます。
提案書の見直しチェックポイント
- 提案書に「目的」「相手」が設定されているか
- 全体のロジックが乱れていないか
- 挙げられた課題に対して、全てに解決策が提示されているか
- 一文一義になっているか
- 誤字脱字はないか
- 比較する項目は、箇条書きでなく図表で表されているか
- 箇条書きは7つを越えていないか
- 文章が漢字やカタカナに偏っていないか
- 専門用語が使われていないか
- 現実味のない提案がなされていないか
- 分かり切ったことが提案されてないか
- タイトルや見出しだけで内容が分かるか
- 提案内容が目的とずれていないか
- 文章が冗長になっていないか
- 複数人で分担して作った場合、フォントの種類や大きさは統一されているか
提案書だけでなく資料デザインのテクニックが学べる本
提案書はデザインに気を遣うことで、よりブラッシュアップできます。さらに、デザインのルールとテクニックとあわせて、PowerPointの使い方を身につければ、読みやすく魅力的な資料がスムーズに作れるようになります。ビジネス文書を作る上で役立つデザインを学びたい人は、『PowerPoint 「最強」資料のデザイン教科書』がオススメです。
【説得力のある提案書を書くポイント】
〇 その場にいない関係者などを含めた、提案書を読む人全体を意識して書く
〇 提案書によって相手にどうなってほしいのかという「目的」を意識して作成する
〇 提示した問題がすべて解決できるイメージが持てるように書く