「経営の見える化」を助ける!7種類のITツールと導入効果

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 みなさんは自社の現状をどのように把握しているであろうか。各部署や各業務ごとに情報を集計して把握している、または把握しきれてないという方もいるであろう。

 もしも社内に分散する情報を統一して管理出来たらどうなるであろうか。もしも情報を統一する時間と手間を省けたら、もしも統一された情報をリアルタイムで把握できたら、おそらく経営に劇的な変化が起きるのではないであろうか。本記事では、そのような“もしも”を叶えるITツールを「経営の見える化」の観点から紹介する。

連載「中小企業とクラウドサービス」

 1. うちも導入できる?身の丈に応じた、中小企業のデジタル化
 2. 導入例付き!「業務の効率化」に役立つ5つのITツール
 3. 「経営の見える化」を助ける!7種類のITツールと導入効果
 4. 在宅勤務で活用したい!6種の「環境にとらわれない働き方」を支えるITツール
 5. どう定着させる?ITツールの選定・導入のコツとポイント

目次

「経営の見える化」で何ができるか

 「経営の見える化」とは、会社の現状を常に把握できる状態にすることである。経営の見える化を行うことで、スピーディーな問題共有が可能となり、改善のための行動を適切に起こせるようになる。つまり、意思決定のスピードアップを図ることが可能となり、企業全体が問題解決と目標達成のために同じ方向を目指して動けるようになるのである。

 的確な分析データに基づけば、意思決定の質もより高まるであろう。また、従業員も全体的な動向を確認した上で問題解決にあたることができるようになる。経営の見える化は、生産性の向上や営業利益の増加にも結び付くものである。

 ITツールにはこのような環境作りを補助してくれるものがある。例えば、社内に散らばっている情報を統合するツールは、今まではできなかった新たな視点からのデータ分析を可能としてくれる。そのデータを基にすれば、より精度の高い現状把握が実現するであろう。さらに、分析結果をグラフや図表で分かりやすい形に整えて提示してくれるものもある。専門的技術が必要とされることを簡易化し、経営の見える化を手助けしてくれるのである。

リソースを管理するITツール

会計ツール

 業務にかかわる一連の経理業務を自動化してくれるツールである。売上や経費などがスピーティーに帳簿へ反映されるため、迅速な経営判断が可能となる。〈勤怠管理ツール〉や〈経費精算ツール〉と連携できるものもあり、従業員ひとりひとりのデータもすぐに反映できる。また、記帳や仕訳などを自動化し決算書の作成などを容易にしてくれるため、担当者の業務量も減少する。

効果

・迅速な経営状況把握

パソコンやスマートフォンなどさまざまな媒体から場所にとらわれず利用が可能である。そのため売上や経費をタイムリーに確認でき、マーケティングの効果などを素早く把握することが可能となる。税理士へもタイムリーに情報共有ができ、今の経営状況把握の手助けをしてくれる。

・法令改正への対応

会計ソフトをアップデートするだけで毎年改正されている税制に対応することができる。変更点の確認や書式の変更などを行う手間が省け、対応が漏れることもない。

・経理業務の効率化

連携した銀行口座やクレジットカードなど金融機関のデータを取り込める。事前に設定を行えば、自動計算だけでなく自動仕訳までを行うものもある。データを手入力する必要がなくなるため、人為的なミスが減少するであろう。

生産管理ツール

 製造にかかわる業務と情報を一元管理するシステムである。原材料の購入から生産工数、出荷に至るまでを見える化し、原価や工程、販売、在庫状況などの把握を補助してくれる。生産や出荷の適切量を分析予測することで、より適切な生産計画立案のサポートもしてくれる。

効果

・計画立案の補助

見積の値と実際の値を比較したり、現状をリアルタイムで確認したりすることで、原価変動や商品需要などさまざまな予測を行うことが可能である。また、予算や工程の見直し、設計変更などのシミュレーションも行えるため、予想外の注文などに対する影響なども鑑みた上で計画の立案を行うことができる。

・生産状況の可視化と効率化

受発注情報や在庫数など、生産状況に関する総合的な情報をリアルタイムで把握することができる。もし製造工程において業務負荷の偏りがあれば、すぐに発見できるであろう。稼働ラインの調整や人的配置など、適切な工程指示を直ちに出すことが可能となる。

・在庫の適正化

品目別やロット別などさまざまな観点から在庫管理を行う。受発注数などのデータに基づいて在庫管理ができるため、必要な量が明確になる。余剰在庫を削減し、売り切れを防止できるため、適正在庫の維持が可能となる。

社内情報を管理・共有するITツール

社内情報をITツールを使って共有している従業員

顧客管理システム(CRM)

 〈顧客管理システム〉は顧客情報を一元的に管理し共有するツールである。「Customer Relationship Management」(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の略から「CRM」とも呼ばれる。顧客の氏名や年齢だけでなく購買履歴や志向などの情報管理もできるため、多角的に顧客を把握できるようになる。

効果

・顧客情報を共有できる

顧客情報は部門ごとに管理されることが多い。〈顧客管理システム〉を導入すれば、顧客のあらゆる情報を全社的に共有し、可視化できるようになる。各部門の活動進捗などもわかるため、問い合わせがあった場合にも迅速な対応が可能である。

・効果的な営業やマーケティングを可能に

顧客のさまざまな情報を管理するため、より多角的に把握できるようになる。購買履歴を管理することで、マーケティングや営業活動で適切なアプローチが可能となる。それによりさらに精度の高い生産計画や販売予測を立てることもできるであろう。

・顧客満足度を高める

顧客にとってちょうどいいタイミングでサービスを提案するなど、常に先回りした対応が可能となる。顧客満足度を高めることができ、リピーターの創出にもつながるであろう。〈顧客管理システム〉は、顧客との関係性構築をサポートするツールでもある。

営業支援システム(SFA)

 〈営業支援システム〉は営業の見える化を行うツールである。「Sales Force Automation」(セールス・フォース・オートメーション)の略から「SFA」とも呼ばれる。属人化しやすい営業活動に関する情報をデータ化し、営業全体で共有する。例えば顧客や案件の情報・担当者の行動管理・売上の予実などである。近年は〈顧客管理システム〉とセットになったものもある。

効果

・営業ノウハウを企業の財産に

営業成績の良い担当者の実績を、ノウハウとして蓄積・共有することができる。企業の財産として蓄積できるため、担当者の退職や転職を機に技術や顧客を失うことがなくなる。また、そのノウハウを基にして営業部全体の動きを改善し、人材を育成することが可能となる。

・迅速な対応

問題のある案件や担当者ごとの課題が明確になる。それにより原因の分析・商談プロセスの見直し・担当者への支援などの対応を迅速に取ることが可能となる。

・営業情報のタイムリーな共有

営業活動のプロセスや情報が可視化され、全体で共有できるようになる。システムが日報作成などを自動的に行うため、営業担当者は業務に集中できる。担当者が不在でも、共有された情報を基に迅速な対応が可能になり、同じ顧客への営業なども回避できる。

タレントマネジメントツール

 〈タレントマネジメントツール〉とは従業員の人事に関するデータを見える化するツールである。個人情報だけでなく、業務経験やスキルなどさまざまな情報を一元管理し分析できる。従業員の能力を最大限活かした人材配置や、事業戦略に則った人材開発が可能になるのである。

効果

・戦略的な人材育成

従業員に合った人材配置や能力開発が可能となる。適正や経験をさらに伸ばして活用することができるため、総合的な視点で育成計画を立てられるであろう。従業員も必要な能力や足りないスキルなどが分かりやすくなるため、目標をもって業務にあたれるようになる。

・スムーズな事業展開

新規事業やプロジェクトの立ち上げ時に、従業員の選出がスムーズかつ適切に行える。優秀な人材の発掘が可能となり、従業員も自身の能力を最大限発揮できる場所で働くことができるのである。

・適切な人事評価

評価者による評価の偏りを防ぎ、客観的で適切な人事評価が行われる。そのため、従業員に対する能力評価が公正なものとなる。目標設定も行いやすくなるため、従業員のモチベーションも上がるであろう。

企業資源を一元化するITツール

企業資源をクラウドで一元化する従業員

ERP

 「Enterprise Resources Planning」(エンタープライズ・リソース・プランニング)の頭文字を取って「ERP」と呼ばれる。直訳すると「企業資源計画」という意味で、企業全体の資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を全部門で統合することで、業務の最適化につなげようという概念である。ここで紹介する〈ERP〉とは、その概念に基づいて生まれたシステムのことである。

 〈ERP〉とは、会計・人事・生産・物流・販売などで個別に管理している企業資源を一元化して管理できるようにしたシステムである。上記で紹介した〈会計ツール〉もこの一部に含まれ、他の業務と横断的に管理される。業務間でのデータ連携の手間がかからず、効率よく運用を行えるようになる。またリアルタイムに経営状況を把握できるため、経営基盤の強化にもつながり、経営上の意思決定を迅速に行えるよう整えてくれる。

効果

・経営判断のスピードアップ

システム上に全社的な経営情報が集約されるため、個別で管理している時には気づかなかった情報やボトルネックを発見できるであろう。そのような精度の高い情報を活用して、売上などの予測を立てることも可能である。予測に基づくことで、より的確な計画やフローを立てることができるであろう。

・タイムリーな情報共有

企業の持つ資源(モノやカネ)の動きに連動して、関連するデータがリアルタイムで更新される。販売、在庫、会計などのデータが部門を横断して更新・共有されるため、材料の納品予定や製品の在庫状況、受注数などの最新情報が部署や業務を越えて把握できるようになる。

・情報連携の手間を削減

業務や部門ごとに個別管理されていたデータを一元化することができる。データ共有の手間や、各業務で使用しているシステムへのデータ入力の手間が削減されるため、従業員は本来の業務に集中することが可能になる。

さらなる見える化を促進するITツール

BIツール

 企業に蓄積されているデータを分析し、企業の見える化をサポートするツールである。「BI」とは「Business Intelligence」(ビジネス・インテリジェンス)の略である。データの分析、レポーティング、業績のモニタリングを行い、経営の意思決定や予算編成などのスピードと精度を高めてくれるであろう。

 〈BIツール〉は用途が幅広いため、目的がなくては使われなくなりがちである。また操作方法が難しいものもあり定着しないケースもある。自社の目的や条件にあったツールの選択が必要であろう。近年では分析に関する専門知識を必要としないものも出てきている。

効果

・社内データを横断的に分析

〈顧客管理ツール〉〈営業支援ツール〉など複数のシステムに散在するデータを集約し、分析や報告ができる。横断的な分析により、今までとは違う角度で情報を見ることが可能となる。

・早期の課題発見と意思決定

分析結果から隠れていた問題や課題が浮き彫りになる。それぞれのデータの関連性を見つけることで、早期の解決や意思決定に乗り出すことができるであろう。

・データの明確な可視化

〈BIツール〉は分析したデータをグラフなどで分かりやすく可視化してくれる。そのため判断がしやすく、自社の現状や顧客の傾向、市場動向が迅速に掴めるのである。

ITツール導入例    

顧客情報を共有して、事業承継に繋げる

有限会社 河内建設(建設業)

  • 課題 使用システムのサポート切れ 
  • 目標 蓄積した顧客データの守りたい 原価管理を行いたい
  • 導入ツール 顧客管理システム
  • 効果 顧客データの一元化 情報の社内共有 顧客管理時間の削減 事業継承の不安排除

 パソコンシステムに顧客情報を細かく記録していたが、サポート切れが迫ったため新たな顧客管理方法を探していた。大事なデータを守るため、バックアップが容易なクラウドサービスの顧客管理ツールを導入した。原価管理についてもツールを探したが、こちらは予定よりオーバースペックのものが多かったため、従来のExcelを作りこみ〈顧客管理システム〉からリンクする形とした。

 問い合わせや作業履歴などのデータが一元化され、顧客情報をすぐに確認出来るようになった。顧客管理の作業時間は従来の5分の1となった。大事な情報が社内共有できるようになり、事業継承の不安がなくなった。

データの一元管理で、経営情報にすぐアクセス

有限会社 アクセスコーポレーション(販売サービス)

  • 課題 使用システムが使用不可に 情報の一元化に踏み込めない
  • 目標 情報の一元管理
  • 導入ツール ERP
  • 効果 必要な情報の出力が容易に タイムリーな情報把握 データ入力時間の削減

 使用していたソフトウェアが使えなくなり、販売管理システムの緊急対応が必要となった。その時に利用したシステムで基幹業務データの一元管理が可能と説明を受けた。情報の一元化のメリットや、段階的な導入が可能という説明を受け、5年かけて導入を進めた。

 顧客の訪問記録や地域別の粗利益など、ほしいデータをすぐ取り出せるようになった。また、税理士や社労士に頼んでいた業務をシステム内で行えるようにもなった。販売データが会計に反映されるなどタイムリーな情報が得られるほか、情報入力の手間も減った。

 近年、中小企業向けの「経営の見える化」を補助するITツールも出てきている。そのため大企業でなくても、新しい視点からの現状分析や、円滑な情報の共有と管理が可能となっている。しかし、働き方を大きく変えるツールもあるため、従業員の啓蒙と協力なしには定着しづらいものである。また、〈BIツール〉のように導入が簡単でないものも多い。もし導入を考えるのであれば、自社の現状に合っているか、どのような使い方をすることで目標達成を目指すかなどを必ず検討し、明確なビジョンを持つ必要がある。

 次回の第4回は「環境にとらわれない働き方」を創出するITツールを紹介する。リモートワークが普及しつつある中で役立つITツールとはどのようなものかを確認する。

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