うちも導入できる?身の丈に応じた、中小企業のデジタル化

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 今や企業の活動にとってITは重要な存在である。既に会計ソフトを使っている、WEB会議システムを取り入れているという人もいるかもしれない。一方で、ITの導入は費用が高い、手間がかかる、ITに詳しい人材がいないなどと敬遠している人もいるであろう。

 近年、クラウドサービスの登場によりITの導入ハードルは下がっていると言える。自社で抱えている問題の中にはクラウドサービスの導入で解決するものもあるかもしれない。

 本連載では中小企業のIT活用、とくにクラウドサービスの活用について考えていく。活用にはどのような効果があり、サービスにはどのようなものがあるのか紹介を行う。Part1の本記事では、中小企業のデジタル化における現状や、IT導入のハードルはどのように下がっているのかクラウドサービスとは何なのかについて確認する。

連載「中小企業とクラウドサービス」

 1. うちも導入できる?身の丈に応じた、中小企業のデジタル化
 2. 導入例付き!「業務の効率化」に役立つ5つのITツール
 3. 「経営の見える化」を助ける!7種類のITツールと導入効果
 4. 在宅勤務で活用したい!6種の「環境にとらわれない働き方」を支えるITツール
 5. どう定着させる?ITツールの選定・導入のコツとポイント

目次

課題解決のためのIT活用

中小企業の生産性向上

 中小企業の利益率は大企業よりも低い傾向にある。利益が上がらなければ、従業員の待遇改善や人材の定着は難しい。労働力の確保や増強ができなければ利益は伸び悩むであろう。これらの悪循環から脱するためにも、中小企業は生産性の向上に取り組む必要がある。しかし現在において、ITを導入せずに効果の大きな生産性向上は難しいと言える。

 ITによって現在抱えている問題を改善することができる。例えば、今まで人が行っていた業務を自動化すれば、従業員を人手が必要な業務に回せるようになる。従業員の残業時間を減らすこともできるであろう。そもそも人手が必要なくなることもあり、人材不足が解決する場合もある。また、業務の属人化も防げるため、急な担当者の不在でも業務が滞る心配はなくなる。ITは自社の限りあるリソースを補ってくれるのである。

ITの活用で得られること

業務の効率化

 日々の計算や転記などをITで自動化することが可能である。どうしても起きてしまうミスや業務のムダ・ムラをできるかぎり省くことで、業務の効率化やコスト削減が可能となる。それにより生産性は向上するであろう。

経営の見える化

 現場のデータをリアルタイムで共有することが可能となる。常に現場の情報を社内全体で把握することができるため、策定や意思決定もスピードアップする。同時に、情報をわかりやすい形にしてくれることで、意思決定の質も向上するであろう。

環境にとらわれない働き方

 コロナ禍によってリモートワークやWEB会議など働き方を見直す動きが広まった。場所にとらわれない働き方を考えることで、従業員も働きやすくなるであろう。またオンライン上でやりとりする環境を整えれば、販路の大幅な拡大も狙えるであろう。

中小企業のIT導入・活用の現状

 コロナ禍により、中小企業のIT導入・活用に対する関心は高まっていると言える。2021年版の「中小企業白書」第2部第2章では「事業継続力と競争力を高めるデジタル化」と題して企業のデジタル化に関する調査を分析している。ここでのデジタル化とは「アナログデータをデジタルデータに変換・活用し、業務の効率化を図ることや、経営に新しい価値を生み出すことなど」を指す。これによると、デジタル化に対する事業方針上の優先度を「高い」「やや高い」と回答した企業は、全業種において約46%から約62%に上昇している。「中小企業白書」は「感染症の流行がデジタル化の重要性を再認識させる一つの契機となっている」と指摘している。

感染症流行前は、デジタル化の優先度が高い・やや高いと答えた企業は45.6%。感染症流行後は61.6%となっている。
2021年版「中小企業白書」中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/chusho.html)
第2部 第2章 第1節 〈図2-2-1〉を元に作成 株式会社デジタルボックス

 以下のグラフは、コロナ禍を踏まえた事業継続力の強化におけるデジタル化への意識変化である。これを見ると、約66%の企業がデジタル化の重要性への意識が高まったと回答している。「事業継続力の強化」という観点からもデジタル化への意識が高まっていることが分かる。

事業継続力の強化におけるデジタル化の重要性への意識 高まった66.4% 高まっていない33.6%
出典:2021年版「中小企業白書」中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/chusho.html)

 コロナ禍に伴ったデジタル化の取組において重要度が上昇した項目は以下のとおりである。「経営判断や業務プロセスの効率化・固定費の削減」といった業務効率化に関する項目だけでなく、「新たな事業や製品、サービスの創出と改善」など新たな価値を生み出す観点でデジタル化に取り組もうとする意識も大きい。

感染症流行に伴いデジタル化の取り組みにおいて最も重要度が上がった項目 どの業種も「経営判断や業務プロセスの効率化・固定費の削減」が大きい。
出典:2021年版「中小企業白書」中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/chusho.html)

 このように、中小企業でもITの導入と活用は進みつつある。「事業継続力の強化」という観点からデジタル化を捉える企業も増え、さまざまな面での活用を進めている。大企業でなくても、自社の方針や課題に沿ってITの導入を進めることができるのである。

課題や規模に応じたIT導入

「身の丈IT」の推進

 ITの導入という言葉を敬遠する人もいるであろう。また、大企業と同じようなシステムを入れることはできないから導入できないと考えている人もいるかもしれない。ITの導入において、大企業と同じシステムを入れる必要はない。また大がかりにシステムを導入しなくても良い。一部の部署から、一部の業務から始めることも可能なのである。

 経済産業省や中小企業庁は、中小企業が自社にあったIT「身の丈IT」の導入・活用を推進し、さまざまな支援や取り組みを行っている。その中で取り上げられるものが「ITツール」の導入である。

中小企業の身の丈に応じたITツールの普及促進について│中小企業庁

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/smartsme/2019/191010smartsme02.pdf

中小機構の行う「身の丈IT活用」に関する取り組み | 中小機構

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/smartsme/2019/191010smartsme030.pdf

 「ITツール」とはソフトウェアやサービスのことである。これを使えば、小規模からのIT導入が可能である。近年では専門的な知識がなくても使いこなせるツールが数多く開発されている。特に「クラウドサービス」という新しい使用環境のものが登場し、IT導入のハードルはますます下がっていると言える。

ITツール導入の注意点

導入が「目的」になりがち

 クラウドサービスをはじめとしたITツールは導入しやすいため、導入自体が「目的」となってしまう危険性がある。解決するべき課題があり、その対応策としてITツールは導入されるべきである。そのため課題を解決しないツールならば導入の必要はない。新しい、便利そう、といった理由での導入ではなく、必ず「目的」に沿っているかどうかを検討しなくてはならない。

ITツールが乱立するかもしれない

 複数の業務でITツールを使うようになると「このツールのデータを、あのツールのデータと合わせて使いたい」ということが出てくる。しかし複数のITツールを導入していくと、それぞれのデータが連携できない場合もある。連携できないためにデータを出力して人力で合わなくてはならない、ということにもなりかねない。

 ITツールに互換性がありデータを連携することができれば、グッと使いやすくなり、できることの幅も広がる。もしITツールを導入するのであれば、今使用しているツールや今度導入予定のツールと互換性があるかどうか確認することをおすすめする。

中小企業に合ったIT形態

シェアが広がるクラウドサービス

 「クラウドサービス」とは、手元のパソコンやスマートフォンで利用できるネットワーク上のサービスである。

 ひと昔前であれば、ITソフトを購入し自社のパソコンに入れて使っていた。そのためパソコンが自然災害などで壊れてしまった場合には、ソフトもデータも同時に破損する恐れがあった。しかしクラウドサービスであれば、ソフトもデータもネットワーク上で保存管理が行われるため、パソコンが壊れたとしてもデータは守られる。また、設備やシステムを運用保守する従業員を自社に置く必要がなく、知識がなくても利用可能である。

サブスクリプション

 サブスクリプションとは継続定額課金型のサービスである。一定額を定期的に払い続けることでサービスが使い放題となる。ひと昔前はパッケージソフトを購入する買い切り型が主流であった。買い切り型は一度購入すれば出費なく使える。しかし導入の費用が高額な上、バージョン更新などはされないため、古くなれば新しいものを購入するしかなかった。サブスクリプションは導入の費用が安く済む。定期的に支払いが発生するが、常に新しいバージョンが使用できる。

クラウドサービス導入のメリット

スモールスタートが可能

 IT導入を小さく始めることが可能である。もしも一部の業務でのみITを導入するのであれば、さまざまなサービスの中からその業務に特化したものを選べば良い。すべてができる大がかりなものを導入したり、機材を揃えたりしなくても済むのである。

 IT導入を小さな範囲で始めれば、思わぬリスクが発生したとしても業務への影響範囲は少なくて済む。業務停滞の可能性は低くなるであろう。また、一部の業務や部署で導入して、ツールの使い方や注意点などを確認しあうことも可能である。費用対効果、使い勝手、自社の課題などを鑑みて、徐々にIT導入の対象範囲を広げるといった始め方ができるのである。なお、サービスによっては利用するアカウント数によって値段が変わるものがあるため、導入範囲を絞ることで安価に済むこともある。

サーバーや保守管理者の設置が不要

 クラウドサービスは、自社でサーバーなどを設置する必要がない。サービスを運用する企業がサーバーを設置し、利用者はそのサーバーを手元のパソコンで利用することになる。自社でサーバーや運営保守する従業員などを設置しなくて済むのである。

クラウドサービス導入のデメリット

カスタマイズしにくい

 クラウドサービスはある程度の型が決まっている。自社に合うように開発されたものではないため、仕様を越えた機能の追加や見た目の変更をすることはできない。自社向けにシステムを構築したツールと比較すると、柔軟性の点で劣ると言える。

セキュリティはツールを運営する会社に任される

 データは自社のパソコンの中にあるのではなく、クラウドサービスのサーバーに保存されることとなる。そのためにセキュリティは自社でなくサービスを運営する会社にゆだねられることとなる。サービスを選ぶ際には、セキュリティがしっかりしているかどうかを観点に入れると良いであろう。

 近年、ITの導入は自社にあったスケールから手軽に始められるものとなっている。自社の課題を解決するために、クラウドサービスのITツールを検討してみてはいかがであろうか。中小企業のIT導入については政府も積極的に推進している。補助金や相談窓口の設置などもあるため、「費用が足りないから」「相談する人がいないから」と諦める必要はない。

 次回から数回にわたって、どのようなクラウドサービスがあるのかを導入効果ごとに確認していく。次回は「業務の効率化」で役立つサービスを紹介する。

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