SDGsのゴールから考える!自社の課題の見つけ方と注意点

自社の課題の見つけ方・注意点(中小企業とSDGs Part3)アイキャッチ

 SDGsの目指す目標があまりに大きいために、身近な課題を見出せず戸惑う企業は多いであろう。SDGsの目標をそのまま自社の目標にしたとしても、何を実行するのかあいまいでは意味がない。自社が取り組むべき事は何なのかを考えるためには、自社にとって身近な課題とその方向性を明確にする必要がある。

 取り組むべき課題と方向性を決めるには2つの観点があると言えるであろう。1つは、前回の記事「自社らしい活動とは?SDGsの取り組みを考える観点」で確認したように、自社の理念と活動をひも解くことである。そして、もう1つはSDGsが掲げる目標をかみ砕くことである。

 本記事では、SDGsが掲げる目標をかみ砕き、SDGsの大きな目標を自社の課題として落とし込むにはどうすればいいのかについて考えていく。

連載「中小企業とSDGs」

 1. なぜ取り組む?中小企業がSDGs経営をする強みとメリット・デメリット
 2. 自社らしい活動とは?SDGsの取り組みを考える観点
 3. SDGsのゴールから考える!自社の課題の見つけ方と注意点
 4. 中小企業の実例付き!SDGsに取り組む3つの切り口
 5. SDGsの実践に向けて~SDGs取り組み手順と日本の進捗状況

目次

SDGsが掲げる目標をかみ砕く

 SDGsが掲げる目標を自社の取り組みに落とし込むにはどうすれば良いであろうか。それには2つの観点がある。1つは「解決すべき課題を見つけ、その要因を明確にする」こと、もう1つは「目標達成のために必要なことを、逆算して考える」ことである。

目標の要因から考える

 SDGsの目標は人類が直面している課題を整理し、解決するためにはどうすればいいかを考えた上で設定されている。そのため、目標の裏には必ず課題がある。例えば「14.海の豊かさを守ろう」という目標設定の裏には「海の豊かさが確保できていない」という課題がある。この大きな課題の要因を考え、解決のために自社ができることを考えるのである。

 それでは「海の豊かさが確保できていない」という課題には、どのような要因が潜んでいるのであろうか。「環境白書」によると、日本ではプラスチック類を含めた多量の海洋ごみが生態系や海洋環境の悪化や海岸機能の低下を引き起こし、漁業や観光などに影響を及ぼしている。また、「水産白書」によると、世界では過剰に漁獲される資源が増加しており、持続可能なレベルで漁獲される資源の割合は減りつつある。

平成30年度 水産白書

出典:https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h30/

 ここまで落とし込むと、取り組みの方向性も見えてくるのではないであろうか。海に漂うプラスチックを減らすためにプラスチック製容器の使用を停止する、海洋資源回復のために稚魚育成と放流を支援する、といった取り組みなどが浮かぶであろう。

目標達成に必要なことから考える

 SDGsの目標をかみ砕くもう1つの観点は「目標達成のために必要なことを、逆算して考える」ことである。どうすればSDGsで示されるような社会が実現できるのかを想像し、何が必要なのかを考えるのである。例えば「11.住み続けられるまちづくりを」が達成された社会はどのような社会であろうか。それは大気汚染が解消され、エコでクリーンな街かもしれない。都市の過密化と地方の過疎化が緩和され、誰もが便利で快適な暮らしを送れる社会かもしれない。

 具体的な未来として「都市の過密化と地方の過疎化が緩和され、誰もが便利で快適な暮らしを送れる社会」を目指すためには、何が必要であろうか。例えばリモートワークやオフピーク通勤などの柔軟性のある働き方を進める、住む場所に関係なく安心して買い物ができるサービスを開始する、といった取り組みが考えられるであろう。地方の過疎化が緩和されると、新たな層の顧客が増えるかもしれない。自社が受ける影響を踏まえて想像することも必要である。

 SDGsの目標に対して自社で取り組みを考えるためには、まず課題の要因や必要なものを明確にすることが大切である。そこまで落とし込めれば、自社が取り組むべき方向性も検討しやすくなるであろう。

SDGsが掲げる目標をより深く知る

 SDGsの目標をかみ砕くためには目標自体を知る必要がある。ここではSDGsの目標をもう少し具体的に確認していく。SDGsは17の目標があるが、それぞれはバラバラでなく、全てが連関しあっている。それを分かりやすく提示する図が「SDGsウエディングケーキモデル」である。

SDGsウエディングケーキモデル(上から経済圏・社会圏・生物圏の順で重なっている)
SDGsウエディングケーキモデル
出典:ストックホルム・レジリエンス・センター

 「SDGsウエディングケーキモデル」は、ストックホルム・レジリエンス・センター所長であるヨハン・ロックストローム博士と理事会メンバーのパヴァン・スクデフ博士が考案したものである。SDGsの目標を分かりやすくするために、それぞれの目標を「生物圏」「社会圏」「経済圏」の3つの層に分類している。

 土台に当たる層は「生物圏」である。この「生物圏」がなければ「社会圏」は成り立たず、「社会圏」が成り立たなければ「経済圏」は成り立たない。ここではこの分類に従って、各層について確認していくと同時に、取り組み例を業種ごとに確認する。

環境にできること

 「SDGsウエディングケーキモデル」の土台にあたる「生物圏」に属する目標は、次の4つである。

6.安全な水とトイレを世界中に

13.気候変動に具体的な対策を

14.海の豊かさを守ろう

15.陸の豊かさも守ろう

出典:国際連合広報センター「持続可能な開発目標」

 「生物圏」のキーワードは、「環境問題」や「気候変動」である。「持続可能な開発目標(SDGs)報告2020」によると、気候変動により自然災害の頻度と深刻度が悪化し、2018年には被災者が3900万人を上回るという。また、海や陸の自然は依然として危機的状態にあり、今後ますます多くの生物に影響が出るとされている。農地の拡大により森林面積は縮小し、それによって多くの生物種と気候変動に影響を与えている。公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWF JAPAN)によると、海には多くのプラスチックごみが流出している。特に1人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量が世界2位の日本は対策が求められている。

 「生物圏」はウエディングケーキの土台である。これが整わなければ、上に乗る「社会圏」や「経済圏」は支えきれず、重大な影響を及ぼすであろう。一見、ビジネスから遠く離れた目標のように思われるかもしれないが、大変重大な課題なのである。

業種SDGsの目標取り組み例
製造業 14.海の豊かさを守ろう国際認証のある原材料を購入する。絶滅危機にある動植物を使わない。
建設業13.気候変動に具体的な対策を
15.陸の豊かさも守ろう
材料を地域材でまかなう。
輸送にかかるCO2を削減。輸出のための過剰な木材伐採も削減。
飲食業13.気候変動に具体的な対策を 
14.海の豊かさを守ろう
無料カトラリーやフードパック容器を、プラスチックでないものにする。
小売業14.海の豊かさを守ろう
15.陸の豊かさも守ろう
過剰包装をやめ、簡易包装にする。
リサイクルできる素材の包装用品を選ぶ。
業種ごとの取り組み例
作成:株式会社デジタルボックス

社会にできること

 「SDGsウエディングケーキモデル」の「社会圏」に属する目標は、次の8つである。

1.貧困をなくそう

2.飢餓をゼロに

3.すべての人に健康と福祉を

4.質の高い教育をみんなに

5.ジェンダー平等を実現しよう

7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに

11.住み続けられるまちづくりを

16.平和と公正をすべての人に

出典:国際連合広報センター「持続可能な開発目標」

 「社会圏」のキーワードは「教育」「健康」「差別」である。「持続可能な開発目標(SDGs)報告2021」によると、情報通信技術、技術の変化に適応できる労働者を生み出すためには、継続的な教育と訓練が必要となる。しかし、感染症の流行によって教育が中断し、情報通信環境がないために、能力を得られる機会を失った人は多い。他にも、感染症の流行は、飢餓や食料不安の増加率を高めると同時に、子供の発育阻害や疾患を持つ人の負担を悪化させている。また、若者と女性の失業率は高く、引き続き女性が家庭で強いられる無給の家事や育児などの負担は大きい。

持続可能な開発目標(SDGs)報告2021

出典:https://unstats.un.org/sdgs/report/2021/

 自然環境が整ったとしても、人が不自由なく平等に生活できる社会でなければ、経済の基盤は整えられないであろう。社員の健康や人権、教育など、社内にもこの目標に関連した課題があるはずである。世界的な課題として考えると同時に、自社の現状に落とし込んで考えることも大切である。

業種SDGsの目標取り組み例
製造業4.質の高い教育をみんなに
5.ジェンダー平等を実現しよう
資格取得の補助を行うなど、従業員の成長を支援する。
AIやIoTを使って、性差に因らない職場環境を作る。
建設業3.すべての人に健康と福祉を
11.住み続けられるまちづくりを
広域災害時に地域対応できるまちづくりをする。
災害対策物資やライフライン確保のための備蓄を行う。
飲食業1.貧困をなくそう
2.飢餓をゼロに
残り物の持ち帰り対応受付や、売り切れ御免とする。
賞味期限が迫る素材を使って、子ども食堂に参加する。
小売業11.住み続けられるまちづくりを
16.平和と公正をすべての人に
不便や困難を感じている人に対して、買い物支援を行う。
業種ごとの取り組み例
作成:株式会社デジタルボックス

経済にできること

 「SDGsウエディングケーキモデル」の最上層「経済圏」の目標は、次の4つである。

8.働きがいも経済成長も

9.産業と技術革新の基盤をつくろう

10.人や国の不平等をなくそう

12.つくる責任 つかう責任

出典:国際連合広報センター「持続可能な開発目標」

 経済圏でのキーワードは「差別」「働きやすさ」「技術革新」「経済発展」である。「持続可能な開発目標(SDGs)報告2021」によると、所得の不平等はいくつかの国で縮小したものの、いまだ感染症の流行によって立場の弱い人達は打撃を受けている。また世界的に経済成長も鈍化しており、多くの国々では2022~2023年以前に経済成長がコロナ禍前の水準には戻らないと予想される。

 また依然として、経済発展のために多くの資源が許容量を超えて使用されている。1年分の資源を使い切る日を換算した「アース・オーバーシュート・デイ」によると、2021年において世界が1年分の資源を使い切る日は7月29日と発表されている。つまり、人類は生態系が再生する早さよりも約1.7倍速く自然資源を消費し、足りない部分は将来の人々が使うはずだった資源を先取りして補っているのである。また、日本は5月6日に資源を使い切るとされており、世界平均よりも早く資源を使い切っていることになる。

アース・オーバーシュート・デイ
出典:https://www.overshootday.org/

 世界経済の発展のためには、自然環境・社会基盤の整備が必須である。生物圏・社会圏の目標を看過することなく整備すると同時に、経済圏の目標を目指すことが肝要である。「技術革新」により、人々の暮らしや「働きやすさ」を向上させ、属性に因る「差別」をなくすことで、国や世界の「経済発展」につながるのである。中でも「働きやすさ」はどの企業においても密接に関わる内容である。まずは自社内の現状を見つめることも大切である。

業種SDGsの目標取り組み例
製造業 9.産業と技術革新の基盤をつくろう省エネ・節電・自然由来エネルギーの優先利用で循環型社会に寄与する。
建設業12.つくる責任 つかう責任認証がある素材や再生材を優先して活用する。
解体時の廃棄物が減らせるよう、資材の再利用を念頭に置いて設計する。
飲食業8.働きがいも経済成長も
12.つくる責任 つかう責任
地産地消を行い、地域を活性化させる。
小売業10.人や国の不平等をなくそうフェアトレード商品を取り扱う。
業種ごとの取り組み例
作成:株式会社デジタルボックス

パートナーシップで達成を目指す

17.パートナーシップで目標を達成しよう

出典: 国際連合広報センター「持続可能な開発目標」

 いずれの層に含まれていない目標が1つある。それがこの目標である。持続可能な開発のためには「生物圏」「社会圏」「経済圏」の3つの層を統合させて解決することが必要である。その時に重要となるのがこの目標である。

 以前の記事でも確認したとおり、SDGsの目標は一企業だけの力では達成することは難しい。世界的に達成していくためには、立場の違いを超えた相互の協力が必要である。例えば、国や企業や行政などといった枠組みにとらえられず、共に地域を創生していくことなどがあげられるであろう。ただ3つの層の課題解決に取り組むだけでなく、全体が同じ目標達成を目指して協力することこそが、目標達成には不可欠なのである。

SDGsへの貢献と自社の強み

 SDGsは企業としての取り組みである。そのため次の2点に注意を払わなくてはならない。1つ目は、企業として取り組める活動になっているかどうかである。

 個人が取り組むSDGsであれば、「食べ物を残さない」や「自転車通勤を続ける」といった取り組みでも良いであろう。しかしながら企業として取り組む場合は、社員がバラバラで活動するのではなく、社員全体が取り組めることでなくてはならない。そのため「食べ物を残さない」という個人的な目標は「社内イベントの食事は、ロスが出やすいビュッフェ形式でなく弁当にする」といった活動にまで落とし込む必要がある。

 2つ目の注意点は、ビジネスとして取り組める活動になっているかどうかである。SDGsは単なる社会貢献活動ではなく、ビジネスとして対応していくことが求められている。そのため「課題に対して自社がどのように貢献できるか」「自社だからこそできることは何か」を考えることこそが何より大切である。

 どの企業でもできることを取り組むことはもちろん良いことである。しかし、それでは他社にとって代わられる可能性がある中小企業の場合、事業内容が特定の分野に特化しているために、大企業が把握できていないようなニーズを知っている場合がある。ビジネスとして対応していくためには、それらにいち早くアンテナを立て、「自社だからこそできること」を考えることが大切である。SDGsの目標に即して自社だからこそできる貢献を考えることは、自社の強みや魅力を再発見することにも繋がるであろう。

 取り組むべき課題の方向性を決めるには、SDGsの掲げる目標と、そこにある課題について知ることが大切である。その上で、自社の強みでその課題が解決できそうか、自社のリソースで改善に寄与できそうか、ビジネスを通じて対応できそうかを考えるのである。

 次回は、ビジネスを通じてSDGsに取り組むとはどのようなことなのかについて考える。SDGsに取り組む中小企業の例を見ながら、企業活動とSDGsの好循環を創出することについて考える。

自社の課題の見つけ方・注意点(中小企業とSDGs Part3)アイキャッチ

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

目次