中小企業の実例付き!SDGsに取り組む3つの切り口

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 SDGsの大きな目標から、企業の身近な課題にまで落とし込む方法については、本連載のこれまでの記事で確認した通りである。それではその課題に対する取り組みを行うには、どのような観点があるのであろうか。また、実際に中小企業はどのような取り組みを行っているのであろうか。

 SDGsはビジネスのチャンスになると書いてきたが、想像しづらい部分もあるかもしれない。それを解消するべく本記事では、SDGsの取り組みを考える上での観点を確認し、実際の取り組み例を見ていく。

連載「中小企業とSDGs」

 1. なぜ取り組む?中小企業がSDGs経営をする強みとメリット・デメリット
 2. 自社らしい活動とは?SDGsの取り組みを考える観点
 3. SDGsのゴールから考える!自社の課題の見つけ方と注意点
 4. 中小企業の実例付き!SDGsに取り組む3つの切り口
 5. SDGsの実践に向けて~SDGs取り組み手順と日本の進捗状況

目次

取り組むための3つの切り口

 企業の理念や活動をひも解き、SDGsの目標をかみ砕き、自社の取り組む課題や方向性が決まったら、どのような取り組みを行えばよいのであろうか。取り組みの方向性を考えるならば、次の3つの切り口があるであろう。

  • ムダを減らす
  • 今あるものに価値をつける
  • 新しいビジネスを始める

 Part2で確認したとおり、SDGsの取り組みは日々の企業活動を発展させるところから少しずつ始められる。「ムダを減らす」ことや「今あるものに価値をつける」ことは、企業の既存の活動をベースに考えるため、比較的行いやすい。一方で「新しいビジネスを始める」ことを目指す場合は、自社の強みを明確にすることが必要であり、難易度が高い。自社の状況に合わせて最適な切り口から入ることが重要である。

 すでにSDGsに取り組んでいる中小企業がある。この3つの切り口から各社の取り組みについて確認していきたい。

ムダを減らす

 まず1つ目は、社内のムダを削除するという切り口である。SDGsの観点から企業活動を見直してみると、様々なムリ・ムラ・ムダが見えてくる。廃棄物、CO2、従業員の労働効率や労働時間など、企業活動に潜むこれらを削減していくことは、コスト削減にも結び付くであろう。

 削減する内容によっては、業界に対して問題を投げかけることにも繋がる。例えば、大量の資源の使用が当たり前の業界で、資源をリサイクル・リユースすることができると証明すれば、業界全体への問題提起となる。自社の技術や取り組みによって、業界の標準そのものが変えられるかもしれない。

連動して様々なムダを排除する

 株式会社精好堂

 2021年で創業151年になる株式会社精好堂は、水性フレキソ印刷を手掛ける企業である。水性フレキソ印刷は環境性能に優れているため、自社の状況や活動を公表しクリーンな技術を広める活動をしている。そこには「廉恥を重んじ、自律中庸する」「篤実を専らとし、判断は先難後獲」「社会・お客様・社員の至善探求」という企業理念に基づいた、全てのステークホルダーと共に持続的成長を目指す企業活動がある。

 精好堂のSDGsはそのような技術を広めるだけでない。徹底的に企業活動の中に潜むムダの排除を行っている。

  • 「資源消費量の削減」製品を薄型化することにより使用資源を削減、さらに生産活動の省エネルギー化にも結び付いた。歩留まり率を算出して社内に公表することによって、社員に削減意識を浸透させ、会社全体で目標達成を継続して目指している。同時に紙媒体をデータ化することで資源利用効率の向上を果たした。
  • 「廃棄物の削減」製品を薄型化することで、使用後の廃棄物を削減に結び付いた。また、事業一般廃棄物の3Rも推進している。
  • 「業務の効率化」育成研修制度によって従業員の能力開発を進め、高度業務への対応・業務の高速化を実現する。それにより育休や時短制度など社員のライフステージに沿った支援ができる職場環境づくりも可能になる。

 今まで当たり前だった製品の厚さは、技術革新により削減が可能になったという。また、紙を大量に使用する業界であるためにペーパーレス化の効果は大きい。このように大量の資源消費が当たり前の業界において、自社を見直し環境を重視する企業活動は、業界自体が環境に配慮した形に移行するきっかけとなるかもしれない。

今あるものに価値をつける

 「ムダを減らす」と同様に、現在行っている企業活動から考える観点が「今あるものに価値をつける」である。商品やサービス、バリューチェーンに目を向けてみると、SDGsの観点をプラスすることでさらに良いものにできる部分があるかもしれない。例えば、建設業にSDGsの観点をプラスすると、「省エネルギーな建設」「環境に配慮した家」などが、醸造業にSDGsの観点が合わさると「健康に配慮した酒」「地域に開かれた工場」などが考えられるであろう。

 企業と社会がWin-Winとなるものは何か。企業活動をこの観点で検めて発展させていけば、今ある商品やサービスに高い社会的価値を付けることができるかもしれない。新しい市場で求められるものもあるであろう。

サステナブルな歯ブラシ

 ファイン株式会社

 ファイン株式会社は歯ブラシの専門メーカーである。経営理念に「不便を便利に、不安を安心に変えるお手伝い」を掲げるとおり、大量生産品だけでなく、ベビー・キッズ用品や介護用品など、さまざまなニーズに応えた口腔衛生用品を手掛けている。10数年前からは植物性樹脂製のエコ歯ブラシを開発しており、その中の1つに竹を使った歯ブラシがある。

 この竹の歯ブラシはエコ商品として販売していたが、化学物質過敏症の人からの需要があったという。この商品をSDGsの観点から検め、SDGsを積極的に取り組む商品としてリニューアルし、次のような理念を明確にした。

  • 「次世代のために資源を大切にしたい」間伐材を原材料として作成し、廃棄後も自然分解できるエコな商品であること
  • 「プラスチックを少しでも減らしたい」脱プラスチックに配慮した商品・包装であること
  • 「様々なニーズの方に寄り添った商品を提供したい」宗教上のライフスタイル・ビーガンなど多様性に配慮した商品であること
  • 「原料も日本製」輸送中に排出されるCO2を減らしていること

 SDGsの観点から、特に「脱プラスチック」に特化した商品としてリニューアルしている。従来は再生紙やインクにアレルギー反応が出る人のためにプラスチック包装としていたが、これも竹素材のエコな包装に切り替えている。ただし、今後もこのような人たちに対応できるよう、包装については個別対応可能とアナウンスしている。このようなSDGsの基本理念「誰一人取り残さない」に沿うような細やかな配慮は、中小企業だからこそできることではないであろうか。

新しいビジネスを作る

 SDGsの観点から新しいビジネスを始める場合、企業とSDGsの目的を無理やり結び付けてしまってはならない。なぜそのような取り組みを行っているのか従業員が理解できなければ、社内のモチベーションは上がらない。顧客や取引先も企業の意図が理解できず、会社の信憑性は上がらないであろう。Part2と3で確認してきたように、必ず何のために自社があるのか、何のためにこのビジネスを行うのか、そしてどんな世界を目指すかを考えた上で、解決すべきことを考えるのである。

 これには自社の強みを自覚することが大切である。将来的なリスクや社会的なニーズを見極め、社会的な課題に対して自社の強みで解決できないかを考えるのである。始めるためには力は必要であるが、新たなイノベーションを巻き起こせるかもしれない。

海洋汚染問題に地域全体で立ち向かう

 株式会社水島紙店

 株式会社水島紙店は和洋紙専門商社として昭和21年に創業した。以来約70年の間、長野県で「紙」を取り扱い続けている。印刷用紙の生産量の減少や脱ビニール袋の動きがあることを捉え、新規事業を立ち上げた。それが紙専門の卸売業の強みを生かしたオーダー紙手提袋製作事業「手提屋」である。

 手提屋は「紙のプロとデザイナーがお客様と対面で制作するオーダー手提げ袋」というブランド・アイデンティティを掲げ、オリジナルの紙袋作成を行っている。また店舗で使用する袋をビニール袋から紙袋に切り替える「紙袋プロジェクト」や、紙袋に関するイベントなども開催している。この事業には次のようなSDGsがある。

  • 「12.つくる責任つかう責任」小豆の殻といった廃棄物を有効利用した紙を使用するなど、素材に配慮する。
  • 「14.海の豊かさを守ろう」海洋汚染問題から、脱プラスチックの手段としてオリジナルの紙手提袋を作成。
  • 「17.パートナーシップで目標を達成しよう」店舗・企業の信頼性と愛着を深め、より多くのファン獲得に繋げる商品を提案することで地域社会の発展に貢献。また、地域の各店舗に提案することで、地域全体で目標14を達成しようとする。

 株式会社水島紙店は、長年の間和洋紙を扱ってきた紙のプロである。手提屋のブランド・アイデンティティはその強みを生かしたものである。また、長野県に紙袋を専門に製作する企業がなかったことも強みとなった。SDGsの切り口から地域への問題提起を行い、地域に貢献する企業となった。

SDGsの取り組みで得られること

新たな強みを生み出す

 新しいことを始めるには時間も力も必要となる。そのため、最初から高いハードルを飛ぼうとせず、まずは自社の活動の棚卸を行い、自社でできることは何かを探ることが大切である。「持続可能な」という視点で企業活動を見直せば、自社の新たな一面が見えてくるかもしれない。それらをSDGsにしっかりと紐づけられるか、発展させられるかを考えることが大切である。それによって新たな自社の強みが生まれるであろう。

長期的な生き残りに繋げる

 企業として取り組みを始めるならば、時間も負担もかかるであろう。しかし、新たな強みは新たな活路を見出すことにも繋がる。

 例えば、「新たなビジネスを作る」で紹介した手提屋の背景には、印刷用紙の価格高騰や進むペーパーレス化などによって、製紙産業がビジネスモデルを転換せざるを得ない状況があるであろう。社会のICT化が進む中、今までと同じビジネスでは将来的なリスクが大きい。そこで、水島紙店が着目した課題が廃プラスチックによる海洋汚染問題であった。自社の紙であれば社会課題の解決に繋がると感じ、新しい事業をスタートさせたのである。結果、創業時以来の販路拡大を達成した。

 もし水島紙店のような危機的背景がない場合、時間や手間のかかるSDGsに取り組まず、今までどおりの企業活動を行っていた方がよいのではないかという声は上がるであろう。しかしPart1で確認したとおり、市場に変化が起きつつある。企業はSDGsによって変わっていくことが求められている。短期的に利益を追い求めるよりも、ここで立ち止まって考えることが、長期的な成長や生き残りに繋がるのである。

 SDGsは社会問題の解決だけでなく、企業活動の中にある課題の解決にも繋げられるものである。SDGsの切り口から考えることによって、自社の新たな魅力を発見するだけでなく作り上げていくことができるであろう。

 次回の最終回では、SDGsの実践に向けて知っておいた方がいいことや注意しなくてはならない点などを紹介する。

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