自社らしい活動とは?SDGsの取り組みを考える観点

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 SDGsは企業の参加を前提とした目標である。しかし、いざSDGsについて取り組もうとしたときに「何から始めていいか分からない」という企業も多いであろう。SDGsが掲げる目標があまりに大きいために、そのまま自社の目標とするわけにもいかず自社の活動からは遠く離れたものに感じるかもしれない。

 実はSDGsは企業の活動に近いところにある。自社を見つめ直してみると、多くの企業がSDGsに近い志を持ち、何かしらを取り組んでいるはずである。本記事では、日本の企業とSDGsの繋がりを確認し、自社とSDGsとの関係について考える。

連載「中小企業とSDGs」

 1. なぜ取り組む?中小企業がSDGs経営をする強みとメリット・デメリット
 2. 自社らしい活動とは?SDGsの取り組みを考える観点
 3. SDGsのゴールから考える!自社の課題の見つけ方と注意点
 4. 中小企業の実例付き!SDGsに取り組む3つの切り口
 5. SDGsの実践に向けて~SDGs取り組み手順と日本の進捗状況

目次

日本の企業とSDGs

 SDGsには17種類の目標がある。最初からそのすべてを目指すことは不可能であろう。一度に大きく取り組みを始めようとしては、かかる負担が大きく頓挫してしまう可能性が高い。Part1の記事で確認したとおり、SDGsの取り組みは持続可能であることが大切である。そのため、まずは身近なものから取り組めば良い。

 しかしそうは言っても、自社の企業活動とSDGsの目標に関連性を見いだせず、スタートを切れないという人もいるであろう。また、SDGsという新しい考え方に合わせるのは大変だと考える人もいるかもしれない。まずは日本の企業とSDGsの関係性から考えることから始めてみよう。SDGsは日本企業の商慣習から全くかけ離れたものではなく、むしろ親和性が高いものと言える。長い間多くの企業がそれに近い取り組みを行ってきたのである。

三方よし」という哲学

 SDGsについて考えるときに、よく例に挙げられるのが「三方よし」の哲学である。「売り手によし、買い手によし、世間によし」の言葉で表される近江商人の哲学「三方よし」は、売り手と買い手が満足するのは当然であり、社会に貢献できてこそ良い商売と言える、という考え方である。この考えは近江商人が商売を広げるとともに全国に広がり、多くの企業経営の根幹となっていると言われる。

 現代の言い方をすれば、「三方よし」は企業の社会的責任や社会貢献の考え方と言えるであろう。こういった考え方は、古くから日本の経営に根付いている。そう考えると、SDGsは全くの未知のものとは言えない。自ずと行ってきた理念や取り組みが、SDGsという世界共通の言葉で明確化したと考えることができるのである。

 「三方よし」の哲学から分かるように、SDGsの考えは日本の企業が取り組んできた理念や取り組みに近いと言える。SDGsという言葉に構えることなく、まずは自社ができることを考えることが大切である。

社会的責任と価値

 この十数年の間に、企業の責任や社会的価値について言及されることが増加した。その時によく取り上げられた言葉が「CSR」や「ESG」であり、これに取り組んできたという企業もあるかもしれない。

 CSR (Corporate Social Responsibility)とは企業が活動を行うにあたって担うべきとされる「企業の社会的責任」である。寄付や植林などの慈善活動と考えられがちであるが、それだけでなく従業員や消費者などへの配慮や、社会をより良くするための社会貢献などの活動全般を指す。社会的価値の高く、企業が意識して行う必要がある取り組みという点で、これもSDGsと同じである。

 それでは、CSRとSDGsとの違いは何であろうか。どちらも企業の社会貢献活動ではあるが、その在り方に違いがあると言える。CSRは企業が倫理的観点から行う活動である。消費者や従業員、地域社会などから信頼を得ることで、企業の成長に繋げる活動とも言い換えられる。そのため、事業で得たお金を使って行われる社会貢献活動など、それ単体では収益を出さない活動も含まれる。一方で、SDGsの取り組みは持続可能な世界を目指すための活動である。企業活動を通じて経済的価値と社会的価値の両方を作り上げていくという考え方であり、企業全体が団結して取り組むべき経営戦略である。

 ESGとは、企業経営のサステナビリティを評価する指標である。「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance=企業統治)」 の頭文字から成っているとおり、環境・社会・ガバナンスの観点から配慮がなされた取り組みに対して評価しようという考え方である。国連が新たな投資判断の視点として提唱した言葉で、主に「ESG投資」という言葉で使われることが多い。

 ESGは投資家視点の言葉であり、SDGsとは全く異なるもののように思うかもしれない。しかしながら、投資家に評価してもらうために取り組みを推進することで行き着く社会は、SDGsが目指す社会と同じであると言える。ESGもSDGsも多くの問題の解決を願い、そのために企業の経済的価値と社会的価値の共創を志向しているのである。

自社とSDGs

 自社がSDGsに対してできることは何であろうか。例えばクリーンエネルギー事業などを担う企業は、尽力すべき課題や目指すべき方向性が明確であろう。しかしながら、そうでない企業の場合はSDGsと自社の関係性は見えにくいかもしれない。

 自社がSDGsの課題に対してどのように取り組めるか、そして何で貢献できるのか。それを考え始める前に、まずは自社が行ってきたことや目指してきたことを考えて感覚をつかんでみてはどうであろうか。どの企業も何かしらの形で社会に対する志を持っているはずである。それをひも解いていくことが、自社とSDGsの関わりについて考える第一歩である。

企業活動から関連を考える

 企業活動の中には、すでにSDGsに近い取り組みがあるかもしれない。企業活動を棚卸しすると、「これはSDGsと繋がっている」という活動が見つけられる可能性がある。

 例えば「地産地消」に取り組むことは、輸出のための「海洋資源の乱獲」や「過剰な森林伐採」の防止に繋がる。「14.海の豊かさを守ろう」と「15.陸の豊かさも守ろう」に寄与していることになるであろう。また、輸送距離が短くなるため、CO2削減の観点から「13.気候変動に具体的な対策を」にも貢献する。

 このようなモノやサービスを作る上で必要な原材料についてだけでなく、製造工程、出荷物流、消費者が使用・廃棄する段階、さらには取引先にまで広げて考えると、SDGsに関連している活動が出てくるであろう。

 また、SDGsの取り組みは、労働環境にも隠れている。例えば、ペーパーレスは紙の利用量を減らすため「5.陸の豊かさも守ろう」にあたる。働き方改革に取り組んでいるのであれば「8.働きがいも経済成長も」に当てはまるであろう。

SDGsの目標内容例具体的な取り組み例
3.すべての人に健康と福祉を 社員の健康に配慮した労働環境健康診断 分煙環境の設定 産休・育休の取得促進など
4.質の高い教育をみんなに 次世代を担う人材の育成社内研修会 資格取得の補助制度 小学校の工場見学受け入れなど
8.働きがいも経済成長も 誰もが働きやすい労働環境リモートワーク 柔軟な勤務設計 昇給要件の明確化など
12.つくる責任つかう責任 3Rで資源を大切に再生紙の利用 直しやすい商品の販売 エコな緩衝材の利用など
自社で行っているかもしれない、SDGsに関連する企業活動例
作成:株式会社デジタルボックス

企業理念から関連を考える

 企業活動の他に、自社とSDGsの関係を考える上で重要なものが企業理念である。企業理念には、自社の存在意義やあり方、使命や思想がしっかりと書かれている。そしてそれは企業の根幹として受け継がれていくものである。そのような企業理念には「〇〇技術で社会に寄与する」「〇〇で暮らしやすい社会を」といった、何かしらの社会に対する志がある。

 例えば、高齢者向け分譲マンションの企画・設計・販売などを行う「ハイネスコーポレーション株式会社」は、次のような企業理念を掲げている。

 世界で類を見ないほど、豊かで平和で、誇りある歴史を持つ日本という国に生まれ育ち、 この国の発展に尽力され、今や高齢期という人生の節目を迎えた人々が、 残り少なくなった時間を不安や孤独という中で過ごすことなく、誇り高く、知的かつ健康で、 周りの人達までが安心感を抱けるような生活環境の中で過ごす。これを私たちは<Well Being>と呼び、人生の最後の瞬間まで<Well Being>が実感できるコミュニティを実現します。

出典:ハイネスコーポレーション株式会社「企業理念」

 その上で、いくつかの取り組みを掲げ、「3.すべての人に健康と福祉を」「11.住み続けられるまちづくりを」「17.パートナーシップで目標を達成しよう」を目指すとしている。

 企業が持つ理念や、社会に対する志は、SDGsとは無関係ではないはずである。自社の企業理念を丁寧にひも解くことで、自社の方針とSDGsの繋がりが発見されるであろう。

自社の取り組みを考えるために

 先述のとおり、SDGsは企業活動を通じて経済的価値と社会的価値の両方を作り上げていくという考え方であり、企業が取り組むべき経営戦略である。それを組み立てるためには、自社にとって最も身近な課題を知り、解決のための方向性を定めることが大切である。その時に確認すべきものが、企業理念である。

 企業理念は、ただ身近にある方針というだけではない。企業理念に基づいてSDGsに取り組むことは、一貫性を持った活動に結び付く。企業活動を通して経済・社会両方の価値を作り上げることを目指すSDGsにとって、活動の方向性にブレがないことは重要である。

 また、企業理念に基づいた取り組みは、従業員のモチベーションの向上や消費者や取引先の信頼獲得にもつながる。SDGsの取り組みは従業員の協力なしには成立しない。しかし取り組みの導入には負担がかかるものであり、従業員に負担を強いることにもなる。企業理念に沿った取り組みであれば、従業員の理解も得られやすいであろう。また、消費者や取引先への説得力にもなるため、ただの企業アピールのためにSDGsを利用しているといった誤解を生むこともない。

 SDGsの取り組みのスタートは、新しい商品・サービスを作ることや、新しい発想で社会に貢献することではない。日々の企業活動の中にあるものを発展させるところから少しずつ始められるものである。自社とSDGsの関係を考えることは、自社の現況を見つめ直し、自社の魅力と強みを見つけることにも繋がる。まずは自社を見渡し、その上でできることを考えることから始めてみてはいかがであろうか。

 日本企業の商慣習と自社の活動から考えてみると、SDGsは意外と身近なものである。新しい言葉、新しい考えのように思えるが、おそらくこれを読むみなさんの企業にも、何かしらの連関があるのではないであろうか。最初からSDGsの取り組みを大きくとらえるのではなく、まずは、自社を見つめ直した上で考えることが大切である。

 次回は、SDGsの目標に注目して、引き続きこの大きな課題目標に対してどのように取り組めばいいのかを考えていく。

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