SDGsとはどのようなものか、自社と関連させて考えるにはどうすればいいかを本連載では考えてきた。SDGsは自社の強みや魅力を再発見する新たな切り口となり、新たな強みを生み出すポジティブな取り組みであることが確認できたであろう。
本記事は、SDGsの取り組みを行う上での手順と注意点を確認する。SDGsが2015年に採択されて、2021年で6年になる。目標達成期限である2030年が迫る中で、日本はどのような進捗状況にあるのか。参考として、そのような日本の取り組み状況についても確認する。
連載「中小企業とSDGs」
1. なぜ取り組む?中小企業がSDGs経営をする強みとメリット・デメリット
2. 自社らしい活動とは?SDGsの取り組みを考える観点
3. SDGsのゴールから考える!自社の課題の見つけ方と注意点
4. 中小企業の実例付き!SDGsに取り組む3つの切り口
5. SDGsの実践に向けて~SDGs取り組み手順と日本の進捗状況
SDGsの取り組みに向けて
具体的な取り組み手順
「SDGsコンパス」というものがある。これはグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)の3団体が共同で作成したものである。これに企業がSDGsに取り組む際の一般的な行動指針がまとめられている。
「SDGsコンパス」は、企業がSDGsに取り組むステップとして次の5つを提示している。
1.SDGsを理解する
2.優先課題を決定する
3.目標を設定する
4.経営へ統合する
5.報告とコミュニケーションを行う
出典:SDGs Compass
1.SDGsを理解する
- SDGsとは何か
- 企業がSDGsを利用する理論的根拠
- 企業の基本的責任
SDGsに取り組む最初のステップは、SDGsについて学び、企業が取り組む意義や責任についての理解を深めることである。どういった社会課題があるのかという概要を学び、経営理念や企業活動などと関連させることで自社なりに考えることが大切である。SDGsの取り組みは、その本質を理解し、自社が何をめざすのかをしっかり決めた上で行わなければ、頓挫してしまう可能性は高まる。ここでしっかりとSDGsを理解し、自社がどのように社会問題に貢献できるか、そしてどのようにSDGsを活用できるかを考えるのである。
2.優先課題を決定する
- バリューチェーンをマッピングし、影響領域を特定する
- 指標を選択し、データを収集する
- 優先課題を決定する
次に、自社の優先課題を決める。SDGsには17の目標と169のターゲット、232の指標があるが、最初からそのすべてに対応できるものではない。また、目標によって貢献できる機会が多いものと少ないものがあるであろう。ここでは自社に特に関連のある目標を決め、それを優先的に取り組む課題とするのである。自社の商品やサービス・バリューチェーンをSDGsの観点から振り返れば、見えてくるものがあるであろう。CO2排出量や資源使用量など、企業活動とSDGsの目標の関係を適切に表す指標を選べば、継続的に達成度を把握できるようになる。
3.目標を設定する
- 目標範囲を設定し、KPIを選択する
- ベースラインを設定し、目標タイプを選択する
- 意欲度を設定する
- SDGsへのコミットメントを公表する
具体的な目標を設定しなければ、達成度を測ることはできない。取り組みを改善しながら進めるためには、測定可能で期限付きの目標設定が必須である。明確な目標があれば、ただなんとなく取り組むという事態が避けられ、自社内のパフォーマンス向上にも繋がるのであろう。事業収益だけを判断基準とした場合、見えてこないものもある。例えば環境に対する取り組みは一時的に収益の面でネガティブな影響を与えるかもしれないが、長期的に見れば環境改善と企業のファン増加に繋がることもある。広い視野を持って設定することが大切である。
4.経営へ統合する
- 持続可能な目標を企業に定着させる
- 全ての部門に持続可能性を組み込む
- パートナーシップに取り組む
SDGsを経営に統合するには、管理層が積極的に関わることで企業に定着させ、全社に持続可能性とその目標を組み込み、パートナーと共通の目標を追及することが重要である。それは製品やサービスだけでなく、原材料や輸送・販売網、そして使用し終わった製品の廃棄についても変えていくことになるかもしれない。そういった動きは自社だけでなく、ステークホルダーと理念や問題意識を共有し連携することによって、より大きな影響と成果へと結び付くのである。
5.報告とコミュニケーションを行う
- 効果的な報告とコミュニケーションを行う
- SDGs達成度についてコミュニケーションを行う
社内だけでなく社外に対しても、SDGsの取り組みに対する進捗状況を定期的に報告し、コミュニケーションを行うことは大切である。効果的な報告はステークホルダーに対して企業の信頼感を高めるからである。優先課題の決定過程や、取り組みの過程、目標達成に向けた進捗状況などをまとめた上で発信する。その方法は報告書としてまとめる以外にも、ホームページに専用の項目を作って掲載する、自社の商品やサービスがどのように目標に寄与しているかを認証マークなどで明確にするなどがあろう。そしてこの「5.報告とコミュニケーションを行う」を経て、また「2.優先課題を決定する」に帰る。このようにSDGsのPDCAを回して改善し続けるのである。
取り組みの注意点
SDGsに賛同し取り組んでいると公表しながらも、実態が伴っていない活動を「SDGsウォッシュ」という。自社を良く見せようと嘘をつくことは論外であるが、意図せず「SDGsウォッシュ」に陥ってしまうこともある。
例えば、脱プラスチックを目指し商品の原材料を変えたところ、CO2排出量が増加したり廃棄の負担が高くなったりする可能性がある。他にも、電力の省エネルギー化を目指して製造工程の内容を変更したところ、手間がかかるようになり業務効率が悪化することもあるかもしれない。何かを変えると、連動して他の部分に影響が出てくるものである。バリューチェーン全体を把握した上で、企業活動を適切に管理することが大切である。
また、SDGsの目標を商品やサービスに関連づけるだけで、企業活動に取り込まずに終わってしまうことも「SDGsウォッシュ」と言える。自社内でSDGsに関連のある企業活動を探すことは大切であるが、SDGsの課題と関連づけただけでは何も改善していない。それどころか、自社を良く見せようとしているだけの企業と思われ、これまで築き上げてきた信頼を失うことになるかもしれない。
SDGsとの関連を見つけたらそこで終わらず、自社が貢献できることは何かを発展的に考え、企業と社会双方の問題解決を目指すことが大切である。
日本の取り組みと課題
優先課題に対する取り組み
日本政府はどのような点を重要視してSDGsに取り組んでいるのであろうか。日本政府は8つの優先課題を定めている。2020年12月に発表された「SDGsアクションプラン2021」によると、次の項目を優先課題に対する具体的な取り組みとして挙げている。
日本政府の優先課題 | 具体的な取り組み |
---|---|
1. あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現 | ・全分野で女性の参画、ダイバーシティ、バリアフリーを推進 ・働き方改革を通じてディーセントワークの実現を促進 など |
2. 健康・長寿の達成 | ・治療・開発・普及などの支援と体制を強化 ・次なる危機に備え保険システムを構築し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成に向けて推進 など |
3. 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション | ・バイオ戦略やスマート農林水産業の推進など、科学技術イノベーション(STI)を加速し、経済成長と持続可能な循環型社会を推進 ・Society5.0の実現を引き続き目指し、DXを推進。誰もがデジタル化の恩恵にあずかれる体制を整備する など |
4. 持続可能で強靭な国土と質の高いインフラ整備 | ・防災・減災、国土強靱化、質の高いインフラの整備を推進 など |
5. 省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会 | ・2050年カーボンニュートラルの実現を目指し、経済と環境の好循環を作る など |
6. 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全 | ・海洋プラスチックごみ対策などを通じ、海洋・海洋資源の保全と利用に対応 など |
7. 平和と安全・安心社会の実現 | ・DV・性暴力対策の強化や、児童虐待や子供の性被害の防止 ・途上国において能力構築や人材育成に取り組む など |
8. SDGs実施推進の体制と手段 | ・「ジャパンSDGsアワード」等のSDGs広報と啓発 など |
出典:SDGsアクションプラン2021
また、2021年の重要事項としては次の4点を挙げている。感染症の流行によって、暮らし方や働き方は大きく変わった。このような状況をどのように乗り越えていくかが盛り込まれた内容となっていると言える。
1.感染症対策と次なる危機への備え
2.よりよい復興に向けたビジネスとイノベーションを通じた成長戦略
3.SDGsを原動力とした地方創生、経済と環境の好循環の創出
4.一人ひとりの可能性の発揮と絆の強化を通じた行動の加速
出典:SDGsアクションプラン2021
SDGsから見た日本
このような日本の取り組みは、どの程度進んでいると言えるのであろうか。各国のSDGsの達成状況がまとめられた「Sustainable Development Report 2021」というレポートがある。これは持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)とドイツのベルテルスマン財団がSDGsの進捗状況を採点しランク付けしたものである。2016年から毎年発表されており、2021年版は2021年6月に公表された。このレポートにおける日本の評価から、SDGsの進捗状況を確認したい。果たして2021年現在の日本はどのような評価を受けているのであろうか。
SDGsの達成状況は165か国中18位、スコアは100点中79.85点である。これは2020年の79.17点より上昇してはいるが、順位は17位から1つ後退している。
上図はSDGsの目標ごとの取り組み状況である。目標の色が緑になっているものが「目標達成」、赤に近いほど「課題が残っている」とされる。つまり「目標達成」とされるものは3つのみであり、ほとんどの目標は「課題が残っている」とされている。また、目標横に表示されている矢印は達成状況の変化である。多くの目標で改善が見られるが、中には悪化したものもある。「10.人や国の不平等をなくそう」と「12.つくる責任つかう責任」については日本国内のデータ整備が十分でなく、最新情報がない項目があるため不明となっている。
これらの評価やスコアは、目標ごとに設定された指標から算出されている。つまり、「課題が残っている」とされる目標には具体的な課題点があるということになる。
赤色で表示されている目標は、次の5つである。そして、その目標にある課題点は次の通りである。
SDGsの目標 | 課題点 |
---|---|
5.ジェンダー平等を実現しよう | ・国会で女性が保有する議席 ・男女賃金格差 ・家事や育児などの無給労働に費やす時間の男女格差 |
13.気候変動に具体的な対策を | ・化石燃料の燃焼とセメント生産によるCO2排出量 ・輸入に伴うCO2排出量 ・EUR60 / t-CO2としたときの炭素価格付けスコア |
14.海の豊かさを守ろう | ・生物多様性にとって重要な海洋地区で保護されている平均面積 ・オーシャンヘルスインデックス(海洋健全度指数) ・乱獲または崩壊した資源から漁獲された魚 ・輸入に伴う海洋生物多様性への脅威(100万人あたり) |
15.陸の豊かさも守ろう | ・生物多様性にとって重要な陸上地区で保護されている平均面積 ・生物多様性にとって重要な淡水地区で保護されている平均面積 ・絶滅の危険がある野生生物のリスト(レッドリスト) ・輸入に伴う地上・淡水の生物多様性への脅威(100万人あたり) |
17.パートナーシップで目標を達成しよう | ・国民総所得(GNI)に占める政府開発援助(ODA)の額 ・金融秘密度スコア 日本国内の最新情報が不足しているものが多い。 |
Sustainable Development Report 2021を基に 株式会社デジタルボックスが作成
ほかにも、目標は赤色で表示されていないが、課題点として挙げられている項目がある。それは次の通りである。
SDGsの目標 | 課題点 |
---|---|
1.貧困をなくそう | ・相対的貧困 |
7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに | ・一次エネルギー供給量に占める再生可能エネルギーの割合 |
10.人や国の不平等をなくそう | ・パルマ比率(所得格差、所得の不公平を表す指数) |
12.つくる責任 つかう責任 | ・1人あたりの電子廃棄物量 |
Sustainable Development Report 2021を基に 株式会社デジタルボックスが作成
順位としては上位に入っているものの、日本は目標未達成のものが多い。世界的な進捗が遅れていることと連動して、上位に入ったと考えるべきであろう。改善が求められる項目は多いが、悪化してしまった「15.陸の豊かさも守ろう」は特に早急に対応が求められる課題と言えるであろう。
日本国内にはまだまだSDGsの課題が多く残っている。これらの課題はあまりにも大きなものであるが、本連載で確認してきたように課題をかみ砕き、自社との関連性を考えることが大切である。企業1社の力では課題の解決は難しいかもしれない。しかし、中小企業各社が自社にあったピンポイントな解決方法を考えて協力し合えば、状況は好転するであろう。
もしSDGsの課題の中に自社が役に立てることや解決方法を提示することができるものがあるのならば、それらはきっと需要に転じる。SDGsは世界が目指すべき目標である。それは社会のためのものではあるが、一方で企業のためのものでもある。SDGsはビジネスチャンスであり、自社の強みや魅力を引き出すチャンスである。今、取り組みを始めることによって、得られることはきっとあるはずである。