なぜ取り組む?中小企業がSDGs経営をする強みとメリット・デメリット

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 SDGsという言葉を聞いた事があるであろうか。現在、世界中の多くの企業が、このSDGsに取り組んでいる。日本でもほとんどの大企業は取り組みを実施もしくは検討している最中である。中には「大企業が取り組めばいいものだ」「社会奉仕活動をする余裕はない」と考えている人もいるかもしれない。しかしながらSDGsとはそういったものではない。現在、まさに企業経営において、考えずにはいられない状況になりつつあると言える。

 本連載では「中小企業とSDGs」と題して、SDGsについて、中小企業の取り組みについて考えていきたい。本記事では、SDGsがどのようなものなのか、なぜ多くの企業が取り組みを行っているのかについて確認する。

連載「中小企業とSDGs」

 1. なぜ取り組む?中小企業がSDGs経営をする強みとメリット・デメリット
 2. 自社らしい活動とは?SDGsの取り組みを考える観点
 3. SDGsのゴールから考える!自社の課題の見つけ方と注意点
 4. 中小企業の実例付き!SDGsに取り組む3つの切り口
 5. SDGsの実践に向けて~SDGs取り組み手順と日本の進捗状況

目次

SDGsとは何か

17種類のゴール

SDGs 17種類のゴール
出典:国際連合広報センター

 上記のシンボルマークを、新聞や公共共通機関などで見たことはないであろうか。これはSDGsのシンボルマークである。

 SDGsとは「Sustainable Development Goals」のことである。日本語では「持続可能な開発目標」と訳される。「誰一人取り残さない」という理念のもとに、2030年までに世界中が目指すべき目標として、2015年の国連総会において全会一致で採択された。その目標とは、ロゴにあるとおり17種類あり、その内容も多岐にわたる。

1. あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
2. 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
4. すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
5. ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う
6. すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
7. すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
8. 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
9. 強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
10. 各国内及び各国間の不平等を是正する
11. 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
12. 持続可能な生産消費形態を確保する
13. 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
14. 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
15. 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
16. 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
17. 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

出典:国際連合広報センター「持続可能な開発目標」

 また、それぞれの目標に達成するためのターゲットが全部で169個設定されている。例えば、「6. すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する(安全な水とトイレを世界中に)」には、次のようなターゲットがある。

6.1 2030年までに、全ての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ衡平なアクセスを達成する。

6.5 2030 年までに、国境を越えた適切な協力を含む、あらゆるレベルでの統合水資源管理を実施する。

出典:「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」

 さらに各ターゲットにはそれぞれ指標が設定されている。すべての指標を合わせると232個にもなる。例えば、「6.1 2030年までに、全ての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ衡平なアクセスを達成する。」には次の指標が設定されている。

6.1.1 安全に管理された飲料水サービスを利用する人口の割合

出典:総務省「指標仮訳」

 SDGsは単なる“達成した方が良い目標”ではない。“世界を持続可能にするための目標”である。裏を返せば、このままでは地球も人類も存続できないという危機感から生まれた目標とも言えるであろう。

持続不可能という危機感

  このままでは地球も人類も存在できないという危機感の要因の1つに地球温暖化がある。気候変動に関する政府間パネルの「気候変動 2013」によると、地球の温暖化により氷河はほぼ世界中で縮小し続けており、北極域の海氷面積は10年で平均45~51万㎢減少している。JACCAによると氷河の融解は海面上昇だけでなく、食料不足や感染症発生範囲の拡大、異常気象の増加やそれによる格差の拡大などに繋がるという。

気候変動に関する政府間パネル 第5次評価報告書「気候変動 2013」

出典: https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/ipcc_ar5_wg1_spm_jpn.pdf

 また、日本でも何年に一度の異常気象と呼ばれるような記録的豪雨や猛暑が常態化しつつある。環境省の「環境白書」令和元年版では、このような豪雨や猛暑のリスクはさらに高まると予測されるとし、適応策に取り組むことが重要だと説いている。

環境省「環境白書」令和元年版 第一部第二章

出典: http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r01/html/hj19010201.html

 このような危機は環境問題だけでなく、食料問題や貧困問題など多岐にわたる。もちろん、これまでにもこのような状況に対する取り組みはいくつもあった。SDGsはそれらよりもはるかに規模の大きなものである。各国、各人がバラバラに取り組んでいたものを共通目標として1つにまとめ、共通の目標として解決していこうというものがSDGsである。

SDGsと企業の関係

 国際的な目標であるSDGsと企業には、どのような関係があるのであろうか。SDGsは政府や国際機関のための目標ではない。世界が目指す目標であり、企業の参加を前提としたものである。

 これまで、営利活動のために環境や人権がないがしろにされてきた側面もある。企業や人類が金銭を獲得するために、環境を破壊して生産物を作ることや、違法な労働を強いてきたこともあった。SDGsはそういった、何かを犠牲にすることで経済発展を維持するのではなく、経済発展をすることで諸問題を解決する仕組みを作ろうと促している。つまり、企業活動が盛んになるほど、環境や社会が良くなる仕組みであり、経済的側面と社会的側面の両方から、企業の市場競争が行われるような仕組みである。

 このような仕組み作りは1つの企業だけでは達成できない。他の企業、自治体、国など、枠組みを超えて人々と共に協力することが必要になる。また、通常の事業活動の中で取り組むことによって、持続可能なものにすることが大切である。現在の日本において、ほとんどの大企業はSDGsに取り組んでいる。しかし日本企業の97%は中小企業である。大企業が取り組むだけでは到底成しえないのであり、中小企業の協力が欠かせないのである。

SDGs経営をしないリスク

価値観の変化に追いつけなくなる

 SDGsは取り組まないことで罰則を受けることはなく、とくに報告する義務もない。「それならばSDGsに取り組まなくてもいいではないか」と考える人もいるかもしれない。しかし、取り組まないことによるリスクはある。その1つが価値観の変化である。

 人や社会、環境などへ配慮された倫理的消費(エシカル消費)が進んでいる。消費者庁 「海外における倫理的消費の動向等に関する調査報告書」によると、イギリスでは、紅茶の80%、粉コーヒーの50~60%、チョコレートの50%、バナナの33%が倫理的な商品であるという何らかの認証を受けているという。

消費者庁「海外における倫理的消費の動向等に関する調査報告書」

出典:https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/consumer_education/ethical_study_group/pdf/160331_1.pdf

 そのような動きは日本国内においてもある。消費者庁「「倫理的消費(エシカル消費)」に関する消費者意識調査報告書」では、倫理的商品およびサービスの購入状況と購入意向の調査がなされている。2020年の調査によると、倫理的商品・サービスの「購入意向あり」と答えた人は81.2%と高い割合である。また、この数値は過去の調査と比較すると徐々に上がっており、年々倫理的消費への関心が高まってきていると言える。

消費者庁「「倫理的消費(エシカル消費)」に関する消費者意識調査報告書」

出典:https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/ethical/investigation/assets/consumer_education_cms202_210323_01.pdf

 また、若い世代は義務教育の段階でSDGsを学んでいる。将来的に消費の中心となる彼らにとって、SDGsは当たり前の観点である。2021年春に日本で行われた「22卒就活生の選社軸とSDGsの関係性」という調査によると、就職先企業を選ぶ上で重視した点として「SDGsに対する姿勢や取り組み」と答えた就活生は17.3%であった。これは「有名企業であるかどうか」の13.8%を上回るものである。

 このように価値判断は変わりつつある。倫理的な価値は決してニッチな市場にとどまらず、主流なものになっていくであろう。

社会基準の変化に対応できなくなる

 変化しているのは、価値観の定義だけではない。例えば、欧米を中心にガソリン車の販売禁止に舵を切る国が増えている。イギリスやフランス、アメリカの一部の州では2035年には発売禁止と打ち出している。日本でも、脱炭素社会実現のため電動車に切り替えるという方針を示している。また、車だけでなく、2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるとしている。

 従来では当たり前のことも、基準や規制の厳重化によって存在できなくなる可能性は高い。場合によってはSDGsの逆を行くものと認識され、企業経営におけるリスクになることすらあり得る。状況は刻々と変化している。企業は、この流れに取り残されることなく、対応していかなくてはならないのである。

企業のメリットとデメリット

企業のメリット

事業機会の獲得

 SDGsは全世界共通の課題であり、解決策が必要とされているものである。そこには開拓されていない市場が眠っていると言われている。ビジネスと持続可能な開発委員会は「より良きビジネスより良き世界」という報告書において、SDGsのグローバル目標を達成することで、12兆ドルの機会創出に繋がると試算している。

ビジネスと持続可能な開発委員会「より良きビジネスより良き世界」

出典:https://sdgresources.relx.com/sites/default/files/japanese_executive_summary.pdf

 SDGsへの取り組みで自社の強みを発揮することができれば、企業の存続基盤を強固なものにできる。そして同時に、新たなビジネスの創出や発展にも繋がるであろう。

他社との差別化

 価格競争に陥りやすい業界においては、どのように他社と差別化するかが大きな課題である。SDGsという倫理的な観点は、そのような状況において新たな価値基準となり、他者との差別化に大変役に立つ。

 また、大企業や世界の企業が取引先を選ぶ条件に、SDGsに取り組んでいるかどうかを含めることがある。SDGsへの取り組みは新たな販路を拓く力に成り得るであろう。将来的にはこのような取引条件がごく当たり前のものになる可能性もある。そのため、持続可能な経営を⾏う戦略にもなり得ると言えるであろう。

企業イメージの向上

 SDGsに取り組んでいるとアピールすることによって、社会的責任を果たす意思がある企業であると認知されることに繋がる。それにより、顧客や取引先の信頼を得ることができる。このような企業イメージの向上は、入社希望者の増加にも繋がるであろう。社外へのブランディング施策として有効であると同時に、従業員のモチベーションにも良い影響が生まれる。離職の予防にもなり、安定した人材確保にも結び付くであろう。

企業のデメリット

手間・負担・コスト増加の可能性

 企業活動の見直しや新しいことを始めるには手間がかかるであろう。取り組み内容によっては、コストや従業員への負担が増加する場合もある。

 社会貢献の気持ちが大きすぎて本業に悪影響が出る取り組みや、コストばかりがかかり利益に全く直結しない取り組みはSDGsとは言い難い。手間・負担・コストが大きすぎるために企業活動を圧迫するものは、将来的に無理が生じる。SDGsとは自社に合った持続可能なものを考えることが大切である。他社がやっている方法をそのまま行うのではなく、自社の方向性と強みを生かせる方法を考えれば、デメリットによる致命的な状態は回避できるであろう。

中小企業だからこその強み

 SDGsの取り組みは、従業員にとってただの負担となってはならない。そうなってしまえば、従業員の業務に対するモチベーションが下がってしまうであろう。そうならないためにも、SDGsに取り組むには全社的な理解と協力が必要になる。中小企業は管理層と従業員の距離が大企業よりも近い。そのため、管理層が率先することで従業員と一体感を持って活動することができやすい環境にある。

 また、中小企業は事業内容が特定の分野に特化していることが多いことから、対応課題を絞り込みやすく、ピンポイントな対応が可能である。先述の「より良きビジネスより良き世界」という報告書には、「グローバル目標とビジネスチャンスが連動する60の領域」がまとめられている。これはSDGsの需要の一端でしかない。ニーズは細かく分散しており、中小企業だからこそ対応しやすいものもあると言えよう。

60の領域(食料と農場・都市・エネルギーと材料・健康と福祉、の4項目に分類されている)
出典:ビジネスと持続可能な開発委員会「より良きビジネスより良き世界」

 SDGsはあまりに大きな課題目標である。確かにこれは短期間で達成できるものでも、自社だけで達成できるものではない。しかし未来のための取り組みとして必要とされているものであり、企業が他の企業や自治体などと手を取り合うことで対応することが求められているものである。今こそ取り組みを始めることで、社会や環境にとっても、企業にとっても、よい発展に繋がるであろう。

 次回からは、この大きな課題目標に対してどのように取り組めばいいのかについて検討していく。まずはどのように自社のSDGsを見つければいいのか、自社とSDGsの関係を考えていく。

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