中小企業の働き方改革~対応すべき内容と目指すべきこと

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 働き方改革が叫ばれて久しい。2018年には「働き方改革関連法」が成立し、長時間労働の是正や有給休暇の確実な取得などが“努力すべきこと”から“取り組まなくてはならないこと”へと変わった。しかし、働き方改革とは何なのか、何を目指して、何を取り組めばいいのか、よくわからないという人も多いかもしれない。本連載では「働き方改革と中小企業」と題して、何を行えば自社の働き方改革が達成されるのかについて考えていく。

 本記事では、「働き方改革関連法」および働き方改革がどういったものかを確認し、中小企業はどのように対応すればいいのか、何を目指せばいいのか、その方向性について考える。

連載「働き方改革と中小企業」

 1. 中小企業の働き方改革~対応すべき内容と目指すべきこと
 2. 事例付き!「生産性向上」に結び付く環境とすぐ取り組むべきこと
 3. 実例から学ぶ!「残業削減・休暇取得」を進める方法と注意点
 4. 「人手不足」を解消!中小企業が行った具体的対策とポイント
 5. 成功例の共通点は?働き方改革で中小企業が目指すべき方向性

目次

働き方改革関連法とは

働き方改革関連法の概要

 働き方改革の実現を目指して、2015年に「労働基準法等の一部を改正する法律案」が提出された。2016年には「働き方改革実現推進室」が発足し、具体策の策定が進められた。そして2018年に「働き方改革関連法案」が可決・成立し、2019年4月から順次施行されている。

 「働き方改革関連法」とは、その正式名称を「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号)という。その名前の通り、以前からあった法律に改正を加えるものである。これによって労働基準法などの法律が変更された。

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」法律条文

出典:https://www.mhlw.go.jp/content/000307765.pdf

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」概要

出典:https://www.mhlw.go.jp/content/000332869.pdf

 その内容は、「長時間労働の是正」「多様で柔軟な働き方の実現」「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」などである。これにより、それぞれの事情に応じた多様な働き方ができる社会を実現する働き方改革を推進している。

働き方改革関連法の全体像

 「働き方改革関連法」によって変わることは複数ある。ここではそれを確認する。施行時期には大企業と中小企業との間に違いがある。中小企業にあたる企業は以下の通りである。これにあてはまらなければ、大企業ということになる。

業種資本金額または出資の総額常時使用する従業員数
製造業その他3億円以下300人以下
卸売業1億円以下100人以下
小売業5000万円以下50人以下
サービス業5000万円以下100人以下
出典:中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」

時間外労働の上限規制の導入

 働きすぎを防ぐため、残業時間を規制し、長時間労働の是正を目指す。原則、時間外労働の上限は月45時間・年360時間とし、それを超えることができるのは年6か月までとする。臨時的で特別な事情がある場合も、年720時間以内などの上限が設定される。(大企業:2019年4月1日施行、中小企業:2020年4月1日施行)

年次有給休暇の確実な取得

 法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の全ての労働者に対し、毎年5日の年次有給休暇を確実に取得させる。年次有給休暇を取りやすくするため、労働者の希望を踏まえた上で時季を指定して取得させる。(2019年4月1日施行)

法定割増賃金率の引上げ

 中小企業の割増賃金率猶予措置を撤廃する。働きすぎを防ぐため、月60時間を超える残業に対する割増賃金率を大企業と同じく50%とする。(中小企業:2023年4月1日施行)

「フレックスタイム制」の拡充

 柔軟な働き方を可能にし、働きやすくするために制度を拡充する。「フレックスタイム制」の労働時間の調整可能期間を3か月に延長する。(2019年4月1日施行)

「高度プロフェッショナル制度」の創設

 柔軟な働き方を可能にするため、高度な専門知識を要する業務において条件を満たす従業員に対して、労働時間に縛られない成果型労働制を導入する。(2019年4月1日施行)

産業医・産業保健機能の強化

 従業員の健康を守るため、従業員が健康相談や健康診断を受けられるように整備する。産業医の活動環境を整え、従業員の健康情報の取り扱いルールを推進する。(2019年4月1日施行)

勤務間インターバル制度の導入促進

 働きすぎを防ぐため、終業から始業までの間に一定の休養時間を確保する。(2019年4月1日施行)

正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間との不合理な待遇差の禁止

 同一労働同一賃金化とし、基本給や賞与などのあらゆる待遇において雇用形態に関わらない公正さを確保する。また、待遇に関する説明義務を強化する。(大企業:2020年4月1日施行、中小企業:2021年4月1日施行)

働き方改革が目指すもの

日本の課題

 なぜ今、働き方改革が行われるのであろうか。それは日本の課題のひとつである「労働力の不足」を解消するためである。以下の図は、日本の人口の推移である。この推計のとおりになれば、2065年には人口が9000万人を下回り、生産年齢人口割合は51.4%となる。このままでは労働力は減少するばかりである。

日本の人口推移予測(2030年に65歳以上の人口が最大化、2070年には高齢化率38.4%と予測されている)
出典: 厚生労働省「日本の将来推計人口(平成29年推計)の概要」

 国全体の労働力の不足を改善するためには、次の方法が考えられる。

  • 働き手を増やす
  • 出生率を上げる
  • 労働生産性を上げる

 今まで働きに出ることが難しかった子育て世代の女性や高齢者などが働けるようになれば、働き手は増えるであろう。また、働きながら育児をすることが難しいという現在の労働環境が解消されれば、出生率の状況も変わるかもしれない。さらに、ひとりひとりが能力を高められれば、労働生産性(労働者1人当たりが生み出す成果)も向上していくであろう。そのような環境を整えるために行われるのが「働き方改革」である。

 厚生労働省の「「働き方改革」の実現に向けて」というページには、「「働き方改革」の目指すもの」として、次のように書いてある。

 我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。

 「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。

出典:厚生労働省「「働き方改革」の実現に向けて」

 このように、労働環境や条件を整えることによって、労働者自身のワークライフバランスに合わせた働き方ができる社会を作り、労働力向上を促すことが「働き方改革」で目指されることである。

中小企業に期待されていること

 働き方改革は大企業だけのものではない。日本の雇用の7割を担う中小企業・小規模事業者においても実施が求められている。厚生労働省は、中小企業が働き方改革を行うことにより、職場を魅力あるものとすることで、人手不足解消にも繋がるとしている。

 職場環境の改善などの「魅力ある職場づくり」が人手不足解消につながることから、人手不足感が強い中小企業・小規模事業者においては、生産性向上に加え、「働き方改革」による魅力ある職場づくりが重要です。

 取組に当たっては、「意識の共有がされやすい」など、中小企業・小規模事業者だからこその強みもあります。

 「魅力ある職場づくり」→「人材の確保」→「業績の向上」→「利益増」の好循環をつくるため、「働き方改革」により魅力ある職場をつくりましょう。

出典:厚生労働省「働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」

 法令を遵守すれば、残業時間は減少し、従業員は今まで以上に休養が取れるようになるであろう。そうすれば働きやすい魅力ある環境は生み出されるであろう。それにより、人材の確保や業績の向上、利益増へと結びつく可能性は確かにある。

 しかし、たとえ残業時間が減少したとしても、行うべき仕事量は変わらない。時間外労働の上限を守ろうとするあまりに、仕事を持ち帰って残業に含めない労働を行う可能性がある。また完了しなかった仕事を管理層が行うなど、どこかにしわ寄せが出る可能性もある。それでは法令を遵守していたとしても「魅力ある職場づくり」や「好循環の創出」には結びついておらず、真の意味での「働き方改革」にはなっていないと言えるであろう。

 法令の遵守は最低限行わなくてはならないことである。そのために法令への対応をするだけでなく、魅力ある職場づくりを行うこと、それによって好循環を生み出すことを目指さなくてはならないのである。

働き方改革の対応の難しさ

 多くの中小企業の頭を悩ませる問題に「人手不足」が挙げられる。人手が少なければ、自社の生産性は低下してしまうであろう。生産性が低ければ、長時間の労働や休暇の取りづらさに繋がる。長時間労働や休暇の取りづらさが常態化していれば、従業員の定着が難しく、人手不足に繋がる。

中小企業が悩む悪循環(生産性の低下→長時間労働→人手不足→生産性の低下)
中小企業が悩まされる悪循環の図
作成:株式会社デジタルボックス

 このような悪循環の中にあれば、残業を減らすことも従業員の賃金を上げることも難しいであろう。そうであれば「働き方改革関連法」を遵守することは難しい。また法令を遵守しようとしたとしても、上記のようなしわ寄せが発生してしまうであろう。

 「魅力ある職場づくり」を達成し、「人材の確保」「業績の向上」「利益増」に結び付かせるためには、この悪循環を断つ必要がある。そしてこの悪循環を断つには、日々の業務を改善していくことが大切なのである。

 働き方改革関連法は、そのほとんどがすでに施行されている。しかしながら、対応するには困難な状況を抱えている企業も多いであろう。それではどうすればいいのか。次回からは、悪循環の要素である「生産性の低下」「長時間労働・休暇未消化」「人手不足」を改善する方法について考えていく。働き方改革に着手し、魅力ある職場づくりを行っている中小企業の例を確認しながら、その対応方法や共通点を探っていく。

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