「人手不足」を解消!中小企業が行った具体的対策とポイント

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 「人手不足」は企業の倒産を招く。帝国データバンク「全国企業倒産集計2020年報」によると、2020年の倒産数は7,809件、うち「人手不足」による倒産 (後継者不足による倒産を除く) は150件である。不況による倒産は6,179件と圧倒的に多いが、それを除けば「人手不足」による倒産は9%にのぼる。人手が足りないために倒産する企業は、決して珍しくはないのである。

 そのような事態に対して、企業はどのような対応を行っていけば良いであろうか。「人手不足」に対応する中小企業の取り組み例を確認しながら、今行うべきことを考える。

連載「働き方改革と中小企業」

 1. 中小企業の働き方改革~対応すべき内容と目指すべきこと
 2. 事例付き!「生産性向上」に結び付く環境とすぐ取り組むべきこと
 3. 実例から学ぶ!「残業削減・休暇取得」を進める方法と注意点
 4. 「人手不足」を解消!中小企業が行った具体的対策とポイント
 5. 成功例の共通点は?働き方改革で中小企業が目指すべき方向性

目次

「人手不足」の理由

「人手不足」とは何か

 「人手不足」とは、求める人材を確保できないことである。Part1で確認したとおり、現在の日本は、少子高齢化による「労働力の不足」という課題を抱えている。全体的な労働力が減っている中で、人手の不足は自然なことである。日本の高齢化が進むにつれて、人手はますます不足していくであろう。

 また、従業員の定着率の低さも「人手不足」の一因である。従業員が辞める理由はいろいろあるが、勤めている企業への不満に因るケースの他にも、生活に合わなくなったために働けなくなるケースがある。子供が小学校に上がると、仕事と子育ての両立がしづらくなる「小1の壁」は、そのひとつである。多くのワーキングマザーは、子供が小学校入学と同時に働き方を変えざるを得ない状況に陥る。他にも、傷病や介護などの理由から“意欲があるものの働けなくなる”という事態もある。これらの課題についてどのように対応するかを考えることも「人手不足」の対応には必要である。

人手不足」の改善を阻む要因

 人手不足に悩まされ続けるのはなぜであろうか。人手不足が発生してしまう理由には、次のことが考えられる。

  • 人が集まらない理由

 条件に当てはまる人が少ない

 労働環境に魅力がない

 労働条件と待遇が合っていない

  • 人が定着しにくい理由

 仕事内容がきつい

 労働環境が整っていない

 仕事と待遇が合っていない

 日本の「労働力の低下」という課題を、すぐに根本から解決することはできない。しかしそのような状況の中で対応していく術はある。例えば、労働環境の魅力・待遇・仕事内容などは、Part2で確認した「生産性の低下」やPart3で確認した「長時間労働・休暇未取得」と関連している場合がある。

 「条件に当てはまる人が少ない」場合についても、検討が必要である。労働力が低下している現在において、企業が求める人物像と一致する人も自然と減っていくであろう。働きたいという意欲と能力があっても、なんらかの理由で働けていない人などに対してもアプローチするなど、条件を見直すことも大切である。これは企業に合わない人や働けない人を採用するということでは決してない。多くの人が働ける環境を整え、門戸を広げるということである。

 企業を維持していくためには、生産性の向上で業務の効率化を図ること、残業削減・休暇推進で労働条件や待遇の見直すことが求められる。そして同時に、多様な働き方を可能にすることで、さまざまな人が意欲と能力を発揮して活躍できる環境を創出することが大切である。

人手不足」の解消事例

性別も年齢も国籍も関係なく、能力を発揮できる職場

日高工業株式会社(製造業)

 日高工業株式会社は自動車部品の熱処理加工を手掛ける従業員156名の企業である。工場内は歩くだけで汗ばむほどの厳しい環境で、近隣に競合も多いことから、従業員の採用・定着に課題があった。その解決のために20年前から取り組んでいるのが「性別や年齢、国籍に関係なく、誰もが活躍できる職場環境づくり」である。

  • 作業分散化で女性・高齢者が働きやすい職場に

 作業中の従業員に装置を付け、作業の様子を撮影するなどして作業工程を分析した。そして業務を「技術が求められる作業」「機械化が難しく肉体労働の必要な作業」「機械化が可能な作業」などに分別し、工程の見直しを行った。その結果、従業員の負担を分散・削減することができ、力仕事が多い現場でありながらも女性や高齢者が活躍できる職場環境を整えることができた。

  • 正社員として外国人を積極的に採用

 90年代中頃、日本の工場で働く外国人労働者は派遣社員として勤務するケースが多かった。その中で、生活を安定させるために正社員として働きたいというニーズをつかみ、正社員として日本人労働者と同じ条件で採用してきた。それは企業が安定して経営を続けるためでもあるが、技術の伝承者として長く働いてほしいという思いの表れである。

 社内事情や周辺事情から改革を迫られた同社であるが、常に従業員の希望に耳を傾けて改善を行ってきた。その結果、様々な人が働ける環境を創出し、ダイバーシティ経営の実現に結び付いた。同時に各作業の効率化も図られ、5,092時間の残業削減を達成し、売上も増加している。

従業員ひとりひとりと向き合う職場

株式会社横引シャッター(製造業)

 株式会社横引シャッターは、従業員28名の特殊シャッター専門メーカーである。人材の確保や活用のために「一人ひとりが自分に合った働き方ができる会社」として成長することを目指している。

  • 高齢者雇用と技術継承

 定年を迎えた途端に能力が落ちるわけではないという考え方から、定年を事実上設けず60歳を超えた社員を雇用している。60歳を超えた従業員に培った技や経験を教える業務を担当させることで、昇給にもつなげている。2019年現在、横引シャッターの従業員最高齢は91歳である。滑車を作る工程を担当する彼は、78歳で入社し、90歳で昇給も果たした。

  • 従業員ひとりひとりに合った働き方の実践

 小さな子供のいる社員には勤務時間の短縮を、傷病治療が必要な社員には体調に応じた働き方を個別に提示している。そうすることで「働き続けたいけど、できないから」という望まない離職を防いでいる。職場内の連絡も、携帯のメッセージアプリを利用することでやり取りしやすくしている。急な子供の発熱にも、すぐ会社に連絡を取り、休みについての相談ができるように整えている。

 商品を全てオーダーメイドで製作する横引シャッターでは、従業員ひとりひとりの仕事や作業が会社の経営に直結する。そのため、従業員ひとりひとりに目を配り、それぞれに合った働き方ができるように整えることを大切にしている。それにより従業員のモチベーションひいては業務の効率を上げて利益に繋げている。

カバーしあいながら、社員の可能性を伸ばす職場

株式会社グローバル・クリーン(清掃業)

 株式会社グローバル・クリーンは、かつて採用難に悩んだ企業である。しかし、9人だった社員数が今では66人になり、大卒新卒者の入社も決定した。清掃関係につきまとう「きつい」「給料が低い」といったイメージを跳ね除け、飛躍的に成長した原動力は「働きづらさを抱える人が活躍できる職場へ」という思いである。

  • カバーしあえる体制と風土づくり

 育児と両立しやすい環境を整えるべく、1人が1つの現場を受け持つ専属制から、1人が複数の現場を担当する方式に変更した。突発的な欠員にも対応できる体制にし、学校からの呼び出しによる退社や子連れ出社ができる環境を整えた。勤務の柔軟性を創出すると同時に、有料保育施設の利用補助など制度面からも整えている。その結果、カバーしあう風土が醸成され、育休取得率は男女共に100%となっている。

  • 人材育成で長く働ける職場に

 同社の働きやすさは、育児中の人だけでなく高齢者や障がい者などの間にも口コミで広がった。皆が働きづらさを感じない職場を創出するために、教育に特に力を入れている。職場正社員登用の際には、個別にキャリアイメージをヒアリングした上で、個別プログラムのキャリアアップ研修を半年間実施する。一人ひとりの強みを伸ばし、弱みはその分野が強みである人がカバーしていけばいいという考えで、さまざまな事情を抱える人も働きやすい職場を作り上げた。

 「給料は急には上げられない。だが、働きやすい職場は知恵を絞れば作れるのではないか」との気づきから、同社では働きやすい環境を整えることに力を入れ続けてきた。清掃業は労働集約型であるため、人材が増えなくては成長も難しい。しかし、従業員が満足できる環境を整え、清掃業の「きつい」というイメージを覆すことで、採用に困らなくなり、事業の成長に結び付いたのである。

人手不足」の解消を目指して

多様な働き方に必要なこと

 求める人材の間口を広げるだけでは、人手不足の解消には結びつかない。なぜならば、働きにくい職場であれば、従業員は定着しないからである。間口が広がったことで入社した従業員が働ける環境が整っていなければ、業務が滞り、教育コストがかかった上で離職してしまう可能性もある。多様な従業員が働きやすい環境を整えてこそ、人手不足解消のための多様な働き方に結び付くのである。そのような環境を創出するためには、以下の4点から検討されることが大切である。

  • 労働条件の改善(給与・勤務時間・休日日数など)
  • 労働環境の改善(社内環境・人間関係など)
  • 多様な人材の活用
  • 従業員の育成

 労働条件や労働環境の改善は、Part2で確認した「生産性の低下」やPart3で確認した「長時間労働・休暇未取得」などとも連関している。労働時間や社風、有給消化率などを改善することで、働きやすい環境・待遇を改善し強化することに繋がるであろう。

 多様な人材の活用は、人手がただ増えるだけではない。性別・年齢・国籍・ハンデなどを問わない多彩な人材には多くのメリットがある。職場に新しいタイプの人が増えることで、業務環境や雰囲気が好転する可能性がある。同時にそのような人がロールモデルになることで、働く意欲が全体的に高まることもある。また、社会的な評価や認知が進み、株式会社グローバル・クリーンの例のように「この職場であれば働けそうだ」「働きたい」と採用募集に応募する人も現れやすくなるであろう。

 社員の育成環境を整備することで、求める人材を自社で育てることができるようになる。経験が乏しくとも能力を身に着けられる企業になれば、求める条件の人を探し続ける必要は無くなるであろう。また、現在の従業員を育成・兼任化することも、労働条件・労働環境の改善に繋がるため重要である。

多様な働き方のために環境を整える方法

 「多様な働き方」を実現するためには、何を行えばよいのであろうか。それには次のことであろう。

業務を可視化する

 “男性の仕事”や“フルタイムの仕事”だと決めていたものを精査すると、ワークシェアリングに移行できるものや従来の担当者でなくても担えるものがあるかもしれない。業務を可視化すれば、日高工業株式会社のように、性別・年齢・国籍にとらわれない環境を創出することも可能になるであろう。

コミュニケーションの取りやすい環境を作る

 コミュニケーションの取りやすい職場であれば、従業員同士が互いにサポートを行いやすい。また、管理層は従業員の変化にも気が付きやすくなる。離職を考える従業員は、管理層に話をするとき時にはすでに決意が固まっていることが多い。離職の決意が固まる前に気付けるように環境を整えたり、面接の回数を増やしたりするなどの対策を取るとよいであろう。中小企業は大企業に比べて規模が小さいため、管理層と従業員が距離を縮めやすく、コミュニケーションの取りやすい環境を作りやすい。従業員と良い関係性を構築し、働きづらい箇所があれば改善をしていけるように努めることが大切である。

職場環境を働き方に合わせて変える

 従業員によっては、自宅からでも働ける環境を整えることで仕事を続けられる場合もある。例えば傷病治療中の人や、育児・介護を担う人などである。また、遠方からでも働ける業務と環境があれば、従業員の募集対象を近隣住民に絞らなくて済む。遠方在住の優秀な人材の採用によって人手不足が解消されることもある。従業員の事情や業務によって働き方を変えることで、「人手不足」の解消に繋げられるのである。

多様な働き方を認める

 従業員によっては、業務時間に柔軟性があることで仕事を続けられる場合がある。例えば育児を担う人は、子供の学校行事によってフルタイムで働くことが難しい場合がある。しかし勤務時間自体に柔軟性があれば、仕事を継続できるであろう。そのような環境を目指すのであれば、勤怠管理ツールなどで、正確な勤務時間や成果内容をきちんと把握できる環境を整えることが大切である。

 また、学び直しや副業兼業を許可することで、スキルアップやキャリアアップのための離職を防ぐ企業もある。学び直し・副業・兼業は、業務以外の経験を通して、社内では得難い知識や技術、人脈などを獲得することができる。従業員はより大局的な視野を得ることができ、それらのスキルを活かして業務に役立ててくれるであろう。

自社の長所を作り上げる

 労働条件や労働環境などを改善したとしても、採用募集に応募が来ないこともある。例えば、残業時間が30時間から20時間に削減できていたとしても、同業他社の残業時間が0時間であれば、求職者にとって10時間の残業時間削減は魅力的に映らないであろう。日高工業株式会社は、外国人労働者が派遣社員として勤務するケースが多い中で、正社員としての雇用を約束した。株式会社グローバル・クリーンは「きつい」と思われがちな清掃業において、働きやすい環境を整えて人員を増やした。どちらも、他社と比較したときに長所としてアピールできる部分を明確にした例である。

 人手不足の解消は自社内の改善だけで解消される問題ではない。しかし、自社の外に目を向けることで見えてくるものがあるはずである。求職者目線・従業員目線で物事を考えて、取り組むことが大切である。

 「人手不足」は、他の悪循環の要素である「生産性の低下」「長時間労働・休暇未消化」と関連していると言える。「人手不足」への対応のみを行うだけでなく、これらも改善していくことが欠かせない。また、「人手不足」は社内の状況を改善するだけで解消されるものではない。他社と比較して長所になる部分を作り、高め、アピールしていくことによって、ようやく「人手不足」は解消されていくであろう。

 次回は、働き方改革を成功させるために大切なことを考える。働き方改革の成功事例の共通点から、管理層が気に留めておくべきことは何かを探っていく。

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