事例付き!「生産性向上」に結び付く環境とすぐ取り組むべきこと

生産性向上の環境と取り組み(働き方改革と中小企業 Part2)アイキャッチ

 働き方改革といっても、すぐに行動に移すことは難しい。働き方改革関連法の多くが施行されている現在であっても、対応困難な状況を抱える中小企業は多いであろう。前回の記事で確認したとおり、中小企業は「生産性の低下」「長時間労働・休日未消化」「人手不足」という悪循環に悩ませがちである。そこから脱却するためにはどうすればいいのであろうか。

 本記事では「生産性の低下」の改善について考える。生産性向上に結び付く働き方改革の例を確認しながら、生産性の向上には何が必要なのか、そのために企業が行うべきことについて確認する。

連載「働き方改革と中小企業」

 1. 中小企業の働き方改革~対応すべき内容と目指すべきこと
 2. 事例付き!「生産性向上」に結び付く環境とすぐ取り組むべきこと
 3. 実例から学ぶ!「残業削減・休暇取得」を進める方法と注意点
 4. 「人手不足」を解消!中小企業が行った具体的対策とポイント
 5. 成功例の共通点は?働き方改革で中小企業が目指すべき方向性

目次

「生産性の低下」の理由

生産性とは何か

 生産性とは、労働力・資本・原材料などのインプットに対して得られるアウトプット(産出物)の比率である。着目する観点によって「労働生産性」「資本生産性」「全要素生産性」の3種類に分けられる。経費削減や原材料費削減などによって、「資本生産性」「全要素生産性」を高めている企業も多いであろう。今回は労働の視点から捉えた生産性である「労働生産性」の向上について考える。

 「労働生産性」とは、労働者1人あたり、または労働1時間あたりでどれだけ産出物を生み出したかを示す指標である。例えば、50人で8時間働いて得られる産出物が100の場合と、30人で4時間働いて得られる産出物が100の場合があるとすれば、後者の方が生産性が高いということになる。このように生産性には業務の効率が強く結びついていると言える。しかし、生産性を向上するには業務の効率を高めるだけで良いというものではない。

生産性向上を阻む要因

 なぜ社内の生産性が上がらないのであろうか。その要因として、次のことが考えられる。

  • 業務にムダが多い

 形骸化した書類処理や長時間にわたる報告だけの会議など、本当は必要のない業務が潜んでいる場合がある。必要のない業務に時間と手間がとられてしまい、業務にムダが存在し続けてしまう。

  • 業務が属人化している

 業務が属人化してしまっていると、病欠などによる従業員1人の不在が業務停滞に結び付いてしまう。また、適切な仕事がなされているかを判断することも難しくなる。

  • 従業員のモチベーションが低い

 不明瞭な待遇格差や低賃金などがあれば、従業員の働く意欲は低くなるであろう。従業員のモチベーションが低下すれば、生産性を上げるどころか離職に繋がる恐れもある。新しい人を何度も育成していては、その分時間と手間がかかってしまうと同時に、従業員のスキルが低いままで生産性も上がらない。

 これらの要因は個人の努力のみで改善するようなものではない。企業が体制を整えて向上を目指すことで、ようやく解消されるのである。それでは、企業はどのような取り組みを行えばよいのであろうか。

生産性向上の事例

 多くの企業が生産性向上を目指してさまざまな施策を行っている。それは大企業だけではなく、中小企業も同様である。ここでは中小企業の取り組み内容について確認していく。

業務のムダと従業員の差を減らす職場

株式会社ランクアップ(卸売業、小売業)

 株式会社ランクアップは、化粧品の開発と販売を行う企業である。従業員に育児を行う者が多いため、育児をしながらでも仕事でキャリアアップできる環境を整えている。

  • 業務の優先順位の決定

 月20時間以上の残業が3か月続いた場合、業務の棚卸しを行った上で業務の優先順位が決められる。順位の低い業務は他の社員に割り振るかアウトソーシング化し残業時間削減に結び付ける。

  • 勤務時間の長短を加味しない人事評価

 自分の業務は自分でこなすことを絶対とし、時短勤務であってもフルタイムと同じ基準で業務評価がなされる。そうすることで、フルタイム社員にかかる負担が少なくなり、時短勤務社員は気兼ねなく働けるという。

 業務時間内に仕事が終わるように、従業員は業務の優先順位を付け、効率的に働くことが求められる。常に業務管理を意識させることで、従業員は業務のムダを減らして働くことになる。また、時短勤務社員とフルタイム社員との間にある隔たりを少なくすることで、時短勤務社員が抱きがちな「申し訳ない」という気持ちと、フルタイム社員の抱きがちな不公平感を取り除く。お互いのストレスを軽減することで、従業員の働くことへのモチベーションを維持している。

属人化を防止して助け合う職場

株式会社井口一世(製造業)

 株式会社井口一世は従業員40名の金属加工業を営む企業である。新卒者の定着を目指し、残業時間の削減をはじめとした働き方改革に乗り出した。その際に徹底したことが業務の属人化の防止である。

  • 全社員のマルチスキルワーカー化

 業務のボトルネックを無くすために、誰もが複数の業務をこなせる状態を目指した。業務の属人化を防ぐことで従業員同士のフォロー体制を整えている。ラインを動かしつづけなければならない製造業でありながら、従業員の突発的な不在にも対応できる。

  • 個人のスキルアップとモチベーション維持

 「スキルマップ」と呼ばれる600に細分化された業務項目を基にした人事評価と、それに基づいて毎月でも昇給が可能な給与体系を作り上げた。日々の細かな業務も評価され、昇給へとつながることで、ひとりひとりがモチベーションを維持して新しいスキル習得に取り組める。

 業務の属人化を防止することで、業務が停滞しない環境を作り上げた。また、新しいスキルを身につけることは容易ではないが、それを後押しする制度も組まれている。このような社内のフォロー体制から、お互いを助け合いながら働ける環境が醸成され、労働環境に魅力を感じてさらに若手が入社、人手が増えることで休暇が取りやすくなるという好循環が生まれている。

能力の見える化で個人の成長を促す職場

鮮コーポレーション株式会社(飲食サービス業)

 鮮コーポレーション株式会社は回転寿司店や料亭などを運営する従業員74名の企業である。調理技術は長年の修行で習得できるものであるという認識が強いため、人材育成に時間がかかると同時にモチベーションの維持が難しい。そのために人手不足や従業員の負担の増大に陥りがちである。その状態を解消するべく、個人の成長の見える化に力を入れている。

  • 個人の能力と成長の見える化

 技術や勤務態度を5段階で評価する「成長シート」を導入し、給与と連動させている。個人の業務遂行能力と成長、そして給与計算方法を見える化することで、従業員のモチベーションを向上させる。

  • 正社員登用へのモチベーション

 「成長シート」は正社員向けのものであるが、正社員登用希望のアルバイトやパート社員にもこれを配布する。正社員登用希望者は正社員に必要な能力や心構えを把握でき、モチベーションも向上する。

 身につけるべき項目を明確化することで、従業員は目指すべきことが把握できるようになっている。同時にモチベーションが向上し、社員の定着率も向上、疲弊しがちな現場も改善された。なお、「成長シート」の最高評価「5」は他の社員への教育が担えるレベルである。人を成長させることが最高の評価に繋がるという思いが込められているという。

生産性向上を目指して

生産性向上に必要なこと

 生産性の向上に必要なこととは何であろうか。それには次のものが挙げられるであろう。

  • 業務の優先順位付け
  • タイムマネジメント
  • 従業員のスキルアップ
  • 業務の属人化防止
  • 従業員のモチベーション維持
  • 業務の効率化

 業務の優先順位付けやタイムマネジメントを行えば、優先順位の高い業務や効果の高い業務に時間を割くことができる。ただ目の前の業務をこなすよりも効率的に高い成果が得られるであろう。また、従業員がスキルアップすれば、業務処理のスピードは上がっていく。属人化を防止して、業務を複数人がこなせるようにすれば、いざというときも業務が停滞することもなく、常に業務を回すことができる。

 このような状態を維持、向上させるものが従業員のモチベーションである。モチベーションが維持されれば、上記の3社のように効率的な業務やスキルアップ、属人化の防止に繋がるのである。

 また、業務の効率化も生産性向上に必要な要素の1つである。業務にかかるコストを削減し、業務遂行スピードを高めれば、産出物の質や量を変えずに時間やコストを減らすことができ、生産性の向上に繋がるであろう。

生産性向上のための環境を整える方法

 「生産性向上に必要なこと」を実践できる環境にするために、企業は何を行えばよいのであろうか。それは次のことであろう。

業務の見える化

 業務の全体像が分からなければ、何から手をつけるべきか検討もつかないであろう。誰がどのような手順でどのような業務を行っているのか、どのようなフローで業務が進められているのか、そのような業務の全体像をつかむことで、ムダやボトルネックは発見される。それらが把握できてはじめて対応策を練ることができ、業務の優先順位付けや属人化防止のための対策が立てられるようになるのである。

業務の標準化

 業務の標準化を行えば、担当者ごとの業務のばらつきが無くなるために生産性は向上する。標準化した業務をマニュアルとして残せば、属人化を防ぐこともでき、生産性の高い方法を業務の基準としてマニュアル化すれば、さらに生産性が底上げされるであろう。

従業員のスキルの見える化

 従業員の個々の能力を把握することで、適切な人材を適切な業務にあてがうことができるようになる。適材適所な配置が実現できれば生産性は向上する。研修や制度を設け、従業員が意欲を持ってスキルアップできるように整えれば、さらなる生産性の向上に結び付くであろう。

業務のデジタル化

 今行っている業務の中にも、オンラインに切り替えられるだけで効率化・自動化できるものがあるかもしれない。例えば、給与計算と給与明細発行をITツールで賄えば、税金や手当などの複雑な計算を自動で行い、給与明細や各種帳簿をオンラインで発行するため、給与計算の手間や給与明細の印刷配布の手間などが大幅に削減される。業務効率が高まり、従業員は他の業務にあたれるため、生産性の向上に結び付くであろう。

 従業員ひとりひとりが生産性向上に向けて努力することも大切であるが、それだけでは限界がある。企業が社内の体制や制度を整えることによって、効果はより大きなものとなるであろう。生産性が向上すれば、時間や気持ちに余裕が生まれるが、制度の導入には時間がかかる上、一時的に業務が増える可能性がある。また、すぐに効果が出るとは限らない。それを踏まえた上で一歩ずつ着実に行う必要がある。

 次回は「長時間労働・休日未消化」について考える。長時間労働を是正し休暇を取りやすくした中小企業の例を確認しながら、その対応方法について探っていく。

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