成功例の共通点は?働き方改革で中小企業が目指すべき方向性

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 中小企業を悩ませる悪循環として「生産性の低下」「長時間労働・休暇未取得」「人手不足」がある。本連載では、その悪循環から抜け出すにはどうすればよいのか、中小企業の働き方改革の成功例を交えながら、それぞれの改善方法を考えてきた。

 本記事では、成功例の共通点と改革のポイントから、働き方改革を進める上で大切なことを探っていく。記事の最後には、自社の働き方改革について確認できるチェックリストもあるため、あわせて確認してほしい。

連載「働き方改革と中小企業」

 1. 中小企業の働き方改革~対応すべき内容と目指すべきこと
 2. 事例付き!「生産性向上」に結び付く環境とすぐ取り組むべきこと
 3. 実例から学ぶ!「残業削減・休暇取得」を進める方法と注意点
 4. 「人手不足」を解消!中小企業が行った具体的対策とポイント
 5. 成功例の共通点は?働き方改革で中小企業が目指すべき方向性

目次

改革成功例の共通点

 本連載では働き方改革に取り組み、成功した9例を確認してきた。それらの共通点は何であろうか。それは次の4点である。この共通点こそが、働き方改革を進める上で重要な要素だと言えるであろう。

変えるべきことを明確にする

 Part2で紹介した鮮コーポレーション株式会社は、人手不足や従業員の負担増大に陥ってしまう原因は、技術の取得に時間がかかることとモチベーションの維持が難しいことだと認識して、個人の成長を見える化に取り組んでいた。また、Part3で紹介した株式会社パワーネットは、 経営危機を脱するためには業務が滞らない環境づくりが必要だと考えた。その上で、 業務をマニュアル化し、担当者以外でもすぐに引き継げる環境を整えた。

 このように各社は自社の課題とその要因を洗い出した上で、改革を行っている。たとえ他社で成功した方法であっても、自社では効果が現れないこともある。なんとなく改革を進めるのではなく、課題を見つめて変えなくてはならないことを明確にした上で取り組むことが大切である。

従業員目線で改革する

 Part3で紹介したアシザワ・ファインテック株式会社は育児や傷病治療、介護などを行う従業員にとって便利なように、年次有給休暇を1時間単位でも使えるようにしている。同じくPart3で紹介した株式会社サカタ製作所は、男性社員が育休を取得しづらい雰囲気があることを知ったことにより、男性社員が育休を取りやすくするためにはどうすればいいかを考えた。

 このように各社は従業員の声に耳を傾け、従業員にとってより良くなるように改革を進めている。経営層目線で断行するのでなく、従業員にとって働きやすい環境とは何か、従業員が必要としている制度は何かなど、従業員のことを考えた改革が大切である。なお、中小企業は経営層と従業員の距離が大企業に比べると近いところが多い。そのため従業員の声を直接知ることができやすい環境にあると言える。

長期間かけて根付かせる

 働き方改革はすぐに効果が出るといったものではない。新しい体制を作り上げることや、それを風土として根付かせることは、それなりに時間がかかるものである。特にPart4で紹介した株式会社グローバル・クリーンのように、一人ひとりの強みを伸ばし、弱みはその分野が強みである人がカバーしていくという体制と風土は、教育体制を整えた上で作られるものであり、すぐには完成しないであろう。

 働き方改革を成功させるためには、根気が必要である。気持ちが早まってしまったために、業務にしわ寄せが発生してしまうということがないように、ひとつひとつこなしていくことが大切である。

会社の方針として示す

 働き方改革は、従業員だけの力では成し遂げることはできない。会社の方針として打ち出すことによって、成し遂げられるものだからである。Part3で紹介した株式会社サカタ製作所は、経営者が社員の前で方針を共有し、会社全体が目指すべき方向性を明確にすることで成し遂げた例である。また、Part4で紹介した日高工業株式会社は「性別や年齢、国籍に関係なく、誰もが活躍できる職場環境づくり」という方針を打ち出した上で作業分散化を図った。

 働いている従業員こそ、本当に変われるのであろうかと懐疑的なものである。また、業務をこなすことに手いっぱいで、改革に非協力的な従業員も出るかもしれない。経営層は従業員を啓蒙し教育していくことが求められる。また場合によっては、業務の洗い出しによって一時的に業務が増えたり、ITツールの導入によって一時的にコストが増えたりする可能性もある。時として経営層は腹をくくって推進することも必要である。

働き方改革が目指すもの

ワークライフバランスの実現

 厚生労働省は、働き方改革のポイントとして次の2点をあげている。

働き方改革全体の推進

ポイントⅠ 労働時間法制の見直し

働き過ぎを防ぐことで、働く方々の健康を守り、多様な「ワーク・ライフ・バランス」を実現できるようにします。

ポイントⅡ 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

同一企業内における正社員と非正規社員の間にある不合理な待遇の差をなくし、どのような雇用形態を選択しても「納得」できるようにします。

出典:厚生労働省 「働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて」

 働き方改革は、ワークライフバランスを実現するための手段である。働き方改革の目的の一つに、“ワークライフバランスの実現“が含まれていると言い換えることもできるであろう。

 “ワークライフバランスの実現”については、次のような調査結果がある。内閣府は感染症拡大下における生活意識や行動の変化に関する調査を継続的に行っており、その中に「ワーク・ライフ・バランスの意識変化」の項目がある。2021年4ー5月に「今回の感染症拡大前に比べて、ご自身の「仕事と生活のどちらを重視したいか」という意識に変化はありましたか。」という問いに、「感染症拡大前よりも、生活を重視するように変化」と答えた人は、全体の約1/3にのぼる。

ワークライフバランスの意識変化 2021年4~5月に「生活を重視するように変化」と答えた人は、全体の1/3におよぶ
出典:内閣府「第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」

 感染症の流行が拡大した直後は、「感染症拡大前よりも、生活を重視するように変化」の割合が全世代通して高い。これは感染症が未知のものであり、全世代が緊張感をもって生活の大切さを選んだからであろう。その後、「ウィズコロナ」「ニューノーマル」といった言葉のとおり、感染症流行下で生活を重視することが当たり前のものとなった。そのため、10%~20%が「変化はない」に移行し、「生活を重視するように変化」と答える人は1/3という割合で安定しているのではないであろうか。生活を今までより重視できる環境が、これからも求められ続けると言えるであろう。

 また、「2021年4-5月」の「感染症拡大前よりも、生活を重視するように変化」の割合は20歳代で39.3%、30歳代で41.3%と高い数値を維持している。若手の就業を促進していく上で、生活を今までより重視することのできる環境、つまり“ワークライフバランスの実現”可能な環境は欠かせない要素とも言えるであろう。

従業員の選択肢を増やす

 ワークライフバランスのことを、「仕事とプライベートを分ける」「仕事5:生活5が理想」と思っていないであろうか。これらの認識は誤解だと言える。ワークライフバランスは仕事と生活のどちらか一方を犠牲にするというものではない。

 ワークライフバランスが保たれることにより、従業員は心身の健康維持や、モチベーションの向上、スキルアップやリフレッシュなどが可能になるであろう。それにより、企業のイメージアップや生産性向上、人材確保や流出防止などに結び付くと考えられている。

 今よりも生活に重きを置くようになると、仕事に時間や集中力などを割いてくれなくなるのではないかと考える人もいるかもしれない。ワークライフバランスの実現とは、本来そういった考え方ではなく、むしろ仕事と生活を調和させることで相乗効果が得られると考えるものである。仕事と生活のどちらかを最低限こなすといった事態ではなく、双方のバランスが取られることで好循環が生み出されるであろう。そのために、働き方改革によって闇雲に余暇の時間を取らせたりするのでなく、従業員の選択肢を増やすことが大切なのである。

自社の働き方改革進行度チェックポイント

 自社の働き方改革はどれくらい進行しているであろうか。下記のチェックポイントを参考に確認してほしい。

  • 自社の課題
  • 自社の課題を把握している
  • 自社の課題の要因が洗い出せている
  • パート・アルバイトが短期間で離職せず、継続して勤務している
  • この数年の間に育児や介護を理由にした離職はない
  • 現状の把握
  • 窓口の設置など、従業員の声を聞くための方法を整えている
  • アンケートやヒアリングなどの調査で、従業員の意識や意向を定期的に把握している
  • 従業員の勤務時間・休暇取得日数を正確に把握できている
  • 目標の設定と発信
  • 働き方改革について経営者がメッセージを発信している
  • どのような働き方を目指すかについて、方針として明文化している
  • 残業時間・休暇取得日数・生産性の水準などの目標を数値化している
  • 従業員に向けた周知・啓発・教育を行っている
  • 体制の創出
  • 担当者が不在の場合でも、業務が滞らずに進められる体制を整えている
  • 業務の量や負荷に応じて、業務工程や業務内容などの見直しを行っている
  • 従業員が残業時間・残休暇数・社内制度などを確認できる環境を整えている
  • 従業員が学び育つことのできる仕組みと風土がある
  • 短時間勤務やテレワークなど、柔軟な働き方ができる環境を整えている

 働き方改革の推進によって「生産性の低下」「長時間労働・休暇未取得」「人手不足」の悪循環から抜け出せれば、社員にとって働きやすい環境が整えられるであろう。しかしそれだけではなく、企業にとってもメリットは多い。従業員の残業時間が減少すれば、それだけのコストが削減できる。働き方改革に力をいれているという社会的評価を得ることにも繋がり、若い人の目にもとまりやすくなるであろう。また、「魅力ある職場づくり」によって、「生産性の向上」「残業時間削減・休暇取得率向上」「人手の確保」という好循環が創出され、ひいては業績の向上や利益増にも繋がる可能性もある。

 他社の成功例とその改革方法は、ただの事例に過ぎない。自社を魅力ある職場とするためには、自社の課題と要因の把握が必要である。それを踏まえて働きやすい環境にしていくために、考え続けることが大切である。

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