日本のデジタル化は、中国と何が違うのか?それぞれの特徴と課題

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 本連載「中国のデジタル化」では、コロナ禍後のデジタル経済発展のための政策を踏まえ、中国、特に中小微企業のデジタル化現状をデータで分析し、現状を明らかにした。デジタル化が猛スピードで発展している中国に日本が追いつけないのは何故か。最終回の本記事では、日本のDXと中国とは何が違うか、その違いからどのような影響がもたらされるかを明らかにしたい。

連載「中国のデジタル化」

 1. 中国のデジタル化政策「上雲用数賦智」が目指す方向性と取り組み
 2. 中国が目指す中小微企業のデジタル化~課題と取り組み
 3. データから見る中国の中小微企業の実態~デジタル化政策とコロナ禍を経て
 4. データから見えた中国企業の現状~7つのポイントと中小微企業
 5. 日本のデジタル化は、中国と何が違うのか?それぞれの特徴と課題

目次

日本のDX

DXの現状

 経済産業省(以下、経産省)は2018年9月、『DXレポート~ITシステム「2025の崖」克服とDXの本格的な展開~』(以下、DXレポート)を発表し、もしDXが進まなければ、「2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と警告した。この経済損失の要因は複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存し、IT人材の引退やサポート終了等によるリスクの高まり等に伴う経済損失であると指摘した。また、企業のIT投資は保守的で、業務効率化/コスト削減に注力しがちである。ゆえに「DX=レガシーシステム刷新」や「DXで業務効率化を目指す」など、側面的な解釈が生まれてしまい、「現時点で競争優位性があるのであればDXを進めなくていい」という受け止めもあった。

DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~

出典:経済産業省ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html)

 独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)の「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート」(以下、分析レポート)によると、「DX未着手企業」と「部分的実施に留まっている企業」は全体の95%である。

 分析レポートは2019年12月末までに回収した272社の回答を分析対象としている。ここの272社は、自己診断を行って結果を提出した「意識の高い企業」のものであり、日本全国約359万企業のわずか0.0076%である。分析レポートから日本企業のDX推進はまだ始まったばかりの状況であることが分かるのであろう。それどころか、この分析レポートの水面下に潜んでいる事実がさらに深刻であろう。

 この272社の内訳を見てみると、100人未満の企業が10%、100人から300人未満の企業が17%、3000人以上の企業がもっとも多い31%である。中小企業は業種別で定義に必要な従業員の数の上限が300人、100人、50人と異なっているため、分析レポートの分析対象の明確な中小企業の割合は計算できないが、その割合が低いであることが分かる。全国の99.7%の企業は中小企業であることを考慮すると、中小企業のDX推進レベルがほぼゼロに近いことが分かるであろう。

DX 推進指標 自己診断結果 分析レポート

出典:情報処理推進機構IPA (https://www.ipa.go.jp/files/000082544.pdf)

 2020年、世界中に拡大したコロナ禍で企業を取り巻く環境が明らかに変化し、事業環境に適応できるかどうかは企業の生存に関わっている。テレワークをはじめとしたデジタルによる社会活動の変化が一時的なものではなくなり、DX推進の緊急性が高まっている中、DXを加速するため、企業のとるべきアクションと政府の対応策の検討を行い、2020年12月、経産省は『DXレポート2(中間まとめ)』(以下、DXレポート2)を発表した。

 DXレポート2によると、企業が競争上の優位性を確立するには、常に変化する顧客・社会の課題をとらえ、「素早く」変革「し続ける」能力を身に付けること、その中ではITシステムのみならず企業文化(固定概念)を変革することが重要である。DXは、システム更新の問題から企業文化刷新の問題へと進化した。

DXレポート2(中間取りまとめ)

出典:経済産業省ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004.html)

DX推進に向けた企業と政府のあるべき方向性

 DXを加速するために、経済産業省はDXレポート2で企業の経営・戦略の変革の方向性を「直ちに取り組むべきアクション、中長期的対応」と策定している。

 直ちに取り組むべきアクションには、「業務環境のオンライン化、業務プロセスのデジタル化、従業員の安全・健康管理のデジタル化、顧客接点のデジタル化」の4つのカテゴリで具体的に整理している。

 短期的対応には、「DX推進体制の整備、DX戦略の策定、DX推進状況の把握」と3つの方向性を示した。中長期的対応には、「デジタルプラットフォームの形成、産業変革のさらなる加速、DX人材の確保」と3つの方向性をまとめた。

 直ちに取り組むべきアクションと短期的対応は個社の内部における設備や体制などの環境整備である。どちらも経営者のリーダーシップなしでは進められない対応である。また、環境整備はDX推進の基礎であり、ファーストステップである。しかしながら、2018年よりDX推進が提唱され以来、未だに95%の企業は環境整備が整えられていない現状である。経営者のリーダーシップが発揮されていないことが分かる。その原因の一つは、経営者のDX推進の緊急性と重要性への認識が浅いと考えられるのではないであろうか。

 中長期的対応は個社の内部のシステム構築、人材確保などだけではなく、ベンダー企業とユーザー企業との関係づくりや、業界内での企業間のデジタルプラットフォームの形成など、市場全体の目指すべき方向性を示している。これらの中長期的対応にも経営者のリーダーシップが必要である。

 政府の政策の方向性について、「事業変革の環境整備、デジタルプラットフォームの形成、ユーザー企業とベンダー企業の共創の推進、DX人材の確保」と4つに大別して述べられている。それぞれが企業の「直ちに、短期的、中長期的」の三段階の取り組むべきことを支援している。また、事業変革の環境整備には、「共通理解の形成のためのポイント集の策定、CIO/CDXOの役割再定義、DX成功パターンの策定」などが挙げられる。政策はDX推進の環境整備に注力しているのであろう。

コロナ禍における環境整備の政府支援

 感染症への対策や働き方改革の必要性が高まる中、デジタル化に関心があっても、ノウハウがなく導入・定着に至らない中小企業が数多く存在している。中小企業庁は中小企業のテレワーク導入等のデジタル化を支援するために、2020年9月に、「中小企業デジタル化応援隊事業」を開始した。デジタル化課題の分析・把握・検討とIT導入に向けた支援を提供している。この事業も中小企業のDXに向ける環境整備に対する支援である。

日本の中小企業向けデジタル化の呼びかけ(どこから手をつければいいのか分からない人や、テレワーク導入が進まない企業に呼び掛けている)
出典:https://digitalization-support.jp/

日本のDXと中国のデジタル化

DXの三段階

 DXレポート2と中国の政策を踏まえて、日本と中国が推進するDXをそれぞれ三段階に分ける。日本のDXは企業の業務からスタートし、企業間の連携を経て、企業文化の変革を目指している。一方、中国のDXは企業のデジタル化からスタートし、企業間の連携を経て、市場全体のデジタル化であるデジタルエコシステムの構築を目指している。DXが目指している変革の規模感が明らかに違うのである。また、企業のDXの目的に関して、日本はコスト削減、業務効率化を目指している一方、中国は売上拡大、企業に賦能し、とにかくイノベーションを重視する。

日本中国
第一段階業務のデジタル化企業のデジタル化
第二段階デジタル社会基盤の形成、産業変革産業チェーンのデジタル化
第三段階企業文化(固定観念)変革デジタルエコシステムの構築
作成:株式会社デジタルボックス

DX推進の問題点

 日本と中国のいずれも市場の主体が中小企業である(中国の場合は中小微企業である。以下、中小企業で統一する)。国全体のデジタル化が進んでいるか否かに関わらず、中小企業のデジタル化が苦戦している。また、コロナ禍の影響で、中小企業の経営状況がさらに悪化している。ここで中小企業の立場から日本と中国のデジタル化の問題点を比べてみる。

共通点

  • 資金に余裕がない
  • DX人材不足

日本特有の問題点

  • レガシー問題

 技術面の老朽化、システムの複雑化、ブラックボックス化等の問題があり、維持とメンテナンスが高コストの「レガシーシステム」が存在している。完全に切り捨ててゼロにすることが難しい。レガシー問題を抱えながら、マイナスの状態をゼロに戻し、そこからイチを目指すことは難しさが倍増する。

  • 慎重な企業文化

 慎重な企業文化は日本人の国民性と繋がっている。日本人や日本文化は「統一性を好む、目立つのが嫌がる、人に意見を合わせる」などの特徴がある。これゆえに、慎重な企業文化ができ、現状に我慢し、変革や革新などが嫌がる。

中国特有の問題点

  • Saas業界発展が不十分

 2000年頃、経済発展に伴い、IT技術管理ツールに対する需要が急激に高まってきたが、IT技術管理ツールが未熟で、導入するノウハウもない状態であった。2010年頃、中国のSaas業界は系統的に発展しはじめた。2015年頃、Saas業界への資金投入が多くなり、Saas業界のインフラ建設が徐々に整えられてきた。2020年、コロナ禍が襲来し、テレワークをはじめデジタルの導入を行わなければならない状況が容赦なく迫ってきて、導入初期は提供側と導入側に混乱が絶えなかった。Saas業界の発展の歴史はまだ浅いが、イノベーション重視の風潮があるため、混乱や困難に立ち向かい、猛スピードで発展している。

DX推進計画から見えるもの

 中国と日本のデジタル化の関連資料を調査した時、政策のフォーカスポイントの相違に違和感を覚えていた。中国の政策は「国・経済全体・企業のデジタル化戦略とコンセプト及び目標を決め、財政・人材・制度面で支援する項目を決め、あとは企業に任せる」のやり方で、国全体をデジタル化するために戦略を決め、政府が強く関与するが、企業の参加方式がある意味自由である。

 しかしながら、日本の政策は手取り足取りでやり方を教えることで企業を支援していると感じている。特に中小企業デジタル化応援隊事業は、テレワークの導入方法、電子マネーの導入方法など、環境整備の一個ずつのアクションの導入を支援している。

 どちらかが間違えているということはないであろう。中国のようなやり方は、政府が強く関与する姿勢だが、中小企業向けの支援政策が中小企業に知られていない事情が起きている。ただし、とにかくイノベーション重視のスタンスだからこそ、デジタル化推進に活気があふれ、デジタル推進を促しているのではないであろうか。日本は慎重な国民性という特有の問題点を抱えているから、ファーストステップを踏み出させるために、環境整備の細かいところを支援する政策を策定したのではないであろうか。しかし、最初の一歩目をいかに踏み出させるかに集中しすぎてしまうと、長期的な戦略が実現しにくくなる恐れが生じるであろう。DXレポート2によるDXの本質が企業文化(固定観念)の変革だと明記しているが、個社の企業文化の変革ができてから目指す方向は何であるか、地域目線もしくは国目線でDXのあるべき姿を明らかにすべきのではないであろうか。

 ビジネスにおける価値創造の源泉はデジタル領域に移行しつつある。デジタル化に遅れる企業がやがて失敗する。しかしながら、日本は、慎重型国民性の影響、危機意識の不足などが原因で、DX推進に未着手の企業が多い。経営者、特に中小企業経営者は意識変化の緊迫性を認識しなければならない。本連載で隣国中国の現状を知り、危機意識を少し深め、DXのファーストステップを少しでも踏み出してみたいと思ってもらえたら幸いである。

 

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