中国のデジタル化政策「上雲用数賦智」が目指す方向性と取り組み

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 コロナ禍は世界レベルの危機であり、世界中に大きなダメージを与えた。猛スピードで発展してきた中国は、世界的にも早い段階でコロナをコントロールできたが、コロナ禍による影響が決して少なくない。

 コロナ禍後の中国は、デジタル経済発展のために、「中国製造2025」、「インターネット+行動」、「新インフラ建設」に続き、政府は新しい政策を発表した。この新しい政策がどんな目的を持って、どんなターゲットに対して具体的にどのような対策を明示したのか、本記事では、中国の新しいデジタル化政策とそのガイドラインについて紹介する。

連載「中国のデジタル化」

 1. 中国のデジタル化政策「上雲用数賦智」が目指す方向性と取り組み
 2. 中国が目指す中小微企業のデジタル化~課題と取り組み
 3. データから見る中国の中小微企業の実態~デジタル化政策とコロナ禍を経て
 4. データから見えた中国企業の現状~7つのポイントと中小微企業
 5. 日本のデジタル化は、中国と何が違うのか?それぞれの特徴と課題

目次

中国デジタル化政策ー上雲用数賦智

上雲用数賦智政策とは?

 2020年4月7日、中国国家発展改革委員会(以下、国家発改委)と中共中央サイバーセキュリティ・情報化委員会弁公室(以下、国家網信辦)が共同で「关于推进“上云用数赋智”行动 培育新经济发展实施方案」(“上雲用数賦智”行動の推進とニューエコノミー発展の育成に関する実施案)(以下、「実施案」)を発行した。デジタル化が中国経済の発展にとって非常に重要だと表明し、企業のデジタル化、特に中小微企業(日本でいうと、中小企業と小規模企業)のデジタル化がカギとなっている。

 上雲(shang yun、シャン ユン)とは、企業のインターネット化とデジタル化である。上雲により、企業の経営発展のデータが蓄積される。上雲が用数と賦智の基礎であり、前提条件である。

 用数(yong shu、ヨン シュウ)とは、企業はデータ分析、マイニング、及びモデリングにより、企業の運営状態をタイムリーにモニターし、経営管理の重要法則を発見する必要がある。用数がキーポイントである。

 賦智(fu zhi、フゥ ジー)とは、運営状態を把握し、法則を発見した後(いわゆる用数の後)、企業はターゲットを絞って戦略を最適化し、経営管理にデジタルな考え方を融合し、持続的な経営を目指す。賦智が進化である。

 つまり、クラウドサービス支援(上雲)、ビッグデータ運用(用数)、スマート化支援(賦智)の面において、政策による外側からのデジタル化を支援する。

目的

 デジタル経済戦略を実行し、産業デジタル化とデジタル産業化を加速し、新しい経済発展を促進し、国家デジタル経済刷新発展試験区の建設を確実に促進し、新エネルギー主導の経済発展の新パターンを構築し、現代産業システム構築を支援し、高度な経済発展を実現する。

目標

 既存の業務に加え、デジタル経済の発展に注力し、企業のデジタル化を促進し、データサプライチェーンを構築し、データフローで物資フロー、人材フロー、技術フロー及び資金フローをリードし、産業チェーン(サプライチェーンとバリューチェーンを繋いで形成する中国発の経済概念)と産業間を統合するデジタル化エコシステムを構築し、設備デジタル化―生産ラインデジタル化―ワークショップデジタル化―工場デジタル化—企業デジタル化産業チェーンデジタル化デジタルエコシステムの典型的なモデルを構築する。

政策の主要方向

基礎構築、デジタル化の技術力を固める

 デジタル化の共通技術、キーテクノロジーの研究開発と応用を加速させる。条件の整った業界と企業内でビッグデータ、AI、クラウドコンピューティング、デジタルツイン、5G、IoT及びブロックチェーンなど新世代のデジタル技術の応用と統合イノベーションを支援する。

プラットフォーム構築、多層連動の産業インターネットプラットフォームを構築

 企業技術センター、産業イノベーションセンター及びイノベーションサービス総合センターを育成する。コアテクノロジーを備えた企業に、ソフトウェアソースコード、ハードウェア設計及びアプリサービスを開放するよう促す。業界大手企業がオープンソースを統合するよう誘導する。区域、業界及び園区を一体にし、ともにデジタル技術とソリューション社区(コミュニティ)を構築し、産業インターネットプラットフォームを構築し、中小微企業のデジタル化にエネルギーチャージする。

モデル転換促進、企業の上雲用数賦智を加速させる

 デジタル化サービスを深め、クラウドサービスに基づくアセットライトと有形固定資産の分離協力を促進する。平台(プラットフォーム)企業に、研究開発設計、運用管理、生産加工及び物流アフターサービスなどコア業務のデジタル化を推奨する。インターネット平台企業が自身の優位条件をもとに、中小微企業にエンドユーザー知能データ分析サービスを提供することを推奨する。中小微企業のデジタル化を促進し、平台企業に「ライト応用」と「マイクロサービス」の革新を促し、中小微企業向けに低コスト、低ハードル及び高速導入サービスを展開し、細分領域におけるガゼル企業とニット企業の育成を加速させる。デジタルビレッジ、デジタルファーム、スマートホーム及びスマート物流などのアプリを推進させ、インターネット+(インターネットをあらゆる産業に活用して産業競争力を向上させることを目的に2015年に発表された政策)のパワーアップバージョンを作る。

エコシステム建立、業界統合のデジタルエコシステムを建立する

 デジタル化、ビジネスプロセス再構築、組織構造の最適化及びビジネスモデル変革を加速し、「生産サービス+ビジネスモデル+金融サービス」の異業界コラボレーションのデジタルエコシステムを構築する。

業態活発化、経済発展の新スペースを拡大する

 シェアリングエコノミー無人配達などデジタル関連の新しい業態を発展させ、政策上の障害を取り除く。クラウドサービスを製造業界と中小微企業に普及させる。従業員シェアリングなどの新しい雇用モデルを発展させ、貯蓄タンクとしてのデジタル経済の役割を十分に発揮する。

サービス強化、デジタル化支援の保障を強化する

 プラットフォーム、社区、サードパーティが中小微企業向けに、デジタル化に必要な開発ツールと公共サービスを提供すること推奨する。公共サービスの民間委託や特別補助金などの形で、中小微企業と柔軟な就業者向けに、平台が無料や優遇サービスを提供すること奨励する。

 「実施案」が上記6つのプロジェクトを提示した。政府は、ただSaas製品の導入やオンラインサービスの展開など形上のデジタル化ではなく、デジタル技術を企業経営に浸透させるように、中国経済市場の全員、研究機構、及び政府が全出動するよう、政策を作成した。デジタル化のデータフローがマネジメントの有効性向上や意思決定と研究開発の効率化、業務運営と拡大の新しいチャンスの提供などマネジメントと経営やイノベーションにおける重要な役割を担っている。

上雲用数賦智政策のガイドラインーデジタル化連合活動提案

概要

 2020年5月13日、国家発改委と国家網信辦が共同で「数字化转型伙伴行动倡议」(デジタル化連合行動提案)(以下、「提案」)を発表した。コロナ禍により、中小微企業が大きなマイナス影響を受け、経営維持に苦戦している局面に向け、「提案」が政策面と構造面において中小微企業のデジタル化及びデジタルエコシステム構築の行動を指導した。

 「提案」が主に「政府が主導する―平台がエネルギーチャージする―大手企業がリードする―各機構がサポートする―多元的なサービス」(政府引导—平台赋能—龙头引领—机构支撑—多元服务)の連合推進構造を構築すると表明した。

重点取組事項

デジタル化共通ソリューションの開発を強化する

 既存企業のデジタル化にあたる共通課題に焦点を合わせ、ソリューションと標準を開発する。ビッグデータ、AI、デジタルツイン、5G、IIoT、IoT及びブロックチェーンなどデジタル技術の応用と統合イノベーションを活用し、クリエイティブで共通的なソリューションと標準を開発する。オンラインソリューションデータベースを構築し、eラーニングなどにより、企業のデジタル化を支援する。

包摂的デジタル化製品とサービスを提供する

 既存企業、特に中小微企業のデジタル化の需要に向けて、産業平台化エコシステムを構築する。主要産業及び特定のシナリオ向けに、モデルライブラリ、ナレッジベースを充実させ、アプリの付加価値サービスを革新させる。中小微企業向けのデジタル化ガイドラインを編集し、実際の状況に基づき、包摂的で低コストの多様的な「上雲用数賦智」製品またはサービスを提供する。デジタル化の促進センターとオープンソース社区を建設し、デジタル化のための公共サービスを強化する。

シェアリングエコノミーモデルを通じてデジタル化リソースを開放することを探る

 シェアリングエコノミーと金融技術を革新的に発展させ、中小微企業が必要とする資源を社会的に開放し、資源の有効利用と価値の共有を実現する。例えば、研究開発と設計、製品開発、ロジスティクスと流通などの生産と運用リソース、及びモデリング、実験検証、モデルシミュレーション、ソフトウェアソースコードなどの技術と設備機能がある。情報の連携・総合交流を強化し、デジタルシルクロードの共同建設を促進する。デジタル化の技術と経験を「一帯一路」関連国に共有するよう促す。

統合化したフルチェーン型のデジタル化サービス機能を備える

 金融とテクノロジーの緊密な統合を促進し、「生産サービス+ビジネスモデル+金融サービス」の業界を跨ぐデジタルエコシステムを構築し、デジタル化のナレッジシステムとツールの開発を加速し、デジタル化コンサル、情報ドッキング、ソリューション、プロジェクトロードショー、人材トレーニング、テクノロジーアウトプット、協同イノベーションなどのフルチェーンサービスを提供し、既存企業のデジタル化の発展を促進する。物理的な境界を越えた「仮想産業園」と「仮想産業集積」を構築し、産業チェーンのさらなる発展を推進する。

公平、健全な良性の競争メカニズムを確立する

 合法的なイノベーションを順守し、平台間のデータとサービスの連携・総合交流を促進し、より優れた、より専門的な、より安全なサービスで市場を拡大し、市場競争の秩序を乱す悪意な競争活動を断固防止する。「インターネットセキュリティ法」を確実に順守し、データのセキュリティとユーザープライバシーを保護する。デジタル化における弱者層の職業訓練や再雇用などの活動をしっかり行う。デジタルエコロジカルクレジットシステムの構築を強化し、市場秩序を維持し、良性的な競争を促進する。

 本記事でコロナ禍後の中小微企業のデジタル化を重点的に推進するための政策とそのガイドラインを簡単に紹介した。中国のデジタル化政策は、企業が単独的対策するのではなく、政府主導で、企業、研究機関、公共機構、金融機関、教育機構などが連携して向かう方式を示した。中国らしい「全民総動員」の取り組み方である。また、政策から読めるのが、中国のデジタル化は新しく製品とサービスを創造し、イノベーションをとにかく重視している。革新的なデジタル化と捉えていいであろう。

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