中国が目指す中小微企業のデジタル化~課題と取り組み

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 中国では、デジタル化の推進を中小微企業から重点的に行うとしている。では、なぜ中小微企業に重点を置くか、そこにどんな問題点が見えるか、その対策はきちんと用意されているか、本記事では中小微企業のデジタル化に関わる疑問点を明らかにしたい。

連載「中国のデジタル化」

 1. 中国のデジタル化政策「上雲用数賦智」が目指す方向性と取り組み
 2. 中国が目指す中小微企業のデジタル化~課題と取り組み
 3. データから見る中国の中小微企業の実態~デジタル化政策とコロナ禍を経て
 4. データから見えた中国企業の現状~7つのポイントと中小微企業
 5. 日本のデジタル化は、中国と何が違うのか?それぞれの特徴と課題

目次

中小微企業のデジタル化の必要性

 まずはデジタル化推進、特に中小微企業のデジタル化を重点的に行う背景を見ていく。

 世界中がデジタル経済の発展に注力している。中国では、中国製造2025、インターネット+行動、新インフラ建設などの政策が相次いで打ち出され、国の後押しが大きな動力になり、デジタル経済成長が顕著である。IMDの「デジタル競争力ランキング」によると、中国の競争力が年々上がっている。2018年が30位で、2019年が22位に上り、2020年が16位になった。ちなみに、日本は2018年が22位、2019年が23位、2020年が27位であった。

 また、中国経済において中小微企業が非常に重要な役割を果たしている。国務院中小企業発展工作促進領導小組のリーダー劉鶴氏によると、中国における中小企業の特徴は「五六七八九」とまとめられる。国の50%以上の税金収入、60%以上のGDP、70%以上のイノベーション、80%以上の雇用、90%以上の企業数が中小企業である。中小企業が国民経済と社会発展の主力である。雇用の安定、経済の安定が中小微企業の経営状況に大きく左右されているといっても過言ではない。

 しかし、中小微企業が主に既存産業で、従来の方式で経営管理を行い、効率化と付加価値化が不足している。企業発展を制限している。

 さらにコロナ禍の影響で、世界中の経済が大きなダメージを受けた。中国の2020年1月~3月のGDPが前年比6.8%減、初のマイナス成長となった。特に飲食業、小売業、製造業など既存産業が大きなマイナス影響を受けた。ただし、IT業と金融業のGDPが前年比それぞれ13.2%と6.0%増となった。この2業界の共通点はデジタル化が進んでいるところである。業界間の経済発展ギャップは中小微企業のデジタル化の緊迫性を示している。

中小微企業のデジタル化の問題点

 中国国家発展改革委員会(以下、国家発改委)が中小微企業のデジタル化の主な問題点を「不敢转、不会转、不能转」(勇気がない、方法が分からない、やる気がない)とまとめた。

1、「不敢转」、勇気がない。

 デジタル化のサイクルが長い、費用が高い、リスクが高いなどの懸念があり、なかなかデジタル化に踏み出せない企業がある。

2、「不会转」、方法が分からない

 デジタル化にハイテク、プロの指示と協力が必要とされるが、中小微企業が技術面と人材面に投資する余裕がない。ここでいう人材は、エンジニア、プログラマーなどIT専門プロよりも、デジタル基礎知識を備えつつ、経営とマネジメントに精通する人材を指している。企業は、経営管理の意思決定において、デジタル技術の役割を十分に発揮し、コスト削減と収益拡大を目指す必要がある。各レベルのデジタル化人材の育成に十分な注意を払わなくてはいけない。

3、「不能转」、やる気がない

 ぬるま湯に浸かっているように現状に満足し、変えようと思わない。あるいは経営管理と供給モデルのレガシーが古くて複雑で、変えるには手間がかかりすぎるため、変革を取り組もうとしない。

対策

 国家発改委がそれぞれの問題点に対して、詳しい対策を打ち出した。

 「勇気がない」に対して、政府が関連支援政策を制定し、補助金の予算を確保し、中小微企業に優しい経営環境を提供する。関連機構がデジタル化に成功した企業事例を宣伝し、企業のデジタル化最適プランを作成し、期待収益を明確化し、各種補助金の申請を支援する。中小微企業にデジタル化に踏み出す勇気を与える。

 「方法が分からない」に対して、研究機関、大手企業、業界組合協会に重要な役割を担わせる。例えば、コンサルチームを組み、直接指導する、あるいは、デジタル化向けのカリキュラムを提供し、人材を育成する。または変革方法論のガイダンスを提供し、シェアリング変革サービスプラットフォームを導入する。中小微企業にデジタル化の取組方法を提供する。

 「やる気がない」に対して、中小微企業の経営者に危機意識と自ら勉強する意欲を持たせ、変革がもたらす一時的な混乱とプレッシャーに向き合わせる。また、平台企業がデジタル化に必要な製品や技術を提供し、技術面で支える必要がある。中小微企業に意欲を湧かせる。

 以上の3項目の対策に、中小微企業だけではなく、政府、関連機構、研究機関、大手企業、業界組合協会、平台企業及び金融機関が果たすべき役割が明示されている。つまり、デジタルエコシステムの構築が中小微企業のデジタル化成功のキーポイントであることが明らかになった。

 デジタル化に必要な三要素、「人、金、技術」がある。どれも欠かせない。人がいないと、技術開発ができず、融資ができない。金がないと、人を雇用できず、技術開発ができない。技術がないと、新しい融資が来ない、人材も来なくなる。この三要素がロックリングのように働きかけている。企業でも、都市でも、国でも、このロックリングをいかに突破することが大事である。そして、「人、人材」がベストな突破口だと筆者は認識している。デジタルエコシステム構築のために、人材育成と人材招致に注力する必要がある。中国が2008年から独自の人材招致プロジェクトを推進しつづけていることは人材の重要性を証明しているのである。

デジタル化のあるべき姿 

 デジタル化には高度なテクノロジーが必要で、プロに任せるべきである。中小微企業にデジタル化プロの育成を丸投げしてはいけない。デジタル化が進んでいない初期段階に、政府主導で、研究機関から技術支援、教育機構から人材支援、金融機関から資金支援、特に失敗してもやり直せるフォールトトレラントメカニズムを中小微企業に提供する。敵者生存ではなく、イノベーションを促進し、失敗を許容する包容力のある社会を構築する。

 デジタル製品を導入することを目的にせず、企業の特性に合わせ、最適な製品を導入し、確実なステップを踏んでクラウド化し、デジタル化戦略での経営を目指す。

 デジタル化により、早い段階で意思決定の効率化と企業管理のコスト削減のような短期利益が企業に持たせる(主に上雲による効果)。けれども、一筋短期利益を追求してはいけない。デジタル化に巨大な潜在力があり、デジタルエコロジー発展に限界がない。企業理念、経営管理にデジタル化を融合し、持続的な経営を目指す。

 近年、中国のデジタル化が著しい発展を遂げ、世界でますます重要になっている。中国国内で、5Gの普及や新インフラ建設の推進などにより、デジタルのGDPへの貢献が大きくなっている。しかし、「BAT」みたいな大手テック企業はほんの一握りで、企業のメインである中小微企業がデジタル化に苦戦している。コロナ禍の影響で、戦況が悪化している。この点は日本の中小企業の現状と変わらない。経済の基盤である中小企業のデジタル化が中国と日本のデジタル発展のカギである。

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