事務職のない会社はありません。それにもかかわらず事務は誰でもできると思われがちで、人員の入れ替えの際にも「わからなければ他の人に聞いて」と引継ぎを簡単に済ませてしまいがちです。この記事では、そんな事務職の業務マニュアルの重要性と、事務職の業務マニュアルをどう作っていけばよいのかをライティングの面から紹介します。
【事務職のマニュアルを整えるとできること】
〇 事務担当者が入れ替わっても滞らず、会社全体がスムーズに進む
〇 イレギュラーなケースでも時間をかけずに対応できるようになる
〇 業務のケアレスミスを減らせる
連載「職種別で解説!業務マニュアルの改善ヒント」
1. スムーズな引継ぎでミス予防!「事務職」業務マニュアルの改善指針
2. 早期離職を予防!「コールセンター」業務マニュアルの改善指針
3. 業務の品質を統一!「製造業」業務マニュアルの改善指針
4. 属人化を改善!「コンタクトセンター」業務マニュアルの改善指針
5. 全体感を把握して一丸で働く!「EC業界」業務マニュアルの改善指針
6. 現場教育を効率化!「飲食業」業務マニュアルの改善指針
7. 業務の効率化を進める!「経理部」業務マニュアルの改善指針
事務職の実態とは
業務マニュアルは、現場にある問題を解決できるものでなくてはなりません。「事務職」にはどのような特徴があり、どのような問題を抱えているのでしょうか。
事務職の特徴と問題
全ての業務への理解が必要
事務の業務内容は多岐にわたります。営業事務や経理事務など業種ごとにも異なるが、一般的な業務に絞っても書類の作成・処理、ファイリング、データ入力、電話や来客応対などさまざまです。事務は、会社全体の業務が滞りなく進むために、その下準備と中間処理をする部署だと言えるのです。
書類整理やデータ管理のためには、さまざまなPCのツールを使いこなす必要がある。WordやExcelはもちろん、PDFやPowerPointで送られてくる資料を他のデータに変換したり、紙媒体の資料を打ちこみなおしたりすることもある。会社が新しいツールを採用すれば、それに伴って求められるスキルも多くなり、これらすべての基本的な操作能力が求められます。
また、顧客や外部からの問い合わせに答えるためにはどの部署が何を担当し、その業務にどの程度まで関わっているのかを把握していなくてはならない。場合によっては理不尽なクレームの受け皿にされることもある。結局のところ、事務はすべての業務を理解しておかなければ仕事になりません。にもかかわらず、事務職は「簡単」「誰でもできる」と軽視されることもある。
事務は全体の業務をサポートする土台部分です。ここが円滑に機能していないと、会社自体がうまく回らなくなります。細かいミスや数字の間違いが増えれば、会社の信用にもかかわる。事務職員の業務環境が整わなければ、会社全体の業績が落ちることにもなりかねないのです。
事務の業務は一定ではない
事務の仕事はルーティンのようにも思われがちですが、実際には、まったく同じ書類はない。よく似た書類を数字や名前によって見分けて分類し、必要な情報ごとにまとめ、コード番号やフォルダで整理する。新しい案件が増えればそれだけ新しい分類が必要になり、さらにその規則性や情報量は業務内容や部署ごとに異なる。そうした情報を整理し、必要なときに必要なデータを参照できるように整えておくのも事務の仕事なのである。
また、来客や問い合わせへの対応はその時々で内容や条件が変わる。ある程度まではフローチャート式に対応することができても、最終的には人の頭で判断する必要がある。しかもその判断は別の問い合わせでは通用しない、ということも少なくない。事務職員は、日々の変化に常に敏感であり続けなくてはならないのです。
事務職のマニュアルの失敗
上記のような状況から、事務職にマニュアルを導入している企業もあります。しかし、それがうまく活用されていない例もあります。ここでは、事務職のマニュアルで起こりがちな失敗例を見てみましょう。
基本的な情報しかなく、更新されない
「事務職は誰でもできる」という誤った考え方のために、事務職のマニュアルは情報が少ないことがある。大まかなスケジュールや日々のルーティンをまとめたものをマニュアルとして「あとは働きながら慣れて」と言われるケースもある。
そういったものでは、基本的に更新されることも少ない。例示される記入方法やパソコン画面が古いバージョンのものであったり、変更点が簡単にメモとして付されているだけということもある。大幅に業務が変更されるということが少ない事務職では、ますます更新されないのです。
それでは古い情報のまま運営してしまう可能性があり、いつの日かミスに結び付くかもしれません。
過去の事例が分からない
「過去にもあったけど、あの時どうしたっけ」「そもそも過去にそんな事例あったっけ」複雑で多様な事務職の業務に対応するには、経験と情報の更新が必要です。しかし、若い世代が入れ替わる職場では、経験に基づく更新が難しくなります。
そのため、事務職では、過去の担当者の時にどのように対応したかが分からないといった事態に陥りやすいのです。数年に一度起こり得るようなイレギュラーケースは、その度に対応を考えるような非効率な状態となっていることがあります。
理想的な事務職のマニュアル
こうした事務職独自の事情による問題を改善するために、どのような業務マニュアルを整えれば良いのでしょうか。ここでは事務職の業務マニュアルで必要な項目について考えます。
ミスを予防できる環境を整えたい |
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手順や送付先などの最新情報 |
新人でもスムーズに業務ができる環境を整えたい |
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対応例がわかる事例や例文集 |
手順や送付先などの最新情報
事務が管理する資料は年度ごとや案件ごとに更新が必要になる場合も多い。そのため、前のマニュアルをそのまま使用していては、新しく加わった項目を見落とすということも起こりかねません。企業が動き続ける以上、それを支える事務業務はどこよりも多くのバージョンアップを求められます。マニュアルもそれに連動し、リアルタイムに更新していきましょう。
事務の業務マニュアルでは、まずは年間スケジュールや一日のおおまかな仕事が把握できることが重要です。業務の全体像が一覧になっていれば、突発的な事例の際にも「何がいつもと違うのか」がすぐに判断できるからです。
ただ、それだけでなく、細かい部分でも変更は発生します。例えば、PCツールのボタンの表示や、他部署の担当者や連絡先などです。それをマニュアルに反映していれば、マニュアルの通りに対応すれば済むのでスムーズな対応ができ、入力漏れや確認漏れを防げます。
項目 |
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・年間スケジュール ・担当者の情報(名前、部所、連絡先など) |
工夫 |
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・年度が替わる度に確認が必要な項目を、分かるように色やマークを付けておく ・マークや書き方のルールを決めて、記入者によってブレがないようにする |
対応例が分かる事例や例文集
事務の仕事は多岐にわたります。会社ごとに書類の書式や人の動きは違うため、初めての会社での事務業務は想像以上に情報量が多いのです。そのうえ、周りからは「簡単な仕事」と言われ、次々に雑務を振られる。たとえ本当に簡単な業務でも、慣れない書類の名称や伝票の見方などで戸惑い、時間がかかります。ケアレスミスは、そういう時に起こるのです。
新人が入るたびに書類に不備が出るのでは、会社全体の業務も滞ります。そういった事態を避けるためにも、新人がスムーズに業務にあたれる環境を、マニュアルで作ることが大切です。
例えば、資料の記入例があれば、それに沿って入力するだけで良くなります。メールの例文があれば、コピーアンドペーストとちょっとした編集で済む場合も多いでしょう。これらを日々蓄積していければ、次の担当者にとってもますます働きやすい環境となっていくのです。
加えて、過去の事例集ややり取りのメール本文などのデータが関連項目と紐づけて検索できるほうが使い勝手がいい。
項目 |
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・資料の記入例 ・メール例文 ・過去事例 ・索引 |
工夫 |
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・事例や例文の掲載ページを、関連項に書いておく ・ツールやデータで作成したマニュアルなら、検索できるように用語を統一させる |
事務職のマニュアルの書き方
事務職のマニュアルはどのように作っていけば良いのでしょうか。ここでは、事務職のマニュアル作成で使えるライティングテクニックを紹介します。なお、マニュアルを作るための情報収集の方法など、作り方の流れについて知りたい場合は、こちらの記事で解説しています。あわせて参考にしてみてください。
・言葉を統一する
✕「スタート画面に入ってボタンを押してください。この操作ができるのは開始画面のみです。」
〇「スタート画面に入ってボタンを押してください。この操作ができるのはスタート画面のみです。」
・項目名に業務のキーワードを入れ込む
✕「データ入力」
〇「顧客管理システム[〇△□]へのデータ入力の方法」
・見出しは同じ粒度のものをならべる
✕「1. システム操作
1-a. 送信
1-b. 削除
1-c. 修正して登録する」
〇「1. システム操作
1-a. 送信
1-b. 削除
1-c. 修正
1-d. 登録」
・ボタンを表すときは[]を付ける
✕「開始を押してください」
〇「[開始]を押してください」
・フォントの太さを変えたり下線を引いたりする
✕「郵便は、入口横の赤い箱から取り出してください。」
〇「郵便は、入口横の赤い箱から取り出してください。」
【事務職のマニュアルを整えるポイント】
〇 情報更新を確認する時期を設定する
〇 イレギュラーな対応やメールなどを、過去事例として記録する
〇 本当の意味で誰もができる業務になるように、業務の全体と詳細を書く