現場の効率化を進める!「経理部」業務マニュアルの改善指針

業務を効率化!【経理部】マニュアル(業務マニュアル改善ヒントPart7)

 どんな企業にも必要な部署、経理部。業界や事業規模を問わず、企業を陰で支える縁の下の力持ちのような存在です。そんな経理部に必要な業務マニュアルとは、どのようなものでしょうか。この記事では、経理部の問題点を整理し、それらを改善するために必要な項目・工夫・書き方を紹介します。

【経理部のマニュアルを整えるとできること】
 〇 業務の属人化を予防・解消する
 〇 業務スピードを上げる
 〇 引継ぎを行いやすくする

連載「職種別で解説!業務マニュアルの改善ヒント」

 1. スムーズな引継ぎでミス予防!「事務職」業務マニュアルの改善指針
 2. 早期離職を予防!「コールセンター」業務マニュアルの改善指針
 3. 業務の品質を統一!「製造業」業務マニュアルの改善指針
 4. 属人化を改善!「コンタクトセンター」業務マニュアルの改善指針
 5. 全体感を把握して一丸で働く!「EC業界」業務マニュアルの改善指針
 6. 現場教育を効率化!「飲食業」業務マニュアルの改善指針
 7. 業務の効率化を進める!「経理部」業務マニュアルの改善指針

目次

経理部の実態

 「経理部」に業務マニュアルを用意するのであれば、現場の問題を解決するものでなくてはなりません。それでは、「経理部」はどのような問題を抱えているのでしょうか。まずはその特徴と問題を確認しましょう。

経理部の特徴と問題

業務が属人化しやすい

 1つ目の問題点は、業務が属人化しやすいことです。経理部は、簡単な仕訳や経費精算などは複数のスタッフで担当する場合がほとんどです。しかし、決算や開示書類などに関する業務は年に1回しか実施する機会がなく、経験が浅い若手には任せられないケースが多くあります。

 簡単にできない業務は、長年にわたって在籍しているベテランが担当し続けるという流れになりがちです。さらに、ベテランは自身の地位を保つため、他のスタッフに業務のやり方を教えず、ノウハウを抱え込む傾向もあります。そういった雰囲気を周囲が汲み取り、知識の共有を求めず、業務が属人化してしまうパターンが非常に多くあります。

1人あたりの作業量が多い

 2つ目の問題点は、1人あたりの作業量が多いことです。日々の取引の仕訳、融資の管理、開示書類の作成など、経理部の業務は多岐にわたります。そのため、1人のスタッフが膨大なタスクをこなさなければなりません。

 どの部署よりも業務が多いにもかかわらず、他部署や経営層にその苦労が理解されにくいのが経理部です。直接的な利益を生み出す部署ではないという理由で、人員増加の提案も却下される場合が多いのです。こういった環境でも仕事を続けられる人材しか残らないため、少数精鋭の部署にならざるを得ず、結果的に1人あたりの作業量が多くなってしまいます。

イレギュラーな問題が頻繁に起きる

 3つ目の問題点は、イレギュラーな問題が頻繁に起きることです。経理部の仕事はルーティーン化していると思われがちですが、税法や会計基準は定期的に変更されるため、その都度対応しなければなりません。昨年までは通用していたやり方が認められず、それに気付かないまま決算報告を行い、後に修正申告が必要になるようなケースもあります。

 また、他部署のミスを経理部が対処するパターンも非常に多く、自分の業務に集中できないのは日常茶飯事です。経理システムの不調で業務が進まないといったこともあり、経理部の現場では想像以上にイレギュラーな問題が頻繁に起きています。

失敗が許されないため、非効率的な業務スピードになる

 4つ目の問題点は、失敗が許されないため、非効率的な業務スピードになることです。経理部は財務全般を担当している部署なので、少しのミスで会社に大きな損害を与えかねません。

 例えば、会社のメインバンクの口座からサブバンクの口座へ資金移動をする際に、3,000万円と入力すべきところを誤って3億円と入力してしまうと、資金ショートに陥る可能性があります。こうなってしまうと、他社への支払いが滞り、取引先や銀行などに多大な迷惑をかけてしまいます。

 このように、経理部では失敗が許されないために入念なチェックが必要になり、その結果、非効率的な業務スピードになるのです。

経理部のマニュアルの失敗

 このような特徴と問題がある経理部では、マニュアルの整備が不可欠です。しかし、せっかくマニュアルがあっても活用しづらいものになっていることもあります。ここでは、経理部のマニュアルに起こりがちな失敗例を紹介します。

書いた人によって書き方が違って、分かりにくい

 業務のマニュアルは担当者が独自のやり方で作成して、Excelなどにまとめて後任者に渡す場合が多いでしょう。そしてそれを受け継いだ人が書き足して、さらなる後任者に引き継いでいきます。

 Excelなどにマニュアルをまとめる場合、見やすいように重要な部分を黒枠で囲んだり、矢印マークを手動で作成したりなど、手間をかけなければなりません。それだけ時間をかけても、何もない状態から作っているため、読む人には伝わりづらい場合もあります。また、人によって書き方に違いが出やすくもあります。

 分かりにくいマニュアルを読み解きながら業務を行っていては、非効率的でミスも発生しかねません。参照せざるを得ないマニュアルがミス発生の元になるのです。

業務マニュアルを更新しにくい

 経理部は業務が複雑でノウハウが共有しにくく、かつ、1人当たりの業務量が多い職場です。そのため、業務の知識を他のスタッフに提供したがらないベテランの中には、自身の地位を保つためだけでなく、手間がかかるという理由でマニュアルの作成に消極的な人もいます。

 マニュアルを作成・更新する時間は業務時間に含まれているため、残業が増えてしまいがちです。その結果、マニュアルが古い状態のままとなってしまいます。経理部は経理システムや業務フローの変更によって更新が必要になることがしばしばあります。その時に更新されなければ、活用されなくなっていくでしょう。

現場が欲しい情報と工夫

 「経理部」の問題を解決し、現場で使われる業務マニュアルにするためには、どうすれば良いのでしょうか。「経理部」の業務マニュアルには、次の項目があると良いものになります。

 しかしながら、人員の入れ替えの際に、引継ぎが丁寧に行われない場合が多い。財務を担当する経理部が正常に機能しなければ、他部署の業務フローにも支障をきたしてしまう。経理部の業務マニュアルを整備し、誰でもできる状態にしておくことで、会社全体の業務が滞るリスクを軽減できる。

人員の入れ替わりに対応できるようにしたい
新しいメンバーにも分かりやすい情報
業務のミスを予防しながら、スムーズに進めたい
コツやポイントを落としこんだ形式知

 なお、業務マニュアルの詳しい作り方は、次の記事で詳しく紹介しています。あわせて読んでみてください。

新しいメンバーにも分かりやすい情報

 経理部の業務は属人化している場合が多く、仮に担当者が退職や異動することになれば、部署だけでなく会社全体が回らなくなる恐れがあります。新しい業務を任されるたびに前任者に教えてもらえないことは多々あります。また、属人化している業務の担当者の人間性に問題があっても人事異動の対処を取れず、部署の雰囲気が悪くなっている現場もあります。

 人員の入れ替わりに対応できる環境を整えるには、誰にとっても分かりやすいマニュアルを整えなくてはなりません。

 経理部の仕事は、専門的な知識が不可欠で、誰にでもできる仕事ではありません。実務においては、その企業特有のルールに基づいて業務を行う必要があります。それがマニュアルに平易な言葉で書いてあれば、新しいメンバーは戸惑わずに業務にあたれるようになります。

 また、誰がどの業務を担当している(担当していた)のかを書いた「業務担当表」があれば、業務で分からないことがあった時に迷わずに確認しやすくなります。

項目
・業務担当表
・業務一覧
・用語集
・企業特有のルール
工夫
・専門用語を減らして、業務に慣れていない人にも扱えるようにする
・対応頻度ごとに業務をまとめた一覧を作る

コツやポイントを落としこんだ形式知

 経理部の仕事は多岐にわたり、1人あたりの作業量が多い。なおかつ難易度も高いため、引継ぎがあいまいなまま担当者が変わるとトラブルが発生しやすくなり、業務時間が増えがちです。

 そうなると、優先順位の高い業務から処理することになり、取引仕訳などの日次業務を後回しにしてしまうことになります。結果的に全ての業務を処理できず、残業や休日出勤などで対応するという事態に陥ってしまいます。急ぎの業務を優先し、日次業務を後回しにして業務時間外に対応するという悪循環に一度陥ると、抜け出すのは難しいものです。

 そのような状況を避けるためにも、スムーズに業務処理を行える環境をマニュアルで整えることが大切です。

 ベテランが長年の経験で蓄積してきたコツやポイントを「形式知」としてマニュアルで共有できれば、手探りでコツをつかむよりもスムーズに業務を行えるようになり、ミスも防げるようになります。また、過去のイレギュラーの対応例や、関連する法令一覧があれば、イレギュラー発生時や法令改正にもスムーズに対応しやすくなります。

項目
・過去のイレギュラー対応例
・業務のワンポイント
・関連法令一覧
工夫
・形式知をマニュアルに反映しつづけるために、定期的に意見を出し合う機会を設ける
・記入例は画像を豊富にして、視覚的に掴めるようにする

 マニュアルを更新しやすい環境を作っておくのも1つの方法です。例えば〈マニュアル作成ツール〉であれば、マニュアルのフォーマットが決まっているため、手順に沿って必要な情報を入力するだけで、高品質で分かりやすいマニュアルを作成できます。改訂もしやすいので、法令改正があった際の更新もスムーズです。

経理部のマニュアルの書き方

 「経理部」の場合、どのようにマニュアルを書いていけば良いのでしょうか。

・一文を60字以内に収める

✕「キャッシュレス化が進んだことで、現金のやりとりを行うことは少なくなりましたが、現金の出納管理は今も重要な業務ですので、毎日必ず出納管理と現金の残高確認を行ってください。」(84文字)

〇「キャッシュレス化が進んだことで、現金のやりとりを行うことは少なくなりました。しかし、現金の出納管理は今も重要な業務です。毎日必ず出納管理と現金の残高確認を行ってください。」(38文字+22文字+25文字)

・行動ごとに文章を分ける(一文一義)

✕「現預金の管理として、残高をチェックして、入出金の正しさを確認します。」

〇「現預金の管理として、残高をチェックします。それによって、入出金の正しさを確認します。」

・箇条書きで書く

✕「会計システムに、入金伝票データ・出金伝票データ・振替伝票データを入力してください。」

〇「会計システムに入力してください。
 ・入金伝票データ
 ・出金伝票データ
 ・振替伝票データ」

・記入例や解説があるページ数を添える

✕「月次決算書を作成して、報告します。」

〇「月次決算書(作成例:p28)を作成して、報告します。」


【経理部のマニュアルを整えるポイント】
  メンバーに加わったばかりの人にも分かるように書く
 〇 コツやポイントを徹底的に洗い出して、形式知に落としこむ
 〇 入力画面の画像を掲載するなどして、視覚的に分かりやすい工夫をする

業務を効率化!【経理部】マニュアル(業務マニュアル改善ヒントPart7)

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