「EC業界」の現場にほしいマニュアルは、社員と経営者が同じ方向を向くための「攻めのマニュアル」です。様々なツールを利用して、ベテラン社員でも間違えてしまうような繊細で難しい業務の多いEC業界の現場で、それはどうやって作っていけば良いのでしょうか。この記事では、現場で求められる情報や工夫、書き方を紹介します。
【EC業界のマニュアルを整えるとできること】
〇 会社が一丸となって、同じ方向を目指す
〇 従業員自身が業務改善を行える環境が整う
〇 業務の属人化の防止
連載「職種別で解説!業務マニュアルの改善ヒント」
1. スムーズな引継ぎでミス予防!「事務職」業務マニュアルの改善指針
2. 早期離職を予防!「コールセンター」業務マニュアルの改善指針
3. 業務の品質を統一!「製造業」業務マニュアルの改善指針
4. 属人化を改善!「コンタクトセンター」業務マニュアルの改善指針
5. 全体感を把握して一丸で働く!「EC業界」業務マニュアルの改善指針
6. 現場教育を効率化!「飲食業」業務マニュアルの改善指針
7. 業務の効率化を進める!「経理部」業務マニュアルの改善指針
EC業界の実態
業務マニュアルは、現場にある課題を解決できるものでなくてはなりません。「EC業界」にはどのような特徴があり、どのような課題を抱えているのでしょうか。
EC業界の特徴と課題
使うツールが多い
閲覧回数やCVR(購入確率)など、ほとんど全ての数字が分かるのがECサイトの面白いところです。数字が分かれば悪いところを見つけるのも容易い上、見つかった問題を解決してくれるツールもたくさんあります。
このように、EC業界では多くのツールを使います。カートシステムや受注管理、発送管理、在庫管理、顧客管理、メール管理。インターネット広告の管理画面だけでも、何十パターンの操作方法を覚えなくてはなりません。ツールは売上に貢献していますが、それに反比例して業務は複雑化しています。
業務の全体感が見えにくい
すべてのツールを使いこなせて、会社全体の業務フローを思い描ける社員は少ないでしょう。自分が行った仕事が、次の仕事にどう関わっていくかを知らない人も多いのが現実です。そうして、プロモーション部隊からカスタマーサポート部隊・発送部隊への情報共有に摩擦が生まれ、業務効率が悪くなっていくのです。
業務が作業になりやすい
創業時は、経営者が隅々まで会社を見渡せていました。仕事の目的を共有し、温度感まで伝わっていたはずです。しかし事業が大きくなると、そのような温度感が伝わりにくくなります。経営者がユーザーのことを思って始めた施策でも、その背景を知らない従業員が、ボーッとこなすだけの作業にしてしまうのです。
業務の全体感が見えにくければ、各ツールも「〜〜のための道具」として作業的に扱われてしまいます。それだけならまだしも、ツールごとに使える人が限定されてしまっている現場もあります。そうなってしまうと、業務が属人化し、ブラックボックス化してしまいます。
EC業界のマニュアルの失敗
そのような現場の事情を踏まえ、マニュアルを導入している現場も少なくありません。それでも、うまく使いこなせていない現場もあります。ここでは、EC業界で実際に起こりがちなマニュアルの失敗例を紹介します。
業務が目指す方向が見えにくい
会社が大きくなって仕事の全体感が見渡しにくくなると、業務が目指す方向も見えにくくなります。そのような状況で業務内容を教えても、正しく伝わっているとは言えません。業務内容の「伝言ゲーム」となり、仕事の本質的な目的は共有されなくなります。
そうなると、経営者と従業員の進む方向がずれていきます。会社は、皆が同じ方向を見ていなければ進みません。経営者の思いや、会社の歴史、仕事の目的などは、深く伝えなければならないのです。そのためには経営者自らが指導することが一番ですが、当然そんな時間を作ることは難しく、進む方向はどんどんずれていくのです。
膨大で複雑なフローに対応できていない
EC事業では、多くのツールを使わなくてはなりません。社員の経験とスキルでこなしていた難しい業務を、全てマニュアル化して、その結果、膨大な量のマニュアルになってしまう現場もあります。
例えば、次のような状態に心当たりはないでしょうか。文章が長すぎて、どこに何が書いてあるか分からないWord。ファイル容量が大きすぎて開けなくなったExcel。これでは使う度にストレスがかかってしまいます。せっかく作ったにも関わらず、いつしかマニュアルが更新されなくなり、忘れ去られていくでしょう。
現場が欲しい情報と工夫
「EC業界」独自の問題を解決し、現場で使われるマニュアルにするには、どうすれば良いのでしょうか。次のような改善を目指す時、「EC業界」のマニュアルに必要な項目はこの3点です。
同じ方角を向いて進む組織にしたい |
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業務の目指すべき方向が分かる情報 |
各々が創意工夫できる環境を整えたい |
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流れが分かる業務の全体像 |
業務の属人化を防ぎたい |
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視覚的にわかるツールの使い方 |
ここでは、この3点を達成するためにマニュアルに組み込むべき項目や工夫を紹介します。なお、マニュアルの作成全般について知りたい場合は、次の記事を読んでみてください。
業務の目指すべき方向が分かる情報
会社は、皆が同じ方向を見ていなければ進みません。経営者の思いや会社の歴史、仕事の目的などを伝えなければなりません。そのためには経営者自らが指導することが一番ですが、当然そんな時間を作ることは難しいでしょう。
それを解決するのがマニュアルです。作業としてのマニュアルではなく、会社の想いや歴史を伝え、社員と経営者が同じ方向を向くための「攻めのマニュアル」を作るのです。
マニュアルに経営者の想いや背景が書いてあれば風化しません。何のための仕事か理解できるようにすれば、経営者と同じ方向に向かって仕事をしてくれます。さらに、従業員との温度差も縮まっていくでしょう。心の距離が近くなれば、意思疎通がしやすくなり、社内の風通しもよくなります。
今となっては、どのEC事業者も同じようなツールを使っています。誰しもGoogle広告を使っているし、規模はさておきメルマガやSNSは標準装備です。ではどこで差別化するかといえば、人です。同じ目標に向かって進むメンバーだけは、真似できません。マニュアルで社員の一体感を作り上げられれば、企業にとってこれ以上ない武器になるのです。
項目 |
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・組織がめざす方向 ・組織の経緯・歴史 ・業務の目的・目標 |
工夫 |
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・定量的な情報だけでなく、定性的な目標を書く |
流れが分かる業務の全体像
商品が売れてから発送されるまで、業務フローの全体像を把握している社員はいるであろうか。「全体像を知って働いてほしい」という経営者の思いとは裏腹に、ECの仕事はどんどん複雑になっています。様々なツールを併用しながら繊細な仕事をこなさなくてはならない現状。今はチームワークでなんとか遂行できていても、いつか破綻する日が来るかもしれない。
これには、各業務の繋がりを可視化できるマニュアルが必要です。例えば、カートシステムで受けた注文を、受注スタッフが処理して伝票を発行する。発送部隊がそれを受け取り、商品をピッキングして発送する……といった一連の流れを、繋げて把握できるものです。
会社によっては、プロモーション部隊、カスタマーサポート部隊、発送部隊と、それぞれ担当者を分かれているでしょう。各部隊がお互いの仕事を知って働くようになれば、情報共有が盛んになります。カスタマーサポートに届いたクレームがより正確に共有され、発送部隊がプロモーション部隊のやりたいことを知って梱包方法を工夫する提案が生まれるかもしれません。こうしたスパイラルが続けば、売上にも繋がります。
自分が行った仕事を、誰がどのように引き継ぐのか明確になれば、自然と責任感を持つようになるでしょう。そして同僚の業務内容が見えれば、意思疎通もしやすくなります。チームワークが良くなって、些細なミスも減っていくのです。
また、マニュアルによって業務の莫れを見える化すると、PDCAも回しやすくなります。経営者が業務改善に踏み込むのではなく、従業員だけで創意工夫していけます。経営者が今まで以上に運営に集中できるだけでなく、従業員は手順を記憶する必要はなく、マニュアルを見て作業すれば良くなります。より創造的な仕事にリソースを割けるようになるのです。
項目 |
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・目次 ・業務の担当部署 ・業務の前後の工程(名前、ページ数など) ・全体的なフロー図 |
工夫 |
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・全体的なフロー図は1ページに収める ・対応部署や段階ごとに色分けをする |
視覚的にわかるツールの使い方
ツールの使い方は、実際の画像(キャプチャー)を交えながら書くと分かりやすくなります。どこに何の数値を入れれば、結果が抽出されるのか、文字だけの解説では分かりにくいものです。必ず、画像を見ながら確認できるようにしましょう。
ただし、画像だけでも分かりにくくなります。とくに「EC事業」のマニュアルは、経営者の想いが伝えられるものでなくてはなりません。それには、作業手順だけでなく、それを行う目的や抽出される結果の基準などを添えることを忘れてはいけません。
業務の属人化を防ぐには、誰もがその業務を担当できるように整えることが重要です。マニュアルを見て作業できるようにしっかりと整えられれば、属人化の予防だけでなくミスの削減や社員のスキルの並列化にも繋がります。
項目 |
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・ツールの操作画面 ・業務の目的 ・抽出される結果の基準 |
工夫 |
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・画像のキャプチャーで手順を説明するだけでなく、業務の目的を言葉にして添える |
視覚的にわかりやすいマニュアルを作ろうとすると、画像を豊富に入れるために、WordやExcelでは管理しきれません。クラウド保存で一元管理できる〈マニュアル作成ツール〉は、そのような場合のひとつの解決策です。
EC業界のマニュアルの書き方
「EC業界」の場合、業務で複数のツールを使います。その使い方とそれを使う目的を共有できるよう、担当者以外が見てもわかるものにしなくてはなりません。それは画像の挿入だけでなく、文章から工夫することもできます。それでは、どのようにマニュアルを書けば良いのでしょうか。
・専門用語には、注釈や解説しているページ数をつける
✕「PV数を抽出します」
〇「PV数(用語集:P189)を抽出します」
・ボタンの名前を[]で囲む
✕「スタートを押します」
〇「[スタート]を押します」
・必要な主語を省略しない
✕「[スタート]を押すと、暗転します」
〇「[スタート]を押すと、画面が暗転します」
・操作の結果は受動態にする
✕「[開始]を押すと、確認メッセージを表示します」
〇「[開始]を押すと、確認メッセージが表示されます」
・使役形を避ける
✕「抽出する期間に合わせて設定させます」
〇「抽出する期間に合わせて設定します」
【EC業界のマニュアルを整えるポイント】
〇 業務手順だけでなく、業務の背景・目的を伝える
〇 業務が全体のどのあたりと繋がっているのか意識できるようにする