飲食業には社員からアルバイトまでさまざまな人員が働いています。特に現場ではアルバイトの活躍が欠かせません。ただ、人員の入れ替えが多く飲食業では、教育する側の負担が大きいものです。このような飲食業で求められるのは、すみずみまで教育を行き届かせられる業務マニュアルです。この記事では、そのようなマニュアルの書き方を考えます。
【飲食業のマニュアルを整えるとできること】
〇 従業員の業務負担が軽減できる
〇 クレームや食中毒の発生を抑制できる
〇 店舗の質を統一できる
連載「職種別で解説!業務マニュアルの改善ヒント」
1. スムーズな引継ぎでミス予防!「事務職」業務マニュアルの改善指針
2. 早期離職を予防!「コールセンター」業務マニュアルの改善指針
3. 業務の品質を統一!「製造業」業務マニュアルの改善指針
4. 属人化を改善!「コンタクトセンター」業務マニュアルの改善指針
5. 全体感を把握して一丸で働く!「EC業界」業務マニュアルの改善指針
6. 現場教育を効率化!「飲食業」業務マニュアルの改善指針
7. 業務の効率化を進める!「経理部」業務マニュアルの改善指針
飲食業の実態
接客や調理、清掃、発注、納品、仕込み……飲食業には実にさまざまな業務があります。未経験から始められるため簡単に思われるかもしれませんが、決してそうではありません。そのような「飲食業」の現場には、どのような特徴と問題があるのでしょうか。
飲食業の特徴と問題
適当になりがちなスタッフ教育
スタッフ教育はどの店舗でも行っていますが、多忙な業務によってそこまで手が行き届いていない店も多くあります。
また、飲食業は人員の入れ替えが激しい業種です。「教えてもすぐに辞めてしまうから意味ない」とスタッフ教育のモチベーションが上がらないケースもあります。そのため、教育が大切と分かっていながらも、見て学ぶスタイルになってしまいがちです。
多くの企業は集合研修によって、教育コスト削減と現場の負担軽減を図っていますが、アルバイトが活躍している飲食業は状況が異なります。店舗によってアルバイトの勤務開始期日が異なるので、集合研修が実施しにくいのです。その結果、アルバイトの研修は店舗ごとに任せることが多く、従業員の負担につながってしまうのです。
非効率になりがちな現場
接客マナーやNG接客用語、清掃業務内容や調理工程など、飲食業の業務は膨大です。そのような現場で、研修資料がなく、口頭説明をされながらメモを取る教育スタイルは非効率的です。でも見て学ぶスタイルをひいているお店は多くあります。
しかし、現場で実際に接客や調理をするスタッフは、個人業務で精一杯となることがほとんどです。そのような中で、新人スタッフが分からない点をベテランスタッフに聞けば、現場が一時的にストップするという非効率的な状況が発生するのです。
業務進行に必要な資料が用意され、新人が聞かなくても作業ができる環境を作ることが大切ですが、できていない店舗が多いのが現状です。
蓄積されにくいノウハウ
飲食業では、料理の味とクオリティのほかに、顧客に満足してもらう接客が重要です。接客スキルには話術や、表情、動きなど、経験に基づく暗黙知が多くあります。見て学ぶスタイルの現場では、暗黙知が形式知に変換されていないことがほとんどです。
新人スタッフが接客のポイントを分かっていないまま現場に出てしまえば、クレームにつながる可能性があります。また、飲食業は人員の入れ替えが多いため、日頃の接客によって作り上げた接客の暗黙知は、その人の離職とともに消えてしまうでしょう。
飲食業のマニュアルの失敗
上記のような現場の事情を踏まえ、マニュアルを導入した飲食業もあります。しかし、それでも問題が改善されない店もあります。ここでは、飲食業で起こりがちなマニュアルの失敗例を紹介します。
コツやポイントが落としこまれていない
「蓄積されにくいノウハウ」の項でも確認したとおり、方法が分かっているだけでは不十分な業務が多くあります。とくに飲食業では、それが接客や味などのコアな部分に現れるので、コツやポイントなどが共有されていなければなりません。もし共有されていなければ、クレームに繋がってしまうでしょう。
飲食業でマニュアルを作成しても、このコアとなる暗黙知が形式知としてマニュアルに書かれていないことがあります。結局、そのようなマニュアルでは、コアの部分を口頭で説明をしなければならないし、教えてもらう側も覚えるまでに時間がかかってしまいます。
店舗全体で統一できていない
複数の店舗がある場合、店舗によって違いが出ることがあります。店舗によって事情が異なればある程度は発生するものですが、「こうしたら良いんじゃないか」という発見も、他店舗には共有されないことがあります。その結果、店独自のルールとなって、店ごとに違いが出てしまうのです。
統一するべきところは統一し、改善できるところはポイントを共有して改善したいところですが、現場の意見を継続的に吸い上げて頻繁にマニュアルに反映する仕組みがなければ、なかなか難しいのが現状です。
それぞれの店舗で自己流の営業をしてしまえば、お客様は「店舗間で全く違うスタイルだな」と感じてしまうでしょう。そうなると複数の店舗を持っていても質の良いほうだけにお客様が流れてしまうことも考えられます。
飲食業の現場が欲しい情報と工夫
飲食業の問題を改善し、使われる業務マニュアルにするには、どうすれば良いのでしょうか。飲食業の業務マニュアルには、次の項目が必要です。
業務の質を統一したい |
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前提となる共通認識 |
教育の負担を減らしたい |
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復習できる業務のポイントやコツ |
衛生管理を徹底したい |
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法令や世相に合わせた最新情報 |
一般的な業務マニュアルの書き方については、下記の記事で紹介しています。まずは業務マニュアルの基本的な書き方を知りたい、作り方を具体的に知りたい、という方はあわせて読んでみてください。
前提となる共通認識
ばらつきがない接客や味付けを行うことが、飲食業では重要です。特に複数店舗を展開している場合、店舗間のばらつきはその店舗だけではなく、企業ブランディングにまで影響してしまうでしょう。
ばらつきが発生しやすい要因として考えられるのが、前提となる共通認識やルールが共有されていないことです。マニュアルによってルールを整理するだけでなく、お店の方向性や業務の合格ラインなど、何を目指してどこまでやるのかがわかるものを用意しましょう。
項目 |
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・店舗の目指す方向 ・スタッフとしての心構え ・作業を行う目的 ・作業の合格ライン |
工夫 |
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・マニュアルの最初に、業務を行う上で知っておいてほしいことを書く ・店舗としての前提だけでなく、作業ごとの前提(目的・目標)を書く |
業務の質にバラつきがある場合、業務のポイントやコツが共有されていないことも考えられます。「復習できる業務のポイントやコツ」の項もあわせて確認してください。
復習できる業務のポイントやコツ
マニュアルによって業務を学ぶことができる環境を整えられれば、教育の手間は削減されます。どのような対応をすればいいのか、動きのポイントや、見本となる言葉遣いなどがあれば、新人スタッフはマニュアルを見るだけで確認でき、自ら業務の質を向上させることができます。
また、分からなかったときに誰に聞けばいいのかが分かるようにしておくのも、教育の手間削減に繋がります。スタッフの役割分担はどうなっているのか?この業務の責任の所在はだれにあるのか?が把握できるようにしてあれば、新人スタッフはすぐに疑問を解消させることができるでしょう。また、質問によって見当違いの人の手を煩わせることもなくなります。
料理もマニュアル化することができれば、味とクオリティを担保できます。やはりここでも暗黙知を形式知に落とし込んだポイントやコツが重要です。料理に関するマニュアルは、とくにその工程を記録することが大事です。
項目 |
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・事例集 ・用語集 ・業務のワンポイント ・役割分担 |
工夫 |
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・画像や映像を用意して、視覚的に分かりやすくする ・音やにおいなど、情報を五感から書くようにする ・イレギュラーケースにすぐ対応できるように、考えられるイレギュラーケースの対応例をまとめておく |
法令や世相に合わせた最新情報
飲食業は料理やお酒を提供する場所です。口に物を入れるため、常に清潔感がある場所にしておかなければなりません。特に飲食店で注意しなければならないのが食中毒。衛生管理ができていないお店で万が一食中毒が出てしまえば、営業停止処分や閉店を余儀なくされ、こうなればお客様の安全を守れないどころか、従業員もその期間は働けなくなります。
また、現在は感染症対策を継続的に行わなくてはならない状況が続いています。常に最新の感染症の動向や対策、法令などを気にかけ、店としてしっかり対応したいものです。
それには、従業員の手洗い・うがい、体調の報告、食材管理、清掃など、マニュアルによる衛生管理の徹底は必要不可欠です。そして最新の対策方法や法令改正がなされる度にアップデートが必須です。前回の更新がいつだったのか、どこまで反映されているのかを確認できるようにすると良いです。
項目 |
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・チェックリスト ・項目の更新日 ・NG例 |
工夫 |
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・確認するべきことを、確認タイミングごとにチェックリストを用意する ・いつの法令改正にマニュアルを改訂したか確認できるようにする |
なお、複数の店舗でマニュアルを統一して使う時には〈マニュアル作成ツール〉が便利です。ツール上でデータを更新すれば、全体のマニュアルが同時に更新されるため、新しいマニュアルの配布や古いマニュアルの回収の手間が省けます。また、誤って古いマニュアルで運用されることも防げます。
飲食業のマニュアルの書き方
飲食業にはアルバイトスタッフも多い。そのような現場では、業務マニュアルでアルバイトスタッフの教育も賄えるものがいい。そのためには、初めて働く人にも伝わるように意識して書いていくことが大切です。
それでは、どのような書き方をすれば、初めて働く人にも伝わりやすくなるのでしょうか。ここではライティングの面からできるポイントを紹介します。
・専門用語に注を付ける
✕「お客様がお帰りになったら、ダスターを作って机をきれいに拭く」
〇「お客様がお帰りになったら、ダスター(布巾)を使って机をきれいに拭く」
・肯定文で書く
✕「お客様が退店される前に、お皿は下げません」
〇「お客様が退店されてから、お皿を下げます」
・「~と」と「または」を同時に使わない
✕「ドリンクを配膳する前に、次のものを用意してください。
ストローまたはマドラーとスプーン」
〇「ドリンクを配膳する前に、次のものを用意してください。
・ストローとスプーン
または
・マドラーとスプーン」
・箇条書きで書く
✕「お支払いの方法には、現金、クレジットカード、電子マネーの3種類があります。」
〇「お支払い方法には、次の3種類があります。
・現金
・クレジットカード
・電子マネー」
・行動と結果を分けて書く
✕「形を崩さないためには、氷に当てるようにしてゆっくり注げば作れます」
〇「氷に当てるようにしてゆっくり注ぐと、形がくずれずに作れます」
【飲食業のマニュアルを整えるポイント】
〇 初めて働く人にも理解できるようにする
〇 手順だけでなく、それによって目指す方向性が伝わるようにする
〇 最新の状況に従業員が一丸となって対応できるように、更新を行っていく