実例から学ぶ!「残業削減・休暇取得」を進める方法と注意点

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 働き方改革関連法の施行によって、残業時間の上限や有給休暇の取得について定められたのは、本連載の最初で確認したとおりである。他にも業務間に一定のインターバルを置くことが義務付けられ、2023年には残業時間が60時間を超えると残業代が1.5倍となる制度が中小企業にも適応される。

 現在、適切な業務時間・休暇の設定について、早急な対応が求められているのである。それでなくても、残業時間の削減や休暇取得の推進は、社員の意欲向上や離職率の低下、社会的信頼の向上など、メリットも多い。

 本記事では「長時間労働・休暇未取得」の改善について考える。長時間労働の是正や休暇取得率の向上を果たした企業の取り組み例を確認しながら、是正に必要なことを考えていく。

連載「働き方改革と中小企業」

 1. 中小企業の働き方改革~対応すべき内容と目指すべきこと
 2. 事例付き!「生産性向上」に結び付く環境とすぐ取り組むべきこと
 3. 実例から学ぶ!「残業削減・休暇取得」を進める方法と注意点
 4. 「人手不足」を解消!中小企業が行った具体的対策とポイント
 5. 成功例の共通点は?働き方改革で中小企業が目指すべき方向性

目次

「長時間労働・休暇未取得」の理由

長時間労働・休暇未取得」とは何か

 残業時間が減らず、有給休暇をはじめとした休暇の取得率が上がらないのはなぜであろうか。長時間労働や休暇未取得が発生してしまう理由には、次のことが考えられる。

  • 長時間労働の理由

  業務量が多い

  他に業務ができる人がいない

  マネジメントができていない

  残業する人は働き者という風潮

  • 休暇未取得の理由

  業務量が多い

  他に業務ができる人がいない

  休暇の取得に対する罪悪感

  仕事をする気がないと思われる

  (有給休暇について)緊急時のためにとっておきたい

 上記の理由は3種類に大別できるであろう。業務量の多さや業務の属人化という業務状況に関する問題、マネジメント技術という従業員個人の問題、そして「残業は働き者」「休暇を取る人は仕事する気がない人」という社内の雰囲気・風潮の問題である。

 長時間労働や休暇の未取得は従業員の疲労に繋がる。疲労が解消されなければ、業務のパフォーマンスも従業員のモチベーションも下がり、場合によっては離職に繋がってしまうこともある。また、ワークライフバランスが確保されない企業だと思われてしまっては、人材も集まりにくくなってしまう。後回しにせず早急に改善したい問題と言えよう。

残業時間削減・休暇取得推進を阻む要因

 なぜ残業時間の削減や休暇の取得促進の改善が進まないのであろうか。それは次のような要因が潜んでいるからであろう。

  • 業務の非効率な仕組み
  • 残業代・休日出勤ありきでないと生活が成り立たない状況
  • 長時間仕事をしている人が評価される制度
  • 残業・休暇未取得に対して疑問に思わない社風

 「生産性の低下」「人手不足」が「長時間労働・休暇未取得」を引き起こしている場合がある。また、長時間にわたる残業や休暇を取らない働き方を前提とした仕組みがあり、そのために残業や休暇未取得の状態について何も思わないという状態が生まれている可能性もある。

 このような要因を正すためには、「生産性の低下」「長時間労働・休暇未取得」「人手不足」の悪循環を断つ必要がある。そして同時に、残業ありきの労働や休暇を取らない働き方を是とする社内の仕組みや従業員の意識を改革することが必要なのである。

残業時間削減・休暇取得推進の事例

 残業削減・休暇促進に繋がる環境の創出と従業員の意識改革は、どのように行えばよいのであろうか。改善を果たした中小企業は、次のような取り組みを行っている。

業務を託して、安心して休める職場

株式会社パワーネット(派遣業)

 株式会社パワーネットは、派遣業を営む従業員13人の企業である。社員が全員女性であり、家庭との両立は企業の大きな問題であった。そのために力を入れた取り組みが、業務情報の共有である。

  • タイムマネジメントの徹底

 毎朝、各従業員は1日のスケジュールを立てる。もし目標達成が難しいと思われる場合には、情報を共有して応援を頼み、退社時までに目標とする仕事量をすべて終わらせることを習慣づけている。仕事の優先順位と目指すべきゴールを強く意識して効率よく働くことで、残業を排除する取り組みである。

  • 全業務のマニュアル化

 業務を全てマニュアル化し、資料の置き方を従業員共通としている。それにより、同僚が進めている仕事をいつでも誰でも引き継げる体制を作り上げている。担当者が不在でも業務が止まることはなく、担当者も安心して業務を託して休むことができる。

 株式会社パワーネットは、退社時までに目標としている仕事量を終わらせることが大切であると従業員に意識させている。それにより残業以外の方法で業務を完了させるかを考えることが浸透している。さらにマニュアルを作成することで業務の属人化の防止を行い、互いに支え合う意識を作り上げている。担当者が不在であることをマイナスとして捉えるのではなく、自分も安心して休めるというプラスの環境作りを達成した例である。

残業を手間にし、休暇取得を柔軟にした職場

アシザワ・ファインテック株式会社(製造業)

 アシザワ・ファインテック株式会社は2021年で創業118年になる微粉砕・分散機メーカーである。経営計画書に「社員の心身の安全や私生活との調和に配慮する」と明記し、社員145名の残業時間削減と年次有給休暇取得に力を入れている。

  • 残業を事前申請制にして必要性を確認

 残業は問題があるから発生するものであるという考えから、残業を事前申請制としている。もし2時間の残業が申請されれば、人手を増やせば時間短縮できるか、その日にやる必要がある業務なのかを確認し、可否を判断する。勤怠管理ツールと対話によって従業員の業務量を把握することで、働きすぎを是正している。

  • 長期間でも短時間でも取れる年次有給休暇

 年次有給休暇は時期を指定して平日5日間の取得(前後の土日と合わせて9連休)を推奨している。取得時期をカレンダーに記入し共有させることで、休みやすい雰囲気づくりを行っている。また、育児や傷病治療、介護などを行う従業員のために1時間単位でも使えるようにしている。

 残業の事前申請制という制度や、残業短縮のための対応策を話し合うことにより、残業は当たり前のことではないという意識を従業員に浸透させている。また、有給休暇の取得日はカレンダーに必ず記入させることで、休暇取得を当然のものにしている。 アシザワ・ファインテック株式会社も、コミュニケーションによって長時間労働の削減・休暇取得の推進の環境を創出している。

トップダウンで推進した職場

株式会社サカタ製作所(製造業)

 株式会社サカタ製作所は金属屋根部品の製造販売を行う、従業員156名の企業である。以前は残業が当たり前という雰囲気があったが、現在では月の平均残業時間が1時間、男性育休取得率は100%となっている。

  • トップダウンの残業時間削減推進

 残業時間前年比20%削減という役員会で決定した目標を無視して、社長が突如「残業時間ゼロ」を宣言した。社員から厳しい言葉が出たが「利益が出なくてもいい」と残業削減の方針を貫いた。誰もが半信半疑の中、仕事の属人化防止のため多能工の育成や、勉強会による知識の共有、ITを活用した業務効率化を推進し、会社が一体となって残業削減を目指す土壌を作った。

  • 年次有給休暇・男性社員の育休取得推進

 勤怠管理システムを導入したことにより、従業員の勤怠管理が容易になった。それを受けて柔軟に年次有給休暇が取得できるよう1時間単位の年休取得制度を確立した。また、男性社員が育休を取得しづらい雰囲気があることを知り、「育休は対象となる全社員が取らなければならない」と宣言。社員の不安を解消するべく、給付金制度の説明や取得者への表彰活動によって休暇取得を浸透させた。

 株式会社サカタ製作所はトップダウンで残業時間の削減と休暇取得の推進を行った。社員の前で方針を共有し、会社全体が目指すべき方向性を把握した上で、改善するためにどうすればいいかを考えながら改善を行っている。ただ宣言をするだけでなく、常に従業員の声に耳を傾けながら、よりよくするための方法を模索し続けている。

残業時間削減・休暇取得推進を目指して

急激な残業削減・休暇推進の危険性

 残業時間の削減や休暇取得の促進は大切なことである。しかし、労働時間の削減が可能な素地を作らずに、仕事量が多いまま、あるいは業務が属人化したままの状態で促進しまっては、次のようなひずみを生んでしまうであろう。

  • 仕事がまわらなくなる
  • 家に持ち帰って、もしくは早出をして仕事をする
  • 社内コミュニケーションが低下する
  • 教育の時間がとれず、業務が固定化する
  • 有給消化率が低下する
  • 従業員のモチベーションが低下する

 「自分がいなくては業務が終わらない」「こんな時に働かないなんて」と思わせてしまっては、残業も減らず休暇取得も進まない。残業削減・休暇促進のためには、業務量過多や人手不足など解決が必要である。その上で労働環境と従業員の意識を変革するのである。

残業時間削減・休暇取得推進の環境を整える方法

 労働環境と従業員の意識を変革するために、企業はどのような方法が取れるのであろうか。それは次のことであろう。

残業・休暇取得状況の見える化

 従業員の労働状況が把握できなくては、どのような問題が潜んでいるかを知ることはできない。まずはITツールの導入などで勤怠状況の実態を把握できる環境を整える。もし、実際の残業・早出時刻と申請時刻に差があれば、隠れ残業が発生しているであろう。中には長時間労働を行わず休暇を取得できている者もいるかもしれない。その場合は業務負担の偏りが存在する可能性や、効率的な業務方法が隠れている可能性がある。このように状況を見える化すれば、的確な是正を施しやすくなるのである。

業務の協力体制を整備

 業務を協力しあえる環境を整えることは、残業時間削減・休暇取得推進を行う上で大きな力となる。株式会社パワーネットはマニュアルを整備することによって、そのような環境を実現していた。業務が属人化しなければ、担当者の不在でも業務が滞ることはない。

 また、従業員同士のコミュニケーションも大切である。業務状況を共有できていれば「早い時間から複数人で対応すれば残業しなくてもよかったのに」といった状況も無くなるであろう。情報をリアルタイムに共有することによって、勤務時間内に業務を完遂させるための対応策が取れるようになるのである。

評価制度の整備

 評価制度が整っていなければ「長時間労働が正しい」「休暇取得は仕事をする気がない」といった風潮は変わらないであろう。何時間労働したかという判断基準ではなく、どれくらい成果が上がったかなどの本質的な部分で評価を行うように徹底すれば、従業員は成果の向上を目指して働くようになるであろう。

 例えば、チームごとに残業削減時間や休暇取得率で評価を行う方法もある。チーム内の風潮がどのようなものであれ、労働時間の短縮化や休暇の取得が評価に直結するため是正は促進する。また、企業によっては、残業“しない”手当や、賞与としての還元を導入することで是正を進めているところもある。

残業削減・休暇取得の制度化

 長時間労働の是正や休暇の取得を制度化することもひとつの方法である。 アシザワ・ファインテック株式会社のように残業申請制を導入したり、ノー残業デーを設けるなどがその例である。残業を前提としないことを制度として明示すれば、業務を時間内に終わらせるという意識が強まるであろう。

 休暇の取得についても同様である。有給取得推進期間の設定や、休暇予定日の共有を行えば、休みが取りづらい雰囲気は解消される。また、時間単位の休暇取得によって休み方を柔軟にするという方法もある。

体制や制度の徹底

 体制や制度が整ったとしても、誰かが活用しなくては社内環境は変わり始めないであろう。とくに上司が体制や制度を活用しなくては、従業員は活用しづらいものである。管理層が率先して帰る・休むことで、残業・休日未消化は当たり前のものではないと示すことが大切である。また、残業時間の削除を促すために、職場の電気を消す、パソコンの電源をオフにする、といった手段を取る企業もある。従業員が効率的に働かなくてはならない状況を強制的に作り出すのもひとつの方法である。

 長時間労働・休暇未取得」の改善のためには、業務の効率化なども重要であるが、やるべき仕事が終わった従業員が、胸を張って帰れる・休める環境をいかに作っていくかということこそが大切である。それを創出するには、従業員個人の努力では限界があり、ある程度のトップダウンで進めることが求められる。

 次回は「人手不足」について探る。人手不足の改善に取り組んだ中小企業の例を確認しながら、これからの働き方について考えていく。

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